頭がグラグラして、視界が歪んで見えた。今日はまた一段と気分が優れない。恐らく昨日、薬を使わされたせいだ。
眉間を押さえながら、パソコンに向かっていると、扉が開いて美風が入ってきた。

「ああ、いたの。おはよう。」

「昨日は電話取れなくて悪かったな。」

詮索されるより先に先手を打って、そう返す。

「べつに大した用じゃなかったから。」

扉を閉め、椅子に腰掛けながら、言った。
なんだ、考えすぎか、と息をつくと、それより、と今度は美風から、切り出してくる。

「顔真っ青だけど、大丈夫なの?」

キーボードを打つ手が一瞬止まる。心配そうにこちらを凝視する美風の視線に耐えきれそうにない。
大丈夫だ、と言い掛けた瞬間、視界が黒に覆われた。何事かと思えば、それは美風の手で、俺の目元を覆いながら、ちゃんと休んでんの?と問いかけられる。

「仮眠、取ったら?」

不器用にも優しい手に甘えることにした。





ふいに目が覚めた。ここがどこだか一瞬わからず、ぼんやりしていれば微かな歌声が聞こえてくる。
視線だけ動かせば美風が歌っていた。柔らかな声。紡ぐ旋律。
ずっと聴いていたい。あまりの心地よさに再び目を閉じると歌声が止んだ。
どうしてやめるんだ、と言いたいのに、脳ミソが眠れと命令する。
瞼も重く身体が動かない。
唇に触れた感触も夢じゃないかと思うほどに。




随分寝ていたのか、起きると美風の姿はなかった。一向に起きない俺に見切りをつけたのか。
そういえばまた夢を見ていたようだ。魘されることはなかったが、都合のいい、ただの願望だ。
唇に触れると微かに湿っているようだったが、あり得ない。
美風とキスしたいだなんて。どんな風な顔をするんだろう。美風のこともっと知りたいなんて。

馬鹿なことだ。いつかは嫌われる身の俺が高望みするなんて。
なんておこがましい。
顔に手を当て、自己嫌悪に陥っていると、視界の端にケータイの着信を知らせるランプが点滅していた。手に取り確認すると、知らない番号だったが、留守電を聞いて借金取りだと知る。

今日くらいそっとしておいてほしいののに。結局は苦しみの連鎖から抜け出せられないのか、俺は。
などと自分を代弁しても、自らも喜んでやっていたことに違いないのだから。それぐらいが似合いなんだ。

自嘲を漏らしながら、俺はケータイを手に取り、電話を鳴らした。





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