2、手に入らないから欲しくなる


「ねえ、ランラン。アイアイのこと、どう思ってる?」

嶺二と楽屋が一緒になったある日、いつもの調子で嶺二は尋ねてきた。
いつもと違うのはその質問の内容だった。
アイアイ、つまり俺が美風藍をどう思っているのか、だ。質問の意図がわからない俺はそんなことを聞いてどうするんだと返す。

「うーん、じゃあちょっと質問変えるね。ランランはボクの事、好き?」

小首を傾け、両頬に人差し指をつけおよそ男がしないような仕草で尋ねてくるので、腹が立ち(どんな風に言われてもこう答えるだろうが)嫌いだ、と言ってやる。
えーひどーい!と今度は頬を膨らませて怒る仕草を見せるので、呆れて食べかけの弁当の箸を進めた。


「おいしい?」

「あ?」

「そのお弁当。」

急に話題を変えるものだから、返事がおざなりになってしまったが、ごくりと飲み込んでうん、と頷きうまいと答えた。すると嶺二は、笑みを深めてそりゃよかった、と言う。なんだか気味が悪いな、と思いつつ深く考えもしなかったが、

「知ってた?」

と尋ねてくる。何がだよ、と顔をあげるとふわりと何かが唇に触れた気がした。
何かなんて遠回りに言ったがそれはきっと嶺二の唇だ。キスされた。その事実に気持ち悪いだとか、恥ずかしいだとか、いろんな感情が混ざりあって、何しやがると頬を殴り付けてやった。いたーい!と殴られた頬を擦りながら、嶺二は言葉を続ける。

「胃袋をおとしちゃえば、たいてい男は逃げられないんだって。」

身長差で必然的に上目遣いになる目はいつもの嶺二とは違って、なんだかそう怪しい光を放っていた。
なに言ってんだ、馬鹿か、と続ければ、

「考えてみてよ。今持っているそのお弁当、毎日の楽しみにしてくれてると仮定しよう。それがなくなったら、ランラン。寂しくない?」

俺は考えてみた。一番最初に思い浮かんだのは、食費をどうしようかということ。けれど、たしかに嶺二の弁当は旨い。いつのまにかこの味に舌が慣れてしまった。もっと言えば、唐揚げを他の店で食べるとすれば、嶺二の弁当と比べるようになってしまった。
そこまで行き着いて、はた、と嶺二の顔を見れば、にこにこと笑っている。しまいには、


「好きだよ、ランラン。」


などとほざく始末だ。
最初の藍がどうしたとかいう質問は、俺の頭の中ですっかり消えてしまって、目の前の男が近づいてくることを、どうやっても拒めなかった。
拒めないのは何故かわからない。俺も嶺二が好きなのか、とも思ったが、何か違う気がするけれど、何が違うのかわからない。根本的に好きだ、とかそういう感情は、俺にはよくわからない。
だから、こうやって流されるのだ。
それが悪いと咎める人間もいない。
このままなし崩しに嶺二とそうなってもいいような気さえしてきた。

「ボクのものになっちゃってよ。」

巧みに誘う嶺二の言葉が頭の中を反響する。うだうだと考えるのは性に合わない。
面倒になって、好きにしろよ、と言えば、キスが降ってきた。
これで良かったのか、そんなの俺にだってわからない。


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