恋の芽が出て
―――――――
きり丸と別れ、家への帰路を歩く。
不破先輩、彼女が出来たって割り切れている筈だと、彼が可愛い女の子と手を繋ぐ姿を見たときからそう思っていたのに、
『ダメだなぁ、未練ばっかり』
自分の諦めの悪さに思わず嘲笑が出るが、それでも、簡単に諦められるワケがないのだ。
――――――――――
「好きです」
顔を真っ赤にしながら言う貴方はとても愛おしく感じられた。
たとえ許嫁がいても私を愛します、そう言ってくれた事が嬉しかった。
でも、親が決めた結婚は私たち子どもには変えることは出来ない。それは当たり前だった。
「ごめん、ごめん名無し‥‥」
泣きそうに謝る貴方に、私は何も言えなかった。
悲しまないで、泣かないで、私は嬉しかったのだから。貴方が私を愛してくれたことが‥‥結ばれなくても、ただ愛してくれたことが本当に嬉しかったから、
「来世では君を、君だけを愛するから、だから待ってて」
その言葉に、涙が溢れる程嬉しかった。
今はダメでも、次は‥そう言った貴方の言葉を信じてずっと生きてきた。
結婚してくれた夫は私に優しかったけれど、それでも貴方が一番だったんです。
『貴方を一等愛しております』
月の光にそう誓ったのだ。
――――――――――
『一等、愛してる‥‥』
小さく呟いた言葉は空気に溶けるように消えた。
それがただただ悲しくて、切なくて
無性に泣きたくなった。
「名無し‥‥?」
「名無し‥」期待して、幻想を抱く度に後悔する。現実を突きつけられていると感じるから、
110713
[ 1/1 ][←] [→]