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……逆らうつもりか?

あれから一年。

私は無事、洛山高校に合格し、現在赤司先輩率いる男子バスケットボール部のマネージャーとなることができた。

赤司先輩が卒業してから、私はひたすら勉強を頑張った。先輩も電話やメールをちょくちょくしてくれて、赤司先輩の声が聞けるたびにさらに勉強への意欲が高まった。

恋の力ってすごいなあ、とぼんやり思う。赤司先輩のためだったら、なんだってできそうな気がするし。私の脳内はほとんど赤司先輩で占められているようなものだ。




今日も赤司先輩は一生懸命練習を頑張っている。

私は一緒に残って先輩の練習の手伝いをしていた。

赤司先輩はキセキの世代と呼ばれているだけあってもともとの素質がぴかぴか光っている。赤司先輩の全身からそんなのが見えるみたいだ。それをさらにぴっかぴかに光らせて勝利を得るために先輩は頑張っている。他の誰よりも練習して練習してとことん自分を追い込んで汗を滲ませ見ているこっちがもうやめてくださいって言いたくなるくらい。

こんなときの赤司先輩の表情というのはたまらなく愛おしくなる。淡々とやっているように見えるが、そこにほんの少しだけ"欲"が混じったような雰囲気がある。

私が赤司先輩のことを勝手にわかった気になるのは嫌だけど、たぶんあの欲は勝利のための欲だ。いくら勝利が呼吸をすることと同じと言ったってそれでも欲がないわけがない。

勝利を欲してがんばる姿になんだかきゅんとくるのだ。

赤司先輩はなにをやってもかっこいいけど、このときの姿が私は一番好きだ。


ただ、今日はほんの少しだけ先輩の様子がおかしい。

淡々と練習しているように見えるけれど、どうしてだろう。足を、庇っているような・・・?


「赤司先輩。」


私は心配になって先輩に声をかけた。いつもは邪魔をしたくないから声をかけず手伝うだけだが、もし足に何かあるのなら別だ。

先輩はボールを抱え、こちらを見た。


「どうした?」


「あ、あの・・・」


呼びかけたのはいいものの、はっきり足のことを指摘しても良いのだろうかという思いが湧き上がる。

あの完璧な赤司先輩のことだ。人に自分の欠点でなくても指摘されるというのは不快ではないだろうか。

もし、指摘して嫌われてしまったら・・・そう思うと、おろおろと言い出せなくなってしまった。


「・・・何か、あったのかい?」


おろおろしている私に何かあったとでも思ったのだろうか、赤司先輩が練習をやめ私の顔を覗き込む。あまりの顔の近さにぶわわっと顔が熱くなって、声が出せなくなって、ぶんぶんと首がもげそうなくらい首を振ると、赤司先輩は怪訝そうな顔をした。

こちらに歩み寄ってくるときも、赤司先輩は普通だった。けれど、どこか違和感がぬぐえない。

赤司先輩には無理してほしくない。けれど指摘してもし嫌われたらと思うと言い出せない。

それなら、どうしよう。


「なら、どうした?」


赤司先輩がそっと、頬に手を当てる。赤司先輩の優しさとかっこよさと手のひらの温かさと大きさと・・・言い表せないくらいいっぱいのぎゅって詰まったものがとめどなく押し寄せて、頭がパンクしそう。


「な、ななななんでもないです。」


ひどくどもりながらそういうと、赤司先輩は頬からすっと手を引き、「そうかい?」と不思議そうな顔をした。


「なんでもないので、本当に。」


やっと落ち着いた心で凛とした声を出すと、赤司先輩は微笑んでまた練習に戻った。


やはりなんともなさそうだった。

きっと気のせいだと思いながら私は笑顔で赤司先輩の練習を手伝った。

ただ、はっきりとしない違和感は心に引っかかり続けた。



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その違和感が正体を現したのはそれから一週間後だった。

赤司先輩の様子に対する違和感というのは日に日に増していき、それに伴って心配と不安が増す中、無理をしないでほしいということすらいえずに私はマネージャーとして仕事をしていた。

ふと、練習風景を見ていたときだった。

赤司先輩が走りながら一瞬顔を顰めたのだ。それは誰かの行動を不快に感じたとか、そういう様子ではなく走っているときに。

ずっと気になっていた違和感が正体を現した。やっぱり赤司先輩は足をかばっている。


私は監督の元へと許可をもらいにいき、それから休憩時間になるまで待った。


休憩時間に入り、それぞれ用意されたドリンクを飲んだり、タオルで汗を拭いたりとしている中、私は赤司先輩のもとへと向かった。


「赤司先輩!」


赤司先輩はタオルで汗を拭きながら、こちらを向いた。そういうなんでもないしぐさがかっこいいから困る。


「なんだい。」


不思議そうな顔をする赤司先輩に私は息を大きく吸い込むと言った。


「先輩。監督の許可はもらいました。休んでください。」


いったい何を言っているんだといわんばかりに眉を寄せる赤司先輩。


「どうして?僕はいたって健康だ。」


「でも、足を庇ってますよね?」


まさか気づかれると思っていなかったのだろう、赤司先輩は色違いの双眸を見開いた。


「・・・僕には何のことかわからない。」


赤司先輩の目がすっと細められる。ううう、怒ってらっしゃる。けど、やっぱり無理はしてほしくない。嫌われても赤司先輩の体のほうが大事だ。


「と、とにかく休んでください。」


「僕には何の異常もない。」


「無理してほしくないんです。」


そのときちょうど休憩時間が終わった。赤司先輩が練習に戻ろうとするので前に立ちふさがる。今、ここで無理をしたらさらに無理をして足を悪化させてしまう。自己管理はしっかりできている赤司先輩だから、そこまで足がひどいというわけではないと思うけれど小さいうちに直しておくのが一番だ。


「・・・そこをどいてくれ。」


鳥肌が立つような恐怖の瞳が私に向けられる。びくり、体を震わせながら、私は先輩の前に立ちふさがる。


「だめです。」


毅然とした態度を何とか作って私は先輩の前に立ちふさがり続けた。


「・・・逆らうつもりか?」


赤司先輩が、殺気を放ち私をにらむ。今すぐにでもこの場をどきたいくらい怖い。けれどだめだ。


「・・・はい。」


このまま殺されるのでは、と思った。赤司先輩から発せられる殺気が尋常じゃない。

けれど、私が返事をした瞬間にその殺気は消えた。

変わりにふわりと私を赤司先輩が包む。待っていた部員たちが冷やかす声が聞こえて恥ずかしくなったけれど、赤司先輩を退けるなんてありえない。


「・・・試したかいがあったものだ。」


「へ?」


赤司先輩は私を抱きしめながらポツリと一言そういった。




?



(あれ、演技だったんですか!?)


(君に心配してほしくてね。小さな変化でも見逃さず見つけてくれてうれしかったよ。)


(・・・何にもなくてよかったです。)


(ありがとう。・・・好きだよ、なまえ。)


(っ!!)




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