今この瞬間
「わぁ、かわいい!!」
そう騒がれているのは、道端にいた子犬だった。
ダンボールの中にちょこんと座って、目をうるうると悲しげに見開いている。
そのまわりを女子たちが囲んでいた。
俺となまえは、ちょっと立ちどまってその犬を見てみた。
・・・・本当に愛らしい。
俺はそう思った。
隣にいるなまえも騒ぎはしなかったが「可愛いね。」と一言。
今、俺らはじゃんけんに負けてパシられている最中だった。
なまえは可愛くて優しくて、いい奴だ。
だから志摩とか勝呂とかもなまえが好きだし、俺も好きだ。
俺の知っている範囲ではもっとなまえを好きな奴はたくさんいるということを俺は知っている。
なまえだけがその存在を知らない。
今回のじゃんけんだって、志摩は負けていないのに一緒に行くと言い出してなまえと一緒に出てくるのに苦労した。
だけどなまえは鈍感なのか分からないけどまったくといっていいほど気づかない。
くっそ、気づいてくれよと思うときもあるけど、今でも十分なくらい近くに入れているので満足だ。
ただ無言でじっと子犬を見続けているといつの間にかキャーキャー騒いでいた女子たちは歩いて去っていっており、俺となまえだけが子犬の前に残った。
「ねぇ、燐。」
「なんだ?」
「この子、飼うことできないかな。」
「は!?」
なまえのびっくりするような発言に俺はへんな声を上げた。
寮では犬を飼うことはできないのだ。
「どこかに、匿ったりして・・・・だめかな?」
子犬を抱きかかえながらいうなまえ。どうやら心は決まったらしい。
俺はそうだなぁと後頭部を掻きながらいった。
「俺らの今いる、寮の裏とか・・・?」
「い、いいの!?」
「反対したってお前ぜってー飼うっていうだろ。」
「うん、」
えへへと笑う顔に思わずきゅんとくる。
なまえはそんな俺をよそに子犬のほうを向いた。
「よかったね!・・・・えーと、名前なんにしよう。」
「なんでもいいんじゃねーか?」
「うーん・・・でもポチとかだとありきたりでかわいそうでしょ。」
「あ!俺思いついた!」
「え、なになに?」
俺は自慢げに言った。
「こいつ、マーブルみてぇな模様してるから、マーブルだ!」
「マーブル?いいね、それ!マーブルにしよう!
今日から君はマーブルだよ!!」
そういってなまえはマーブルと名づけられた子犬と鼻をこすり合わせる。
な、な、な・・・・!!
俺はその場で固まった。
なんとも羨ましい犬だ!
あったばっかりのなまえに心を許されしかも至近距離で顔を合わせてるとか・・・!!!
くっそう、と犬を睨みつけてみれば。
そいつは目だけこちらを見つめ、鼻で笑った気がした。
今この瞬間
俺は犬とすりかわりたい、と思った。
(こいつ、ぜってぇ雄だ。)
(え?燐、なんでわかるの。)