±Brotherサンプル
「兄さんおはよ…」
「りんちゃんおは…ぉ」
「おー二人ともおはよー。顔洗ってこーい。あれ雪男?なんだよいたのか。はよ」
「……おはよう兄さん(どうしてこうなった…)」

今、六○二号室の住人は四人。
現在共同生活真っ最中だ。


*±Brother


暖かな湯気が立ち込める朝のキッチン。テーブルに置かれた食器は4セット。見慣れた食器2セットと幼児用の小さなもの、お客さま用のものだ。
「雪くんお醤油取って下さい?」
「…はい」
現状に全く納得していないといった表情で奥村雪男は自分に瓜二つ‥いや自分がいくつか成長した姿の男に醤油指しを手渡した。
「(なぜ…仲良く食卓を囲んでいるのか…)」
一日のスタートに早くもぐったり気味になりつつ、反対側へ目をやると兄である燐が幼い頃の自分にそっくりの男の子に料理を運んでいた。
「(絶対におかしい…)」
その光景だけならばどんなに愛らしかっただろう。しかし‥
「雪くんは今なんでこんなおかしなことになったんだ、て思ってるでしょう?」
「思ってますよ雪男さん‥もちろん」
これはつい昨日の朝の話。
ありふれた男子寮の一室の、ありふれた日常が壊れた早朝の出来事だ。

ピ、ピ、ピ、ピピピピピピ
「……う‥、」
けたたましく鳴り響く目覚まし時計のアラーム音はいつ聞いても不愉快だ。しかし止めないままでいるのはもっと不愉快だ。
気だるい腕に力を入れて鳴り響く目覚まし時計まで目測手を伸ばす。手探りで目覚まし時計を探しているうちにある異変に気がついた。なにか障害物があって目覚まし時計まで手が届かない。
「(また兄さんか…)」
最初は兄が寝ぼけて布団に潜り込んできたのだと思った。しかしうっすら覚醒した視界に写るのは兄の姿ではないようだった。
「……、っ!」
まさか奇襲かと思い咄嗟に枕元に置いてある銃を構える。眼鏡がないせいであまりよく見えないが問題ない。外しはしない。
「………、」
「すぅー…すー…」
「……………は?」
静止時間は約三秒。
敵(?)はどうやら眠っているようだ。
訳がわからないまま照準だけはずらさず手早く眼鏡を掛ける。よりクリアになった視界に飛び込んで来たものを改めて見て奥村雪男は苦虫を噛み潰したような顔になった。実に恐ろしい形相だ。
「………」
嘘だろ。おい。
黒い祓魔師のコート。見覚えがある。
黒渕の眼鏡。見覚えがある。
顔には特徴的な黒子が三つ。見覚えがある。
そこには、自分の姿とよく似た男が静かな寝息を立てて眠っていた。ただし、体躯と年齢がいくつか上のように見えた。大人だ。
「………」
これは恐らく自分の目がおかしい。
まだ夢でも見ているに違いない。きっとそうだ。そういえば実の兄は……。もしこれが夢なのだとしたらー…

ズガンッ

奥村雪男は混乱していた。
だって目の前に存在する光景は限りなく非現実的だ。非現実でなくてはならないのだ。
向こう側のベッドの様子がどうだったかなんて形容したくない。ただ現実ではまず起こりうるはずのない夢のような光景が起きていた。
だからこそ奥村雪男は混乱していた。あまりに混乱しすぎて男に向けていた銃口を天井に向け引き金を引いたほどだ。
目覚まし時計よりも響く銃声音が鳴り次によく嗅ぐ火薬の匂いが鼻孔をかすめた。
手には確かに使い慣れた銃の反動があった。
夢だと思いたかった。
*
雪男がぶっぱなしたことによりその後すぐに飛び起きた燐は何事かと叫んですぐに自分の懐で健やかに眠っている子供に気付いて更に叫んだ。
混乱で興奮する兄をなんとかあやそうとしているうちに謎の男も目を覚ましていた。
寝起きの雪男に良く似た動作でむっくり、と起き上がり辺りを見回して一言。「ん…あれ、ここって……うわぁ‥兄さん」懐かしそうに室内を見回してから目が合った自分達を見て呆れたように呟いた。
またなにをふざけて…と言いたげな顔だ。
「雪男だーーっ?」
「落ち着いて兄さん!」
もう一人の存在に気付いた燐が最早キャパシティオーバーかのように奇声を発する。まぁ、一番正しい反応なのかもしれないが。
「一体なんなんだ………」
兄は使い物にならないくらい大混乱。
もう一人の兄は熟睡。
雪男も、もう一人の雪男もまるで状況を理解していない。
雪男は昨夜の寝不足で痛むこめかみが軋む音がした。頑張れ。そして冷静になれ。奥村雪男。
「勘弁してくれ本当に……」
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