04 会敵と危機





「さーて、それじゃあ早速第一種目行きましょう!」
「いわゆる予選よ! 毎年ここで多くの者がティアドリンク!」
「さて、運命の第一種目! 今年はーーーー」



「障害物競走、ねえ」

スタート地点に生徒が並ぶ中、久治木は列の後方の辺りで準備運動をしていた。
計11クラスの総当たりレース、コースはスタジアムの外周約4キロ。そしてーーー

「コースさえ守れば、何をしてもオッケー……か」

久治木はぼそりと呟いた後に、小さく溜息をついた。
級友の心操はと言うと、黙って周りを見渡していたので、大方誰を洗脳にかけるか見定めているのだろう。

「灯、障害物競走なら一位獲れるんじゃない? アンタむちゃくちゃ足速いし!」
「んー、むしろ逆かなあ。走るだけなら良かったんだけどね」

級友の一人が久治木に話しかけるが、彼女は曖昧に返事をする。
体力には自信のある久治木が何故溜息をついたのか。それは、彼女の個性にあった。
久治木灯の個性は「治癒」。正確に言えば体力と治癒力の操作だが、どちらにせよ、彼女の個性は余りにも使い勝手が悪いのだ。特に、長距離・中距離攻撃を得意とする個性や、久治木の個性が通じないロボットなどの非生命体にはめっぽう弱い。間合いを詰めれない限り、彼女の勝算は低いのだ。

そしてこの障害物競走は、一般の体育祭であるような物ではない。何せ、雄英高校なのだから、一筋縄では行かないことは確かだろう。

「まあ、予選ぐらいは通過してやるけどさ」

緑色のスタートシグナルの明かりが、一つずつ消えていく。先ほどまでざわざわとしていた生徒も、今は口を閉ざしてその時を待っている。
そして、遂に明かりが全て消えーーーー

「スターーーート!!!!」

一斉に走り出す。


……と思いきや、久治木灯だけはその場に立ち尽くしていた。
観客席の方からも「あの子どうしたんだ?」やら「戦意喪失?」などと声が聞こえる。
だが決して久治木の戦意が無くなったわけではない。
プレゼントマイクとミイラマンーーA組の担任である相澤ーーが実況を開始する。

「早速だがミイラマン! 序盤の見所は?!」
「……今だよ」

前方から聞こえてくる叫び声や怒鳴り声、エトセトラ。
狭い通路に計11クラス分の大人数。混雑して、揉みくちゃになるのは避けて通れない事だろう。そして久治木は初めからこれを予測していた。

約30秒が経過した頃だろうか。肩と首を回し、体を慣らした久治木は漸く走り始めた。
先ほどまで混雑していたであろう通路は、今じゃ誰一人いない。目にも留まらぬ速さで駆けていく久治木だが、ある異変に気がつく。
頬を撫でる風が、やけに冷たいのだ。今日は体育祭日和の晴天だったはずだが。
そして通路の出口に差し掛かった辺りで、その原因は判明した。

「氷……」

地面に張られた氷を見て、久治木の心に何かが引っかかる。
ヒーロー科には父の上司であるプロヒーロー、エンデヴァーの子どもがいると聞いている。それも、推薦入学者。
もし彼と戦うことになったら。父の顔がある以上、生半可な真似は出来ない。
それに、一切罪はないが……久治木が雄英に進学したきっかけは紛れもなく彼ーー轟焦凍ーーだ。出来れば戦うことを避けたい。

身体能力の高さ故、氷の地面も難なく走る久治木だったが、ぐるぐると駆け巡る思考は絶ち切れなかった。

だから。

「ターゲット、ロックオン」

既に振りかぶっていた仮想ヴィランにも、気付かなかった。



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