Wheel of Fortune〜zero〜
□第三夜 刹那ノ願

冷たい…


頬に何かが触れて、私は静かに目を開けた。


流れる水の音。


ゆらゆらと揺らめく灯篭。


落ちてくる雫。


いつの間にか私は鍾乳洞のような場所にいた。


ただ真っ直ぐ奥へと続く道を歩く。


一歩踏み出す度に身を裂くような痛みが体を襲う。


頭の中に響くたくさんの聲。


だけど一番苦しいのは…一番痛いのは私自身の柊。


これは私だけの柊。


私だけの痛み。


どれほどの柊を刻まれても、消えることのなかった私の…柊。


ずっとあの人の夢を見ていた。


でも、もう見られない。


もうあの人は、来てくれない。


知ってしまったから。


…知りたくなんてなかった。


知らなければ、ずっとあの人を待っていられたのに。


もう、あの人を待つことはできない。


許されない。


だから…でも、せめてあの人の夢だけは…。


…もう見られないのなら、このままあの人の夢の中で眠りたい。


二度と戻れないとしても。


たとえ夢の中だとしても、あの人に逢えるのなら…。


私は決意して、扉の向こうへと消えて行った。


「!」


はっとなって目を開けると、そこは逢魔が淵でした。


ごとごとと音を立てて水車が回っています。


茫然としながら辺りを見回し、深く深呼吸しました。


そして立ち上がろうとした瞬間、足首に縄の跡が浮かび上がりました。


手首と同じ、縄で縛られたような跡。


「…体が…何だか重い…」


私は近くに転がっている射影機を拾って中庭へ戻りました。

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