夢を見ていた気がする。 長い間ずっと。 でもあまりよく覚えていなくて…。 ただ、とても悲しい夢だった気がする。 だからずっと泣いてた。 誰に言っているのかよくわからないけど… 誰かに向かって、ずっとごめんなさいを繰り返してた。 ただずっと… それだけを、繰り返してた…。 御園の桜の木の下に千歳はうずくまり泣いていた。 膝の間からかすかに見え隠れする頬は赤く腫れている。 昨夜、突然叔母に呼び出されて部屋に行ったら問答無用で頬を叩かれた。 怒られるようなことは何もしていないし、誰にも迷惑を掛けるようなことはしていない。 それなのになぜ叩かれるのか、千歳には理解できなかった。 鬼のような形相で怒る叔母に必死で謝り続け、ようやく解放された時にはもう夜が明けていた。 それから逃げるように家を飛び出し、ここへやって来た。 ここは祭りの時以外あまり人が来ない場所だから、泣いても誰にも怒られはしない。 姉達がいなくなってから、叔母は事あるごとに千歳を叱りつけては手や棒で殴る。 お前は汚い娘だから、こうして汚れを取ってやっているんだ…と言いながら、何度も何度も。 それが恐ろしくて押し入れや床下倉庫に隠れているが、やがて見つかりまた叩かれる。 その繰り返しだった。 いったいいつまでこんな生活が続くのか、千歳にはわからない。 けれど限界が近づいていることは確かだった。 もう…耐えられない。 そこでふとあることを思い出した。 いつだったかいなくなった姉が言っていた。 神社にはオヤシロさまがいらっしゃって、オヤシロさまはいつも私達を見守っていて下さると。 オヤシロさまにお願いしたら、助けてくれるだろうか。 しばらくの間ぼんやりとそんなことを考えていたが、やがて決心して千歳は立ち上がった。 どうせ誰も自分を助けてなどくれない。 大好きだった姉も母も自分を置いて遠くへ行ってしまった。 だったらオヤシロさまにお願いしに行こう。 あの意地悪叔母から自分を助けてくれるように、お願いしに行こう。 …願ったところで、自分にはもう失うものなど何もないのだから。 no 次へ |