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眠る君に秘密の愛を




カチ、カチ、という規則正しい音が教室に響いていた。

ぽかぽか陽気の心地よい温度と光が窓から降り注いでいる。自分の席の椅子に座って、気持ちよさそうに眠っているなまえがいる。

頬は少し赤くて、幸せな夢をみたのか微笑んでいた。


「・・・まぁーた、こんなところで寝とる。」


がしがしと後頭部を掻き、やれやれとため息を一つ。

無防備に寝顔さらして、なにやっとるんやあいつは。

忘れ物をとりにきただけなはずが、もう一つやらなければならないことが増えた。

なまえを起こし、寮に送り届けねばならない。

なまえはいろんなところでよく寝る。夜早く寝ろといっても、本を夜に読み、寝よう寝ようと思いながらも気づけば最後まで本を読んでいてほとんど徹夜に近い状態になってしまうと本人は言う。

だから授業中でも、昼休みでも、校庭でも放課後の教室でも、時間も場所も周りの迷惑もまったく関係なしに熟睡だ(授業中も寝てるくせに以外と頭はいいほう)。

授業中だと先生に教科書で殴られても起きやしない。

起こせるのはほかよりも荒っぽくなまえを起こすことのできる俺だけやった。


よし、今回はどんなふうにひどく起こしてやろうか。

悪戯心がうずく。

気づかれないように近づいて(少しくらい騒いでもなまえはおきないが)隣に来た。

寝顔を覗き込んで、本当に目を覚ましていないか、頬を少しつついたりしてみる。

すやすやと寝ているなまえを確認した。


にやりと、一つ思わずにやける顔を抑えようとしても抑えられない。

息を整えて、そーっと手を動かそうとし・・・・・そのとき。


「んぅ・・・・・・」


「っっ。」


ばっ、と瞬時になまえから離れた。

まさか、起こさずともなまえが起きたというのか。


ありえない、と思いながらもまさかという気持ちもあり、ごくりと口にたまるつばを飲み込む。

のどを上下させてそれを飲み込んだあとはしばらく時計の秒針が傾いていく音だけが聞こえた。


「・・・・・・ふふ・・」


「は?」


なまえは小さく笑みを漏らした。その後はずっと何も言わなかった。

ちょっと、体が微妙に動いたときはびくりと柄にも無く震えた。

しかししばらくすると、また眠るときのすぅすぅという呼吸音が聞こえる。

俺はほっと胸をなでおろした。


もう一度、なまえを起こそうかと思ったが。

小さく笑みを漏らしたときの幸せそうに寝ている様子が頭から離れなかった。

ふわっとした笑みを浮かべて、透き通った声で声を漏らされると今から自分がしようとしていることがすごく悪くて汚いことをしているみたいでいたたまれなくなる。

俺はあがりかけていた手をふぅ、と息を吐き出して手をだらりと下ろした。


なまえの席の隣に腰を下ろす。ちょうどその席はなまえの顔が見える位置だ。

やはり、幸せそうに寝る奴だと思う。

しかも、窓から差し込む柔らかな光とかいつもは気づかないけれど茶色めでちょっと癖のある髪の毛が透き通っている感じとか、どこか浮世離れしたような幻想的な雰囲気を思い起こさせる。髪が一房ほど頬にたれてきているので耳にかけてやりたい。

そーっとたれた髪を耳にかけた。

柔らかい頬に触れて先ほどは何も感じなかったのに今はドキドキする。震えそうになる手を何とか押さえながら髪を戻した。


意識するとどんどん目の前にいる無防備すぎるなまえに触れたくなる。

なんだろうかこの気持ちは。

胸の辺りにざわざわともやもやと何かが渦巻いてそして心臓の鼓動はうるさいほどに聞こえてくる。罪悪感にも似た胸のしまる様な感覚があって。どうしたらいい。触れたい。そう湧き上がってきてのど元で出かかって止まってしまう押し寄せる感情。


「・・・・・・ん・・・」


なまえの声を聞いて分かった。

胸に何かが渦巻くのも、心臓がうるさいほどに鼓動しているのも、触れたいと思ってしまうのも全て、すべて。


俺がこいつを好きなのだということ。


気がつくと顔が熱くなった。

俺は眠っていて何もしていないなまえに負けた気分になって悔しいと思った。

でもこのままずっとなまえを見ていると自分が何をしてしまうか分からない(野獣か、俺は。)ので耳のふちを指でなぞって耳元で言ってみた。


「好きや、なまえ。」


と。








(まだ面と向かって告白する勇気は無いけど、)


(絶対、お前を金造様の恋人にしたる!)









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