「んあ?なんだって?」
『だから…こっちは雨だってば…』
「まじかー。残念だったなあ」
『夜中に突然電話してきたと思ったら…なんなんだよ…』
「たーなーばーた!今日だぞ?天の川だぞ?」
『だから雨だってば』
「こっちはいい感じに晴れてるぞー星は見えないけどな」
『それ曇ってるよ』
「ありゃ?」
『ふ、…どうしてくれるの。すっかり目覚めちゃったんですけど?』
「あー…すまん。しえみに教えてもらってすっかりテンション上がってた」
『全く…すぐ人に影響される…』
「なんだようっせーな!」
『ここ数日の長時間任務で寝不足、明日5時起きの弟の携帯に深夜電話を掛けておいてその態度は「あーすまん!ごめんなさい!!」
『はい。それで?』
「ん?寝なくていーのか?」
『目が覚めたって言ったでしょ?』
「すまん…」
『だから眠れるまで兄さんが話し相手になって』
「……へーい」
『願い事は?兄さんのことだから塾の皆を巻き込んでやったんでしょ?』
「ふっふっふ。たりめーだ」
『なにをお願いしたの?』
「え、秘密だよ馬鹿!」
『…………………』
「わかりました言います!新しいフライパンです!!」
『そこは冗談でも“祓魔師”って書けよ…』
「んな!だってしえみが…!」
『しえみさんが?』
「デカすぎるお願いは叶えてもらえないって…言ってたぞ」
『でもそれでフライパンって…っぷ』
「わ、笑うな!」
『あ、ごめんごめん。かわいいなって思ってつい』
「ついじゃねーよ!!…それに!」
『なに?』
「祓魔師ってのはお願いじゃくて夢だからな。夢を他人に叶えてもらうほど俺は甘ったれてねえ」
『(言うようになったなあ…)…そう』
「そういう雪男はどうなんだよ?」
『僕?お願い事なんてしてる暇無かったよ』
「今したらいいじゃねーか」
『今?…なに突然?』
「いーから!ほら!」
『そうだなあ…、うーん。……あ』
「お、なんだなんだ」
『兄さんを抱きしめたいかな』
「…………またんな冗談」
『冗談じゃないよ。ほんと』
「本気でも俺どうしようもねえじゃん」
『なんでだろうなぁ…イメージははっきり出来てる』
「?」
『兄さんは夕飯の準備をしてて、そこに僕が任務から帰宅。兄さんの後ろ姿見てたらふいに抱きしめたくなって後ろから腰に手を回すんだ』
「……おい。やめろ雪男」
『兄さんは怒ってるとも笑ってるともつかない少し困った顔でこっちを振り向いて言うんだ。「おかえり」って』
「…おいってば」
『僕が何も言わないのわかってて一旦包丁を置くの。その後ちゃんと前から抱きしめ直してくれるでしょ?…ダメ?』
「…会いたくなるようなこと言うな。ばか」
『ふふ…ねえ、ダメ?』
「ダメじゃねえよ。ならさっさと帰ってこい」
『はい。今日中には』
「…織姫と彦星ってこんなんなのかな」
『僕らは年間通して嫌ってくらい何日も一緒ですが?』
「バカちげえよ。もし織姫と彦星の気持ちが今の俺と同じだったら一年も耐えられっかな。って思って」
『うん?今日はえらくロマンチックな兄さんだ』
「耐えられっかなって!!」
『無理です』
「だろ」
『本当は今すぐにでも飛んで行きたいくらい』
「ふは、大げさ」
『そうでもないよ。ねえ兄さん。おやすみのキスして?』
「電話でかよ…」
『織姫と彦星ならしてるかもよ?』
「ははっ、なんだそれ。しょうがねえな…いーぞ。おやすみ雪男。ちゅっ」
『おやすみ。兄さん。ちゅっ』
「織姫と彦星会えたらいいな」
『会えるよ。夜は長いからね』
(距離と時間を飛び越えて、今すぐ君に会いに行きたいよ)