「蘭君、お化粧慣れしてるから、肌になじみやすいわー」

ふわりと嫌みなく香る香水の匂い、繊細な指先、同じ性別とは思えないほどに整えられたこの月宮林檎と俺は今度女装をさせられるバラエティー番組に出演するので、その打ち合わせを兼ねて林檎は俺の顔を先程からいじくりまわしている。確かに俺も多少なら自分で化粧はする。ロックに必要だと感じれば、だが。

だがこいつのようにどこからどう見ても女の容姿にまでは絶対なれない。身長や体型も考えれば容易に想像できる。

「蘭君、かわいい。」

なのに、時折こうやって鏡越しに熱い視線を受けながら愛でられる。その言葉が発せられる度に顔を見て、どこがだ、というやり取りは飽きるほどした。

「髪の毛はどうする?私みたいに長くする?巻き髪にする?服はどうしようかしら!」

一人で盛り上がる林檎に、どうでもいい、という意味を込めて任せる、と言えば、それじゃつまんない、と返される。

「好き好んでやってんじゃねえんだよ。だからテメェの好きにしてくれて構わねえ。」

「……好きにして、いいの?」

「…、?……あぁ」

妙な沈黙に疑問が浮かんだが、肯定の返事をすると両肩に手を置かれ、にこにことこちらを眺めてくる。

「おい、なん……」

だ、と振り返り様に言い切る前より早いか唇にふわりと触れた。顔が間近に迫って、角度を変えて何度か啄むような、そう、キスをされる。
何をされたか一瞬頭が真っ白になって、固まっていると、またかわいいと言って今度は頬にキスをされた。

「…っ、何しやが……」

「愛情表現よ。」

顔が離れ、やっとのことで抗議の声を出すとなんなくかわされる。

「ずっと、ずっとね。こうやってキスしたかった。蘭くん、ホントにかわいいから。何て言うのかしら、顔だけじゃなく、性格も、ホントは優しいし面倒見いいし、色んな人から好かれてるの、知ってる?」

林檎の口から次々に出てくる俺への賛美の言葉に、言われ慣れていないせいもあって顔に熱が集まる。そうすれば、そんなところも可愛いのよね、と笑われた。

「ふざけんな、…くそっ」

「ふざけてない。」

林檎の目の色が変わる。

「アタシは真剣よ。だから、」

じっと見つめられ、目を外すことができなかった。吸い込まれそうに透き通った薄い青色の瞳に俺が写りこんでいる。そしてまた、だんだんと距離がなくなりキスをされた。
今度は唇を割られ、舌を絡めとられる激しいものだ。

「っん……、はぁ…」

隙間からは吐息が漏れ、時折唾液が交わる音もする。その音が聞こえる度、鼓膜まで震えるように心臓が跳ねた。

「蘭、くん……」

「んん、…ぁ」

「蘭くん、……エロい…見て、鏡……」

言われるがまま視線を前に向けると、目に涙を溜め、頬は紅潮し半開きな口元はどちらともしれない唾液で濡れている、なんとも自分では言い難い己が映って思わず顔を背けてしまった。


「蘭くんの感じてる顔、すっごいかわいい…もっと、見せて…?」


かわいいかわいいと連呼する林檎は、俺の首もとをベロリと舐めあげ、耳に舌を差し込みくちゅくちゅと聴覚までも犯そうとしてくる。耳の弱い俺は堪らなくなって、林檎の袖を掴んでやめろ、と意思表示を示すが、逆に捉えられたのか、右耳を犯していた舌は左耳も丹念に舐めてきた。


「ちが、…ぅあ……バカ…!……んぁっ」

「耳、弱いの…」

「しゃべ…っ!んん…」


言葉を吹き込まれ、脳髄までもが痺れだす。口を閉じようにも次から次へと意味を成さない喘ぎが漏れだして苦しい。

「あら、蘭くんのココ、反応してる。嬉しい。」

そっと撫でるように俺の股間に手を伸ばし、林檎はそう指摘した。やんわり膨らんだそこは刺激を求めて反応を示している。キスと耳への刺激だけでこんなになってしまうなんて、

「ふふ、…かわいい」

かわいいという言葉がまるで合言葉かのように林檎の細い指はそこを刺激し始めた。強弱を付け、でももどかしい愛撫に自然と腰をくねらせてしまう。

「エッチなのね……ねえ、どうしてほしいのか言ってみて?」

「……っ、ぁ……だ、れが…っ!」


微かに残った理性が働く。自分からそんな恥ずかしい、と思う反面、さらなる刺激がほしいのは本当。汲み取ってくれればいいものの、林檎はそんなことをしないとばかりに口角を上げ、俺の言葉を待っている。

「ねえ、…ここ、こんなに張り詰めて……気持ちよくなりたくないの?」

ピンと指で弾かれ、ズボンを押し上げる自身は完全に勃ち上がってしまった。言葉にするのが憚れ、俺はわかる程度にこくこくと頭を縦に降ってやり過ごそうとする。
すると林檎は溜め息を吐き、


「次は言わせてあげるんだから…」


と呟き、ベルトを解き、ジッパーを下げ、自身が取り出される。椅子に座っている体勢なので、ほぼ着衣している形なのだが股間だけは出ていると言う何とも間抜けな格好だ。
仰向いている自身はぷるんと勢いよく飛び出したのがまた恥ずかしい。
そこに戸惑いもなく林檎はいきなり舌を這わせてきた。先端を舐め、くわえこむ。

「ぅあ!…ん、ん………はぁう…」

予想以上の刺激に思わず林檎の頭を掴んで離させようとする。だが、させんとばかりに舌を口を動かし俺を高みへと昇らせていく。

「…んん、や、め………ああっ…」

口を一旦離し、裏筋に舌をゆっくりと勿体ぶるかのように這わせ、

「蘭くんのコレ、我慢できなくってトロトロ溢れてきてるわよ。」

などと、言わなくてもいいような言葉で煽ってきた。意識がそちらに向く。荒い息で下を見下ろせば、妖しげな上目遣いで尿道を弄られた。


「んぁ!…や、っふ………だ、…め……ッア!ィ……うぁあ!」

同時に強くしごかれ、俺は精液を飛び散らせイッてしまった。脱力し上を向いたままの俺の首に、ぺろりと舌が這い、びくりと身体が反応する。


「…気持ちよかった?」

そう問われ、視線だけさまよわせると間近に林檎の顔が迫り、またキスをされた。今度は俺から恐る恐る舌を出し、ねっとりと絡み付くような口付けの時間は続く。

「…っはぁ、……んふ…」

「ん、……っ」

何度かキスをされ、林檎とのそれはとても気持ちの良いものだと知る。やめてほしくなくて、夢中で貪っているとちゅぽんといつのまにか離されてしまう。名残惜しげに糸を伝う唾液も直ぐ様途切れた。


「そんなにがっつかないで…?もっと気持ちよくしてあげるから…ね?」

だから、と意味を込め額にキスを落とされる。言葉で言え、とそういうことなんだろう。
はあ、と熱の籠った息を吐き、前方にある鏡に手を付き、尻を突き出す格好を取り、目線でこれでいいのか?と問いた。

「…積極的な子は大好き…」

と言葉を皮切りに俺のすぼまった後ろの孔に指を這わせ、弄られる。
久しぶりに使うそこへの刺激を思い出してか、期待にうち震えるかのように収縮してしまっている。

「痛くなさそうだけど、…もしかして慣れてる?誰かに弄られたり、…ひょっとして自分でシてたりしてるの?」

「ち、…っぅ……が…」

否定しても事実そこは刺激を求めて疼いて仕方がない。林檎が言葉を放つ度に、身体が熱くなる。まるで言葉に魔力でもあるかのように、言葉一つ一つが身体に染み込んでいく。


「…んん、い…いから……早く、…」

もっと奥。突かれる悦びを知ってしまった、いや思い出したと言うべきか。早く、欲しい。

「欲しいなら、言って…?」

俺が言わんとして躊躇っていることを感じたのか、林檎は鏡越しに舐め回すように俺を見つめた。視線すら快感の一部になって、俺は堪えきれずついに口を開いてしまう。


「挿…れ………って…」

その視線に目を合わせると、林檎は目だけ笑い、もっと言ってとねだってきた。

「ッ…今、弄ってる……ソコに……んん、…」

「何が欲しいの?」

勿体ぶるように指を抜き差しされる。違う、それじゃない。もっと、もっとー、

「…とく、……てっ……お……っき………ぁっ、あっ!」

思っていたことすら、声が漏れてしまう。一度イッて萎えた自身もまた硬度を保ってきたようだ。
鏡越しに林檎は早く言って、と熱の孕んだ視線を投げ掛けてくる。
もう、限界だった。


「ち、……んこ……挿れて……突い、て……んぁんん、…く……れぇ!」


半ば叫ぶような形となり、ついに出た素面の俺が聞くに耐え難い台詞に林檎はよくできました、とばかりに頬にキスを送る。
するとすぐに突き進んできた林檎自身に俺の質量は満たされてしまう。
張り詰めていたそれは俺のナカを遠慮なく擦り上げ、ぐちゃぐちゃと水音が聴覚までも犯す。
きつい、だけど、気持ちが良かった。

「アッ、…ンぁ!…ぃい……ッ!」

「アタシも…気持ちいい…ッ」

パンパンと楽屋に響き渡る不自然な音。いつ誰がドアを開けるともしれない状況なのにそんなことも忘れ、俺は汗ばんだ手を鏡に付いて、後ろからの責めを受け入れていた。顔は下を向けてひたすらに。
すると、林檎にねえ、と声を掛けられ、返事をする間もなく上体を抱え直された。もちろん繋がったままで。
背面座位のような形を取られ、俺と林檎が繋がっているところが鏡にバッチリ映し出されていた。

「ッ、ぁ…なっ!」

モロに見てしまったそこから思わず顔を背けると、見て、と結合部分を撫でられた。

「んん…ふぅ…」

「蘭くん、ほら見て?ここ。アタシのここ食べてるところ。」

「あっ!…ぁ……」

「ぱっくりくわえこんで、離さないの。こうやると、ナカも美味しそうに収縮してね?」

下から突き上げられ、俺のナカに入っていく様がありありと見てとれた。背けていた目はいつの間にか釘付けになってしまっている。
はた、と鏡の自分と目が合ってしまった。
最初に林檎に見てみろと言われた頃より、よほど扇情的だった。
口からは涎がいつの間にか垂れていた。潤んだ瞳や赤らんだ頬や肌。はしたなく男をくわえこむ孔。何よりこんな女のなりをした人間に犯されている現実。

倒錯する。

目が離せない。

「あああ!んぅ、……ぁは!」

腰もいつの間にか俺も自ら振っていた。

「はあ、…っあっ!ぁ、うあ、ああああ!」

「イッちゃう?」

「ッ!イッ……イく!っ!ぁ、あああ!ん!っふああ!」


ガツガツと叩きつけられ、身も世もなく喘いで、俺は達してしまった。精液が出るところまでも見てしまって、腹にかかり、垂れていくそれは卑猥以外の何者でもない。
先にイッた俺に続き林檎も達した。俺のナカに注がれる精液も、腹をこわすとわかっていても、それすら快感に変わってしまう。
ゆっくりと自身を引き抜き、垂れてくる精液を掻き出しながら、

「ありがと。」

などとお礼を言われた。返事をしようと口を開くが、敏感なところを擦られ、咄嗟に唇を噛んで堪える。

「あら、噛んじゃダメよ?」

うっすらと唇をなぞられ、またキスが落とされた。すぐに離され、また角度を変えて触れる。

「一度ね、蘭くんとこうしたかったから。それのありがとう。」

俺の疑問を想像しての答え。そこに余計な感情はいらなかった。随分前にしていた他人に取り入る方法。そんなことも思い出したが、林檎とそれは恐らく関係ないだろう。

「ただ、食べてみたかっただけ。」

掻き出した精液を処理し、人差し指を唇に近付け、ウインクを落とされる。動作一つ一つがサマになる。

「……そうかよ…。」

「そ。またね。」

そう言い残し、林檎は楽屋から出ていった。

またね、と言った意図は。
現場でねという意味なのか、それともただの挨拶なのか、はたまたこの続きがあるのかー。
それは林檎しかわからない。

特に知りたいとは思わないし、知ることはないだろう。それぐらい後腐れのない方が丁度いい。

好きだ、愛してるなんて言葉はヘドが出る。
そんな感情は必要ない。



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