聞こえるような声で
僕にもっと力があれば、
もっと側に、近くに居られた。

「もう、やめてよ……」

どうしてそんなに頑張るの、一人で歩いて行ってまうの

「兄さん僕は…、」

また届かなかったのか、また、置いて行かれるのか

成長してるつもりだったのにあの時となにも、何一つ変わってない

追いかけても追いかけても、追いつかない。
兄さんの背中は今も昔も遠いまま。

「兄さん…!!!」

雨音がうるさい。
大声で兄を呼んでるはずなのに反応はない。
兄の後ろ姿は小さく力無かった。俯いた顔から流れるのは雨なのか、涙なのか僕には分からない。

ここに居るはずなのに、僕は、ちゃんと見てるのに。
兄さんはどこに居るの、おしえて。僕に、分かるように。

「兄さん……」

ここは寒いよ、帰ろう。
もっと頼ってよ。僕は弟なんだよ。
もっとずっと側にいるから僕をちゃんと見て。

そう言いたいのに、僕の口から言葉は出なかった。
声にならなかった。叫びたいほどだったのに。

ただ側に居たいだけだ、それだけでいいのに。

「……、兄さ、ん……」



僕はまたここから動けなくなっている。


(なんてあなたは意地悪なんだ)










いつからこうしてただろう。
もう長いこと前だけを見て頑張ったつもりだったのに。

「結局俺は……」

強くあろうとしたのに、こうもあっさり折れてしまった。
無性にここに居たくなくて、逃げた。
握り締めた拳はやけに冷たくて、手のひらに血が滲んでいるのに痛みを感じない。

「なんだったんだろうな…とうさん」

もしかしたら全部悪い夢だったんじゃないか、とすら思えた。
だが足元に散乱した無数の血痕は現実だ。
俺のものじゃないこれは一体なんだ。

「化け物、ね…」

小さく呟くと自然に笑いがこみ上げてくる。
俺は、立ち止まりたくなんかなかったのに。
何もかも、運命なんて覆せると思ったのに。

「もう…無理だよ」

ひどい雨が降る中で空を見上げる。
やけに鼻腔が痛くて気分が悪かった。
歩いても歩いても晴れてる場所なんてどこにもない。
俺がこれ以上居ていい世界なんてどこにあるっていうんだ?

「こんな力あったってどこにも行けねぇよ……っ」

情けなくて弱い自分。
それなりに努力したつもりだった。
なのに言い訳と嘘が上手になっただけ。
ただそれだけだ。

「とうさん……っ」

俺を生かした意味を教えて。
恨まれててもいいからもう一度俺に会いに来いよ。

「じゃなきゃちゃんと言えよ…っかんねえよ…」

ここからじゃ遠すぎてなにも見えない。
俺はまだ何もわからないままだ。


(そんな残酷なことってないだろ)

thanks by 焼/け/野/が/原
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