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きみの心に触れさせて

「あ、おった!」


パタパタという音を立てながら走ってきたなまえの姿を見て、俺は一つため息をついた。

相変わらず走るなといっても走っているなまえはこれから確実にこける。

そして俺はそれを受け止める。

頭の中に予知夢のようにイメージされる光景に俺はきちんとなまえを受け止められるように心構えた。


「金造、もう今までどこにおっ・・・わっ!!」


イメージのとおりなまえはこけた。

すかさずなまえの体を支える。イメージどおり過ぎて怖いくらいだ。


「っと・・・まったく、危なっかしいやつやな。もっと気ぃつけや!!」


支えた体勢のままそのつむじへ向けて怒鳴った。


「ご、ごめっ・・・次は気ぃつける。」


「もう何度目や、その言葉。」


きちんとたったなまえから手を離しこけなかったことへの安堵とあきれの混じったため息を漏らす。


「そういえば、どないしたんや。」


しゅん、と暗くなりうつむいたなまえに少し言い過ぎたかと思い話題を転換させた。

単純ななまえは思い出したように顔を上げて切羽詰った様子で言った。


「あ、あんな、金造にお客さんがきとるんよ!
めっちゃ美人でな、しかもなんや、こう・・・・ぼんきゅっぱ!みたいな。」


美人でぼんきゅっぱ?

そんな奴しらん、と思いながらもなまえに案内され客間へといった。






「・・・・・ほんまに、あの美奈か?」


「そうよぉ、あたしよ?」


客と聞き、中にいたのは、けばくて香水の少しきつい女だった。

そして誰かと訊けば昔付き合ったことのあった美奈だった。

胸元を大胆に見せた服に短めなスカート。

昔は飾り気はなかったが素直で明るいいいやつだった。

・・・・・・・・・・そう、なまえみたいな。


「みちがえたでしょう?あたし。」


「あ、ああ、見違えたな。」


戸惑いと驚きを隠せずどもりながら応えればふふん、と美奈は自慢げに鼻を鳴らした。





見違えるというより豹変した元彼女は、きつい香水を振りまきながら帰っていった。











「金造!!あのぼんきゅっぱな人誰!?」


なまえはただ純粋に訊いてくれているのだと分かっている。

だが、好意を寄せてくれているのだろうかと心の片隅で期待してしまって。

あー、めんどいなぁ、と表面上ため息をつきながらなまえの質問に答えた。


「元カノや元カノ。」


「か、かのじょさん?」


「元やけどな、もと。」


元を強調したがなまえには届いてなかった。


「すごいやん、金造!彼女おったなんてな!」


いや、せやから元や、元。


「美人でぼんきゅっぱやったしなぁ。」


俺がそんな奴が好きだと思っているんか、こいつは。


「はぁ、うちもそんな人おればいいんやけどなぁ・・・・」


「!」


・・・・・・・・・・・カチン。そんな音が今の瞬間には当てはまるような気がした。それと同時に頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。

思わず俺がよろけそうになるほど。


俺は思わずなまえの両腕をつかんでいた。


「わっ・・・金造?」


肩をすくめて驚いたようにしたから見上げたなまえに何かが切れそうだった。

俺の中の脆くてちょっと弾けばすぐに千切れてしまいそうなもので。

その何かを必死でつなぎとめ、そのまま真っ直ぐなまえを見つめる。


「俺は・・・・俺は、そないな奴に見えるか。」


「え、きんぞ・・・」


「俺は、お前の眼中には入っとらんのか。」


必死でこらえていた。自分の中から湧き出す怒りと少し混じった悔しさのような。

どうして今俺はなまえに触れているのに。触れることだって、存在を確かめて抱きしめてだってあげれるのに。

なのに俺は、どうして。なまえ自身には触れられない。なまえには伝わらない。


必死にこらえるあまり、俺の手には力がこもりすぎていた。


「きんぞ、痛い。」


「っ。」


痛く、切なそうな表情のなまえをみてハッとした。

俺はなんてことをしているのだろう。か弱い、しかも自分が好いている女に。

ゆるゆると力を抜けば、なまえは「どうしたの」と怖い思いをさせられた相手である俺の手を両手で包み込むように握った。


「なまえ、すまん。」


「ねぇ、金造、どないしたの。」


「ほんまに、すまん・・・・」


俺は、自然となまえを抱きしめていた。


「き、きんぞうっ?」


抱きしめられた形のまま上を見上げ、俺の顔を必死に見ようとする。

俺は女々しい顔になっている自分を見られたくなくて、なまえの頭を俺の胸に押し付けた。


「悪いと思ってるんならええよ!それにそこまで痛くなかったから!」


にかっ、と笑って見せたなまえ。

その姿は強がりではなかったが、少し俺への気遣いが混じっていて、俺はもう一度謝った。


「せやから、ええって!」


笑うなまえはいつものなまえだった。

そのことに俺はほっとしたけれど、同時になんだか切ないような感覚があった。




これから、もっともっとアピールしていこう。



(おい、なまえ!)


(うあっ、き、金造!)


(?どないした。)


(な、なんでもない!)


(そうか。・・・・そういや今日の服、似合うとるな。)


(っっ!)




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