手を振ってお別れ
―――――
「名無し」
『なぁに?勘ちゃん』
ふわりと花が咲くような雰囲気の二人を見て、自然と笑みが浮かぶ。漸く、漸く二人が幸せになれる‥それがとても嬉しかった。
「勘ちゃん、名無し」
「あ、兵助!」
声をかけるとふたりとも驚いたような、でも嬉しいようなそんな表情をしてくれて、二人につられるように笑顔になりながら近付く。
「何の話をしているのだ?」
『あのね、勘ちゃんと今度の休みに遊びに行くの!』
「それで、何処に行くか相談してるんだ」
顔を見合わせながら言う二人。最近の二人は前よりもっと仲良しで、休日にはよく二人で遊んでいる。遠出した時はよく俺にもお土産を買ってきて貰っている。
「兵助も一緒に行く?」
『あ、それいいね!!』
「‥‥は?」
突然の提案に唖然としているうちに話はどんどん進んで行く。
だけど、ふたりは本当に楽しそうで、まぁいいか‥と思ってしまった。
―――――――――
手を繋ぎ、いつもの帰り道を歩く。付き合い始めてからは手を繋ぐようにしているけど、未だに緊張してしまう。それも、恋をしているからなのかもしれないけれど。
『貴方を一等愛しています』「‥‥え」
「雷蔵先輩?どうしたんですか」
突然立ち止まった僕を心配してか、彼女は声をかけてくれる。
でも今は、流れるように蘇る記憶に、ただただ戸惑うだけだ。
「ごめん、ごめんね‥‥来世では君と一緒に、」
『謝らないで‥私は大丈夫だよ。雷蔵を愛し続けるから』
「『次は結ばれよう』」
あ、あ‥‥なんで、なんで忘れてた!あれほどあの運命を恨んだのに!次は幸せにすると決めたのに!!
勘ちゃんが名無しを好きなのは気付いていた。だから渡さないように、僕が、
「もう手遅れなんだ、」
彼女は昔の恋にお別れを告げました。
彼は彼女を泣かせない、幸せにすると決めました。
恋人は忘れていた事を後悔しました。
忘却の彼方にあるものは、人それぞれ。幸せと不幸せ‥どちらもあるのです。
ただ今回は、彼女が幸せになったようですね。
その幸せが続く事を祈りましょうか。
END
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