cold body/hot heart | ナノ

▽ 凛乎2


施設に来た娟と神田は、さっそく中を見て回った。
もともと恐怖の館として廃屋のような外観だったが、人々が忌避するようになってしばらくたった今は、外壁がやや風化している。手入れがなされているはずもなく、手荒く扱えば、今にも全壊してしまいそうだ。
中はほこりっぽく、灰塵が空中を漂っている。もともと日が差し込まないような設計になっていたようで、懐中電灯でもなければ、大抵の人間には足元がおぼつかないだろう。
娟も気にかけておいたほうがいいかと思われたが、思ったよりも、娟はしっかりとした足取りで進んでいた。夜目でもきくのかもしれない。
ファインダーも神田も、どちらも探索行為には慣れたもので、暗闇でも難なく進んでいた。

わずかな殺気にも対応できるように、皮膚の産毛がアンテナのように伸びているのかと錯覚するくらい、神田とファインダーは周囲にアンテナを貼っていた。どこかからの隙間風だろうか、僅かな気流が産毛を揺らすのにも敏感だ。

対する娟には緊張感はみられない。周囲に気を配っている様子はみられるが、自然体に近い。

「おい、もっと警戒しろ」

神田が注意をすると、娟はきょとんとした。

「いつ、AKUMAが襲ってくるかわからないだろ」

なぜ警戒が必要なのか理由を説明しても、娟は首をかしげる。

「AKUMAの嫌な気配は、まだ、ないような……」

「は?」

「えっあの、ごめんなさい、もっと気をつけます」

「その嫌な気配って、なんだ」

「AKUMAの、嫌な気配です……」

どうやら娟はAKUMAの独特の気配というものを認識しているようだ。
殺気以外で、AKUMAの気配を感じ取ったことのない神田からすると娟の言っていることには疑いの余地がある。しかしこんなところで嘘をついたりましてや冗談をいうような人間性を娟が持ち合わせているとは思えず、そしてただのバカであるという可能性もゼロに近いので、神田は娟のいっていることを頼りにしてみようと思った。

「その嫌な気配ってやつ、感じたら俺たちに伝えろ。いいな」

神田は娟を先頭に立たせることにした。殺気が放たれた瞬間からしか対応できない神田とファインダーよりも、殺気を放ち行動を起こす前のAKUMAの気配を感じ取れる娟のほうが防御の初動が早くなるのは必然のことだったからだ。

奥へ奥へと進んでいく。

娟はいつもの速さと同程度の速度で歩みを進めている。驚くべき気配探知能力だ。
これは今後もきっと活かされるだろう。
神田は感心しながら追従した。

二手に分かれた館の廊下の突き当りで、ぴたり、と娟が立ち止まった。首をかしげている。

「右には……人がいる気がします。左は、嫌な感じと、不思議な感じが……」

右手には人がいるのは確かだが、左手に感じる気配がAKUMAのものともなんとも言えないためか、娟は判断がつかないようだ。

「エクソシスト様、右手には私が。エクソシスト様方は左側へ」

人命保護より、イノセンスを重視してほしいという思いからくる提案だろう。

「ゴーレムで連絡を取る」

神田はファインダーに人間への対応は任せ、神田は娟とともに左手へ向かった。
娟はファインダー一人を置いていくことが気になるらしいが、構わず進んだ。

進んだ先には、ドアがあり、わずかながらにあわい白色の光が漏れいでていた。あまり強い光ではないが、何か不思議な現象が奥で起こっていることは確かだろう。娟にドアから離れるよう指示し、神田は注意深くドアを開いた。

あわい白色の光源がなにによるものか、すぐに神田は理解することになる。

薄ぼんやりとした光の玉を核にもつ、半透明の人間たちが複数いたのだった。

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