cold body/hot heart | ナノ

▽ 姉弟2


娟とアルトは室長室を後にした後もしばらく手を繋いで歩いた。特に決めていたわけではないが、自然と二人はじっくりとお互いに話し合おうとアルトの部屋へと向かっていた。

「いつから知ってたの?」

部屋のドアを閉めてすぐ、娟はアルトに尋ねた。自ずと娟が会話の主導権を握ることになったが、これはめったにないことである。娟が山ほど言いたいことがあったからそうなったという理由もあるが。とにかく娟はアルトが秘密を隠していた理由や、どう思っているかなど全て聞きたいのである。アルトと向き合うこと以外で一番大切なことはないと思っているからだ。母を亡くしてからアルトだけが娟を大切にしてくれる存在だった。だから娟はアルトとは常に最大限信頼しあえる仲でいたかった。

「実は、村を出発する前からなんだ。」

「そんなに前から・・・」

アルトがそんなに前から秘密を一人で抱えていたことに驚いた。

「どうして隠していたの?」

娟が尋ねるとアルトは泣きそうな顔になった。少し目のふちが赤くなり始める。

「アルト?」

どうして急にそんな表情になるかわからなくて娟は戸惑った。きゅっと唇を噛むアルトが縮こまっていく。

「・・・怖かったんだ。」

アルトのかすれ声が聞こえた。

「娟のお母さんが、って僕のお母さんでもあるんだけど、亡くなったのが僕のせいだって娟に思われるかもって思ったら怖くて。」

アルトの涙が彼のほおを流れ落ちていく。娟はそんなアルトを慰めてあげたかったが、腑に落ちない点がアルトに対する同情心を邪魔した。

「でも、アルトがそのことを知ったのはさっきでしょ?隠してた理由にはならない気がする・・・」

ピクリとアルトが体を反応させた。どうやら図星らしい。バツの悪そうな表情をしている。
確かに先ほどのアルトの理由だって本当のことなのだろう。それは娟にも感じ取れた。優しいアルトならきっとそう思うだろうと。娟はアルトが気にしても気にしなくても、どちらにしろアルトに何かを言うつもりはない。娟の母がアルトを産むと決めたのだから。ただ娟は本当の理由が知りたいだけだ。

「本当はどうして?」

「・・・ごめん、言いたくない。」

娟の追及に帰ってきた返事はこれだった。娟はほとんど受け取ったことのない言葉で戸惑う。まさか、目の前で言いたくないと宣言されるとは思ってもみなかったことであった。

「えっと・・・うん。」

娟はとりあえず頷いた。そうすることで自分の中にある衝撃を逃そうとしたからである。

「姉弟でも、言いたくないことも、あるよね。」

「・・・・・」

気にしていない、という意味を込めて娟はそういった。アルトは何が気に障ったのかわからないが娟の言葉に眉をしかめ黙り込んで、俯いた。

「あ、あの、アルト。」

なぜかアルトが黙ってしまい、さらにはアルトと娟の間の雰囲気が気まずくなってしまったことで、娟は何かを言わなければいけないと焦りを感じてしまう。

「その姉弟、なんだ、けど。」

たまたまアルトが黙ってしまう前に口にした言葉に姉弟という単語が入っていたので、その単語を取り上げて娟はアルトに話しかけた。

「今まで、アルトが、私のお兄さんみたいな感じだったし、それに、一歳しか違わないし、もし私がアルトのお姉さんなのが嫌だったら、こう、反対に、できないかな、とか。」

コムイから姉弟だと告げられてからどうも自分が姉よりもアルトが兄の方がしっくりくると考えていた娟は、アルトの難し気な表情を和らげるためにも明るめな話題を選んだつもりだった。しかしどんどんアルトは表情を固めていき、どんどん娟を見なくなり、娟はより一層焦った。二人の間にある何かしらの感情のずれが空間に反映していて、それを感じ取っている娟は気まずい。

「こ、こんな話、どうでもいい?・・・実は、私、アルトと姉弟って聞いて、家族って聞いて、なんか、その、よかったなって・・・」

その時今まで視線をそらしていたアルトが娟を睨み付けた。今まで一度もアルトに睨み付けられたことのなかった娟は、戸惑い驚いた。アルトの睨みは、神田の睨みとは違う鋭さを孕んで、娟の心にささった。娟に嘆きと怒りを訴えかけるような睨みである。

「・・・僕はっ・・・僕らが姉弟って聞いて一度も、よかったなんて思ったことないよ・・・!」

アルトが自ら押さえつけ発した声は、泣き出しそうだった。

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