桜木が亡くなった。それは惨い死に方だったらしい。見てはいない。人から聞いた話だ。
生きている俺は、その程度にしか捉えていない。元々あまり物事を深く考えない性格だから、今年はただない年だと思い込んでいた。彼女が死ぬまでは。
実際三組の奴らだって、赤沢以外はそう思っていたに違いない。そう、あいつだって、深く考えていなかったはずだ。

そうだ、あいつは今どうしている?
好意を抱いていた彼女が突然死んだのだ。泣いてる?悲しい?
俺は、心の底では彼女がいなくなって嬉しいと感じていた。最低だと自分でも思う。けどそれより何より、ずっとずっと一緒だったあいつがこの災厄の年が終われば俺の傍からいなくなる、その現実を受け入れるのが嫌だった。


「なあ、お前はいなくならないよな?」

ぽつりと呟かれた言葉は鼓膜を心地よく震わせる。
ほら、もう俺しかいないだろ、そう手を差し伸べた。

「なあ、勅使河原。桜木さんが死んじゃったよ。」

「どうして桜木さんが死ぬのかな?」

高校に行ったら、あわよくば付き合えたりだとかしたかったんだろう。散々聞いた。可哀想に。風見、風見。
溢れだしそうな想いとは裏腹に俺は言葉を紡いだ。

「風見、お前大丈夫か?とりあえず落ち着けよ。な?」

「大丈夫なわけないだろ…?」

虚ろな瞳はこちらを見る。この距離なら眼鏡にもその奥の瞳にも俺が映ってる。俺しか映っていない。
俺しか見えていない、元より俺も風見しか見ていない。
二人だけの世界だ。なんて幸せなんだろう。

心の内でほくそ笑んでいると、風見は俺の首に手を回してきた。

「…もう、誰かを失いたくない。」

振り絞って掠れた声は痛々しい。相当傷ついたんだろうな、可哀想に。
宥めてやろうと手を伸ばしたいのに、風見が俺の首を締め出すものだから、身体の言うことがきかない。


「お、い……!」


手を離させようと、腕を叩いても風見には届かない。俺を見ているのに、まるで焦点が合わない。これはまずいな、と思うと同時に、

「死んじゃうのなら、いっそ僕の手で殺したほうが、………ずっといられるよね?」

口端を歪めてそんなことを言ってくる。
俺はというと、目の端から垂れた涙で視界がぼんやりとし、伝えたいことも言えず、ああどこかで間違えたのか。俺はただ生きて風見と一緒にいたかったのに。何処にも行かず、隣にいて。何処にも行かさず、縛ってしまって。ずっと、ずっとずっと。
ぼんやりとそんなことを思いながら、無意識に伸ばした手は風見の頬に触れたようだ。
冷たい感触なのは、これは涙か。
どうして泣くの?哀しいの?

いつのまにか首からは手が離されていた。気付いて瞬間的に息を吸えば、噎せてしまった。
息を整えていれば、風見は現実に帰ったのか痛々しいほどに顔をしかめ、俺から徐々に距離を取ろうと後ずさっている。
悪いと思っていても、その性格じゃなかなかごめんなんて言えないのぐらいわかっている。
だから、
腕を掴んで、


「ずっと一緒にいてやるからな」


と囁いてやった。
心配しなくてもいいんだ、たとえ死んでも、死ぬときは一緒。
そうだろ?
二人なら寂しくない。一人にさせないから。

一人で生き延びさせやしないから。もう恐いものなんてないだろ?

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