医務室へ着いて備え付けのベッドへと降ろしてもらう。
あれからここに来るまでの間ずっと顔は隠していたものの、周りからの話し声は聞こえてきてしまっていて。
ヒソヒソと冷やかしのように話されているその会話内容に照れてしまっていた私は、顔の熱を冷ます為に手で小さく扇いだ。

それに気づいたロイは、何だか可笑しそうに笑って私の頭を撫でてから足を冷やす為の氷嚢を作り始めて。

『わ、私やる!』
「そんな足で動けないだろ」
『動けるよ!ほら…うっ』

空元気を発揮して挫いた足で足踏みをすれば、鈍い痛みが足首を駆け巡って思わず声を上げる。

「刺激すると悪化してしまうから安静にした方がいい」
『う……はい、』
「よし」

ため息を吐いたロイだったけど、私が小さく返事をすると満足げに笑って作業を進めた。
医務室に誰も居ないのが幸いだった、部下が上司を動かせているなんてしられたら私は勿論の事、ロイまで責められてしまう。

「ななし、素足になって裾を少しだけ捲れるか」

いつの間にか出来ていた氷嚢を手にしたロイにそう聞かれて、慌ててブーツを脱ぐ。
靴下を脱いで裾を捲った所でロイが膝をついて座り込んで私の足に氷嚢を優しく宛がった。

『冷た、』

想像してたよりも冷たいそれに思わず身震いをする。

「少しの間我慢しろ」
『ん……ごめんね、仕事中なのに』
「気にする事は無いよ」
『でも、』
「ななしは変な所で気を使うなあ」

そりゃあ気を使う。
だってロイは上司なワケで、今はエド達が来てたとはいえ仕事中だったのにそれを中断させてしまって。
皆にも心配とか迷惑かけちゃってるだろうし

「きっとななしの事だから私や皆の事を心配しているんだろうが、」
『え』
「気にしないで良いんだ、このまま放置して怪我が悪化する方が心配でならない」

そう言って私の足首に優しく触れる。
冷えた足首には熱く感じるほどのロイの手にどきりと胸が高鳴って。

「綺麗な足だ、腫れないようにきちんと手当てしないとな」

するすると撫でられて、そこから足にじんわりと熱が伝わって熱くなっていく。
本当に、本当に大切なもののように優しく触れるからなかなか心臓が落ち着いてくれなくて。
冷やしてもらっている筈の足首は、ロイが触れる度に熱くなる。

どうして私が思ってた事分かるんだろう。
どうして私を大切にしてくれてるんだろう。
どうして、優しい瞳で私を見ていてくれるんだろう。

ロイにとって私はただの部下である筈なのに。
…………本当に?
私は本当にそう思っているのだろうか。
心の底では違ってほしいと願っているのではないか。
そんなわけ無い。
そんなはず、無い。

「…、ななし?」
『えっ』
「話し掛けても返事が無かったが…痛むのか」
『いや、その…』

ロイが心配そうに私を見ていることに気が付いて、一気に体温が上がる。
言い訳も何も考えていなかった私は、ごにょごにょと歯切れの悪い返事しか出来なくて。

「何だか顔が赤いが……熱かな」

そう言って額へと手を当てるロイのその行動に、私の体温がより一層高くなるのを感じた。
ぶわりと汗が吹き出てきて、ドキドキと走る心臓もロイに聞こえてしまいそうなほどで。
私はロイの手から逃れるように咄嗟に体を捻った。

『す、少し眠くて……!』
「そう言えば今日は眠る時間が無かったか…少し眠った方が良い」
『そっそうだよね!うん!』

いつもは鋭い筈のロイが今日に限って鈍くて助かった。
きっと普段のロイならば、私の挙動不審な姿に疑問を持つだろう。

勢いよくベッドに入り込んだ私は赤くなった頬が隠れるまで布団を被る。
ロイはそれを微笑んで見ていたようで目が合ってしまって。

『おっ、おやすみ……』
「ん、おやすみ」

裏返ってしまった私の声を笑うことなくそう返してくれるロイ。
いつもならばその優しい声で幸せな気持ちと共に眠りにつけたのに、

「側に居るから、安心してくれ」

そう言って私の頭を撫でてくれている手に安心していたのに。
今日はひどくドキドキして眠れない。

私はこのドキドキを押さえるように胸に手を当てて、きつく目を閉じた。
きっと目を閉じれば、何かを考える暇も無く眠りに落ちるから。



2019/06/08





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