午後三時過ぎ。
今日一日非番だった私は、珍しく私服でセントラルシティの大通りへ出た。

賑やかな空気に包まれながら目的地へと向かい、目の前に目的地が見えたと同時に走る。


『リザー!お仕事お疲れ様!』
「ななし……っと、毎回抱きついてくるわね」
『へへ、リザが良い匂いだから!』

待ち合わせの場所に居るリザに思い切り抱きつけば、リザは困ったように笑いながら私を受け止めてくれた。
私服のリザはいつものように髪の毛を纏めておらずさらさらと髪の毛を靡かせていて、軍服じゃないから抱きついた感触も何だか柔らかくて気持ちが良い。


『私が誘ったのにごめんね、遅れちゃって』
「私が早すぎたのよ、気にしないで」
『てっきり軍服で来ると思った』
「あら、可愛い上司とお出掛けだもの。仕事終わりでもおめかしは忘れないわ」
『うう〜!リザ好き!』

そう、実はリザも午後から非番なのだ。
私と休みが中々被らないのだけど、今回は午後だけお休みと言うことになったそうで。
それを聞き付けた私は、我先にとリザとのお出かけを取り付けた。
…と言っても、お茶をするだけなのだが。

『でも…私達二人も休んで大丈夫かなあ』
「少尉達がついているから大丈夫よ」
『えっ』
「大佐の事でしょう?」

な、なんで分かったの!と驚けば、至って冷静な顔で「ななしの事だもの」と返されてしまう。

「それよりも折角二人きりでお茶できるんだもの。楽しみましょう」
『うん!そうだね!』
「でも何処に行きましょうか」
『あのね、行きたいところがあるの!』

にこりと笑ってリザの手を取って歩き出す。
手を繋ぐこと自体に慣れてしまった様子のリザは、嫌がる素振りもなく横を歩いてくれる。

『リザって甘いもの食べれる?』
「え?…ええ、一応」
『なら良かった!あのね、あるスイーツを食べたくて…』


そう言って案内したお店は中々カラフルなスイーツ店で、見るだけでワクワクしてしまう。
案内された席に座ってスイーツを頼んで、待っている間にリザと会話するのも凄く楽しくて。

『それでね、お花を持ったハボックが一人で泣いててね…』
「……これ以上は彼が気の毒だわ、止めましょう」
『え?分かった!』

そんなこんなで届いたスイーツを一口。
私が頼んだフルーツタルトは、果物が程よく冷たくてほっぺが蕩けてしまいそうになるほどだった。

『美味しいね!』
「ええ、とっても」

リザもコーヒータルトを一口運んで微笑んでくれて、見てるだけで心が暖まる。

「そういえばななしは大佐と二人で居る時間が長いけれど、何もされてない?」
『んえ?何もって?』
「セクハラ、とか…」
『んぐっ』

口に含んだタルトを思わず噛まずに飲み込みそうになって変な声が出る。
少し急いで咀嚼してから飲み込んで、一緒に頼んでいたココアを一口飲んで一息吐いてからリザを見れば、少しだけ微笑んで此方を見ていて。

「大丈夫?」
『う、うん……でセクハラって…』
「あの人本当ななしにデレデレでしょう?」
『で、でれ…?』
「あら、気づいていなかったのかしら」

クスリと笑ってから珈琲に口をつけるリザに、思わず無い無い!と頭を振った。

『デレデレなんて無いよ!…でも、優しいよね』
「…どういう所でそう思うの?」
『どういう……ロイってね、休日まで一緒に居ようとしてくれるの』

そう言ってリザをチラリと見れば、目を見開いて此方を見ていて。
何を考えているかすぐに分かってしまって、もう一度大きく頭を振った。


『ち、違うよ!?変な意味じゃないからね!?』
「あら」
『あらって…………私って睡眠が一人だと上手く取れないじゃない?だから、休日に寝れないからって』
「…大佐が睡眠薬みたいなものだものね」
『ふふ、そうだね……それでね、休みの度にそう言ってくれるから優しいなって!部下を大切にしてるんだなって、思うんだ』

そう言って笑うと、リザは少し呆れたような表情でコーヒータルトを口に運んだ。
なんでそんな表情をするのか分からないけど、取り敢えず私もタルトを口に含む。

『恋人でも家族でもないのにロイの貴重な時間を奪うわけにはいかないから、毎回断ってるんだけどね!』
「……いっそ恋人になってしまえばいいんじゃないかしら」
『え…!?いやいや、いやいや!それは……ロイが嫌だと思うよ…!』
「大佐 "が" ね……」
『ん?何か言った?』
「何でも無いわ」

リザの微笑みに首を傾げてみたけれど、聞き取れなかった言葉が分かるハズもなく。
諦めてタルトを食べ進めることにした。

美味しかったタルトも食べ終わり、カップに残っているココアも飲み干す。
先に食べ終わっていたらしいリザは私をじっと見つめていたみたいで。


『…ど、どうしたの?』
「ななしは…休日どうしてるの?」
『?』
「大佐の誘いを断ってるって事は眠れてないんじゃない」
『え、あー…と』

鋭い質問にドキリと胸が鳴る。
嘘でも、寝れてるよ!と答えられたら良いのだけれど何とも歯切れの悪い声を出してしまって、これじゃあ言っても嘘だって丸わかりなワケで。

『物音で起きちゃうけど!でも、それでも細々寝れてる、から…』

慌てて取り繕ってみたものの、リザを見るのが何だか怖くて俯いてしまった。
暫く沈黙が続いて、ふとリザのため息にも似た声を感じて恐る恐る顔を上げる。

リザとぱちりと目が合う。
ロイと居なさい、なんて言われたらどうしよう。
そんな風に考えていたら、リザは困ったように笑って私の手に自身の手を重ねた。

「大佐の所に行きなさいなんて言わないから安心して」
『…え!?』
「分かりやすい顔して……犯人との交渉人役は当分無理ね」
『う……』
「…これから、家に来ない?」
『リザのお家?』
「そう」
『い、良いけど…』

どうして急に、と考えていたのもバレたみたいでまた笑われる。

「予定が無かったらで良いのだけど、泊まっていってくれると嬉しいわ」
『え!?お、お泊まり?』
「無理かしら」
『無理じゃない!お泊まりする!けど、何で急に…』
「まだまだ沢山ななしとお話がしたいの、それこそ夜通し」
『えっ』
「さ、そうと決まれば色々準備が居るわね。お菓子とか用意しなくちゃ」
『り、リザ』
「寝る余裕なんて無いくらい楽しみましょう、ハヤテ号も喜ぶわ」

立ち上がったリザは私にウインクをしながらレジへと向かっていく。
きっと私が一人で寝れない夜を過ごすからって気を使ってくれたのだろう。

ロイといい、リザといい何で私の周りにはこんなに優しい人が沢山居てくれるのだろう。

涙が零れそうになったのをぐっと堪えて席を立ち、リザの元へ駆け寄ってお会計を済ませるときにポツリと呟く。

『ありがとう…』

その声は小さかったけれど確実に耳に届いたみたいで、微笑んでくれたリザに何だか嬉しくなって私も微笑み返した。












2019/01/23





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