僕についてくればいい
「赤司先輩!」
渡り廊下の先に、赤司先輩を見つけた。思わず私は赤司先輩の名前を呼んで駆け出す。廊下で走っちゃだめだってわかってるけど、でも走らずにはいられなかった。
信じられないことを聞いた。だって、あの赤司先輩が。部長が。
「あの、あのっ・・・!!」
「なんだい。」
興味なさげな無表情の赤司先輩を見上げ、私は言葉を詰まらせながらも必死で聞いた。
「洛山高校に、いくって・・・ほんとですか・・・?」
「あぁ、そうだけど。」
赤司先輩はなんでもないようにさらっと言ってのける。しゅん、と自分の中の何かがしぼんでいく気がした。
そうだよね。だって洛山高校って言ったら、開闢の帝王っていわれるくらい強いんだもん。超強豪校だもんね。それにあの高校には無冠の五将が三人もいるって言うし。
いくら私と赤司先輩が付き合っているって言ったって、私が赤司先輩の将来の邪魔はできないし許されない。それに赤司先輩と付き合ってるって言っても私ばっかりが好きで、赤司先輩のほうは私に好きといってくれたことはないわけで、彼が私を好きなのかどうかさえ怪しいのだ。その割には別れようとは言ってこない。なんでかなあ・・・あ、ちょっと考えが脱線した。
とにかくいろいろ考えたって仕方ない。赤司先輩の邪魔になることはしたくない。
「・・・そうですか・・・あの、急にすいません。ありがとうございました。」
私は赤司先輩に軽くお辞儀をするとくるりと先輩に背を向けた。
今は休み時間で、赤司先輩も私も授業を受けないといけないし赤司先輩は移動教室のようでそのときに呼び止めてしまったし。
早く教室へ帰ろう。それからうんと落ち込もう。そう思って歩きだそうとしたその時。
「きゃ、」
ぐん、と急に引っ張られて私は後ろに傾いた。バランスが崩れて倒れるかと体をこわばらせるも、ぽすっ、と私の大好きな温かさに包まれて安堵する。
赤司先輩に引き止められたのだ、と分かるととても嬉しくて分けもなくちょっぴり泣きたくなるくらい切なくなった。
「・・・さみしいのか。」
ほんの少しだけ温かい静かな声で赤司先輩は問いかける。
背中に温もりを感じながら正直に頷くと、先輩は呆れからかため息をついた。ため息、つかれてしまった。私のこと嫌いになってしまっただろうか。私をめんどくさい女だと思ってしまっただろうか。いやだ、嫌いにならないで。大好きなの、赤司先輩。先輩。
「寂しがる必要がどこにある。」
「だって、京都って・・・遠いです。」
「今を何時代だと思ってる?携帯があるじゃないか」
「でも、会えなくなっちゃう・・・」
赤司先輩と、会えないなんて寂しいよ。
会えないと思うととても泣きたくなった。赤司先輩のいく高校だったらめちゃくちゃ頭がいいはずだ。こんな平々凡々な頭の私が通れるはずもない。携帯持ってるって言っても、私から送っても赤司先輩から返信は来ない。メールも電話も赤司先輩から来るのを私は待つばかり。しかもメールや電話が来たとしても内容には甘さなど欠片もない事務的なことで、私ばっかりが好きみたいで、赤司先輩に無理させてるんじゃないか、本当は赤司先輩は私のことなんかどうだっていいんじゃないかとそう思ってしまうのだ。
そんな内容のことを涙声になりながらつらつらと語ると赤司先輩は後ろから私を抱きしめた。
どきん、と心臓が跳ねて頬がみるみる赤くなるのがわかった。こんなこと赤司先輩からしてもらったのは初めてだ。いつも私が先輩にお願いするばっかりだったのに。
「洛山はなまえでも行けるよ。」
「本当・・・?」
「あぁ。それに、心配する必要はない。僕を誰だと思ってる。」
「赤司先輩・・・!」
私は、とても嬉しくて嬉しくて今度こそ泣き出した。くるっと先輩に向きなおって抱きつく。
「黙って僕についてくればいい。」
赤司先輩はそういって私の額にひとつキスしてくれた。
「好きだよ、なまえ」
初めて言ってくれた好きという言葉が胸にほかほかした温かみを与える。
「せんぱい、私も好きです。大好きです。」
周りに人がいっぱいいるとわかっていても私はそういって予鈴が鳴るまで赤司先輩に抱きついていた。
僕についてくればいい
(あ、赤司っち・・・え・・・うひゃーーー!)
(どうしたんですか黄瀬君。・・・あ。)
(赤司っち、男前っス。)
(そうですね。黄瀬君と違って。)
(え!?黒子っちひどい!)