冷たい… 頬に何かが触れて、私は静かに目を開けた。 流れる水の音。 ゆらゆらと揺らめく灯篭。 落ちてくる雫。 いつの間にか私は鍾乳洞のような場所にいた。 ただ真っ直ぐ奥へと続く道を歩く。 一歩踏み出す度に身を裂くような痛みが体を襲う。 頭の中に響くたくさんの聲。 だけど一番苦しいのは…一番痛いのは私自身の柊。 これは私だけの柊。 私だけの痛み。 どれほどの柊を刻まれても、消えることのなかった私の…柊。 ずっとあの人の夢を見ていた。 でも、もう見られない。 もうあの人は、来てくれない。 知ってしまったから。 …知りたくなんてなかった。 知らなければ、ずっとあの人を待っていられたのに。 もう、あの人を待つことはできない。 許されない。 だから…でも、せめてあの人の夢だけは…。 …もう見られないのなら、このままあの人の夢の中で眠りたい。 二度と戻れないとしても。 たとえ夢の中だとしても、あの人に逢えるのなら…。 私は決意して、扉の向こうへと消えて行った。 「!」 はっとなって目を開けると、そこは逢魔が淵でした。 ごとごとと音を立てて水車が回っています。 茫然としながら辺りを見回し、深く深呼吸しました。 そして立ち上がろうとした瞬間、足首に縄の跡が浮かび上がりました。 手首と同じ、縄で縛られたような跡。 「…体が…何だか重い…」 私は近くに転がっている射影機を拾って中庭へ戻りました。 no 次へ [しおりを挟む][戻る] |