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口実

「なまえおるか?」


「なんですか、金造さん・・・って、またですかぁ〜?」


金造さんに呼ばれ、ひょっこり顔を出した。

今、任務の報告書や、明日の任務の資料をまとめている最中である。

そんな多忙な中、金造さんが毎度鬼のごとく自分の仕事を私に押し付けにきた。

金造さんにかまっている余裕なんて本当はあるはずがないのにわざわざ呼びかけにこたえてやっているのだ。その上さらに仕事を押し付けようというのか。


「今回ばかりは無理です私の机の上のこの紙の束見て分かりますよね自分でやるか柔造さんにでも押し付けてくださいということで私は自分の仕事に戻るので。」


ぎろりと金造さんを睨み一息で言いたいことすべてを早口で言って私は仕事に戻った。


「柔兄に断られたからお前のところにきとるんやろ?」


さも当たり前かのようにいう金造さん。こういうときは黙殺するに限る。


「おい、なまえ〜。」


無視だ無視。っていうかお願い黙って金造さん。仕事に集中できないから。

捨てられそうな犬みたいなうるうるな目しなくて良いから。


「なあ、なまえ。」


ああもう本当にやめて。声までそんな悲しそうにしたら本当に仕事してあげたくなるじゃん。

今回ばっかりは私もぶっ倒れちゃうんだから無理だって。


「俺、今右手ケガしとんねん。」


「えっ!?うそ、どこです!?」


無視しようと決めていたのに怪我をしていると聞いてしまって思わず金造さんのほうを見てしまった。


「やっとこっち向いてくれたな。」


すると金造さんはニヤニヤ笑ってて。うそか・・・!!と気づいたときにはもう遅い。


「うそですか!ああもう知りません。もし仮に金造さんが怪我してようがなんだろーがもう知りませんから。」


私はぷいっとそっぽむく。


「そんな怒らんといてや。こっち向いてほしいだけやったんやし。」


「子供ですかあなたは!かまってほしくてしょうがないんですか!?」


「おん。なまえにかまってほしい。」


「ほかの人に当たってください。錦ちゃんとか青ちゃんだったら喜んであなたの喧嘩相手になってくれます。」


「なまえじゃなきゃあかん。」


「今仕事中なので。」


「・・・・じゃあ、仕事が終わったらええんか?」


「・・・は?」


軽口みたいにリズムのいい会話が急にがらりと変わった。

思わず金造さんのほうを向けば金造さんは私を真剣な表情で見ている。

え・・・。いったい彼は急にどうしたというのだろう。


「仕事が終わったら、ええんか?」


もう一度繰り返し聞いてくる金造さんに私は自分がボーっとしていたことに気づいてはっとわれに返る。


「え・・・まあ、そうですね。」


確かに、仕事が終わったら大丈夫だ。

っていうかそこまでして金造さんは私にかまってほしいというのだろうか。

金造さんが何を考えているのか私にはちっとも分からなくて戸惑う。


「なら、仕事終わったら迎えにくるから、待っとれよ。」


金造さんが真剣な表情でそういうものだから私は


「は、はい・・・」


と返事をした。







結局彼は、私が好きだったのだ。

わかったのは彼と付き合い始めてからだった。


(私に会うために書類押し付けようとするとか、どんだけ鬼なんです、金造さん。)


(しゃあないやろ、それしか思いつかんかったんやし。)


(ほんと阿呆ですよね金造さん。)


(なんやと!?)


(でも、全部ひっくるめて好きですよ。)


(っ!!)




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