▽ 挨拶1
アルトは科学班の面子に引っ張りだこにされているときに、娟の目が覚めたという知らせを聞いた。
「娟にはあとどれぐらいで会えるんでしょうか。」
科学班の班長であるというリーバに聞いてみる。科学班は多忙らしく、全員が仕事をしながら他のことにも応対しているので、これくらいだったら大丈夫だろうときちんと考えた上での質問だったのだが。
「ん?」
とリーバーはわざわざ仕事の手を止めてアルトのほうへと向き直った。アルトは、もしかしたら自分の能力が影響してしまったのかもしれないと、ほんの少し申し訳なく思うものの、そんなことよりも心配なことを優先させた。
「ああ、たぶんこれから神田が連れてくるはずだよ。」
「神田さんが、ですか。」
「大丈夫だ。室長がちゃんと彼女の能力を制御するイヤリングを作ったから。」
「そうですか・・・」
「あ、来たぞ。」
ちょうどそのとき、神田が科学班へとやってきた。
その後ろから娟が現れる様子を予想して笑顔で迎え入れる準備をするくらい、アルトは娟と会うのが待ち遠しかった。しかし、アルトの期待に反して、娟は現れない。それどころか神田は娟を連れてくるということなどまるでなかったかのように、コムイのいる室長室へと姿を消した。
「えっと、リーバーさん?」
「なんでだ?」
どうやらリーバーも神田が娟を連れていないことに驚いているらしい。
「ちょっと、室長に聞いてくる。」
リーバーはややあわて気味に席を立つと早足で紙類の散乱するごみ部屋へと入っていった。
何か特別な事情があったのか。それともただ単に神田が娟を連れて行くことを忘れているのか。どちらであっても心配である。
アルトは娟が今頃迷子にはなっているのではないかと不安だった。故郷のように、知り尽くしているような場所であればすぐに探しに出るのに、と歯がゆさも積もる。
リーバーが室長室から出てきた。
「あー、わり。ちょっと探してくる。アルトはここにいてくれ。」
リーバーはそういうとどこかへ去っていった。その直後に神田が室長室から出てきた。彼は出会ったときのように、黒の生地に銀の装飾がついたロングコートを羽織っていた。どこか外へ行くようである。
神田はアルトに気づくと一度アルトを見、そしてもう一度アルトを見て、何処かへ行った。
一体なんなのだろう。アルトは首を傾げた。
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