▽ 思遣2
イノセンスの回収は、つつがなく終わった。
別れを決意した恋人たちは、アイラが消えるまで無言でじっと見つめ合っていた。
笑顔で別れようと決意したらしい二人は、ずっと、微笑みをたたえて、涙は見せなかった。
こういう場面に何かを感じるほど繊細な感情を持ち合わせているつもりはないが、隣で見守っていた娟がきゅっと両手を握り込んでいたので、神田は腕が少しばかり触れる程度に娟に寄り添って、事が終わるまで佇んだ。
セオは、しばらくアイラが消えた場所に留まるというので、娟と神田は、イノセンスも回収したため、教団へ帰還することにした。
娟はセオに何か声をかけたそうにしていたが、かける言葉など、浮かぶわけがない。後ろ髪引かれる顔をしていたが、神田がなんの情緒もなく去り始めると、おいていかれぬように追従した。
そうして、二人は教団へ帰還した。
「報告書は、俺が。お前はイノセンス担当」
報告書は神田がまとめることとし、ヘブラスカへイノセンスを渡す役目を娟に与えた。
「いってきます、お疲れさまでした」
娟と神田は、解散した。
ヘブラスカの間へ向かう娟の後ろ姿を見えなくなるまで見送ってから、神田もコムイのいる司令室へと向かった。
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