散りゆく恋の花


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勘ちゃんと別れたあと、参考書やらの荷物が入った重たい鞄を持ち、図書室への道を歩く。


勘ちゃんにも言った、きり丸に呼ばれてる、というのは本当の事であるが、先程の雷蔵の声が頭から離れなくてついゆっくりと歩いてしまう。


「あ、白井せんぱーい!」


元気な声で名を呼びながら、小走りで近付いてくる後輩に、頬が緩むのが自分でもわかった。
近付いてきたきり丸は、嬉しそうに笑いながら飛びついてくる。
中高一貫のこの学校で、昔の記憶もあるこの子は私にとてもよく懐いてくれた。



「先輩遅かったじゃないっすか!俺待ちくたびれたんすよ!」



むくれながらも顔は笑っていて、その顔を見て、先程の切ない気持ちが消えていく気がした。



『ふふ‥ごめんねきり丸。ちょっと勘ちゃんと話してたの』



すると、納得したのか体を離す。
そしてニカッと笑うと私の手を握って歩き出した。


「俺、今日は先輩に話があったんすよ。‥‥不破先輩、なんですけど」


思わず顔が強張ってしまったが、前を歩いているきり丸には気付かれてないのだろう。
そのまま言葉を続ける。


「不破先輩、最近嬉しそうな姿を見かけるんで聞いてみたんですけど‥‥


彼女、出来たって」



『うん、知ってる。確か高等部の一年生、だったかな』


「っ、先輩は!!"昔"の約束を破られてもいいんすか!?」




振り返り、必死に言うきり丸に、慕ってくれるのが、心配してくれるのが嬉しくて‥‥安心させるよう微笑んだつもりだが、泣きそうな顔は変わらなかったのか、きり丸までもが泣きそうに顔を歪める。



『きり丸‥もう大丈夫だよ。私と雷蔵は"昔"は愛し合ってた。でもダメだった、結ばれることは無かった。
それと同じだよ。どんなに"約束"を交わしたとしても、雷蔵が覚えていないのなら果たされることは不可能だもの。だから、私は諦めなきゃ‥‥ずっと引きずっていたら"今"の不破くんに迷惑だもの』



ね?、と宥めるように言うと、きり丸は顔を伏せてしまった。
「すみません」と小さい声で悲しそうに言う彼に、私は何言えなかった。



「ずっとずっと、君を思うから。だから、待ってて」



その言葉も、信じていてはいけないの




110705



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