『…エド!アルフォンスくん!』
「おー、ななし」


翌日、休憩になった瞬間に執務室を出るとそこにはドアノブに手を伸ばした状態のエドとその後ろで佇んでいるアルフォンスくんが居て。
私は今まさにこの二人を探そうと扉を開けたのだけど、まさか二人から来てくれるだなんて思っても見てなくて思わず抱きついた。

「お、おい…ななし!?」
『丁度エド達を探そうとしてたの!』
「ボク達を?」
『うん!昨日は大変ご迷惑を掛けました…と、ありがとうって…まだエド達には言えてなかったから』
「こら、ななし」
『わっ……ロイ!』

エドに抱きついたまま、うるさくない様に声を小さくしてそう伝えると同時に首根っこを掴まれて。
ぐいっと剥がされて上を向けば、眉間にシワを寄せたロイが私をじっと見つめていた。

「そう言ったスキンシップは中尉と私以外にはしないようにと散々注意しただろ?」
『う…でもエド達には大変お世話になったし……』
「だったら有り難うと頭を下げるだけでも十分だ」
『ここに来てくれるなんて思っても見なかったし…』
「元はと言えばこの兄弟が疑われて」
『疑われてたのはエドだし!アルフォンスくんは違うよ!それに、元々を正せば私が原因でしょ!』
「ななしは悪くないだろ、アイツが気持ちの悪い思想でななしに近づくから…」

首根っこを捕まれたまま言い合いをしていれば、後ろの方でリザの咳払いと他の皆の小さな笑い声が聞こえて。
咳払いで力を緩めたらしいロイの手を振り切って、自由の身となった私はロイの手をぺちんと叩く。

『もー!皆に笑われちゃった!』
「私のせいじゃない」
『ロイってば私が誰かに抱きつくといっつもそうやって…』
「誰彼構わず抱きつくと昨日の男の様な輩が現れるから心配してだな」
『エドとアルはそんな事しないし!ね!』

そう言ってエド達に笑い掛ければ、呆れたような顔で笑い返されて。

「…そう言う痴話喧嘩は良いから、中に入れてくんね?」
「大佐達声が大きいから…通っていく人が皆笑ってます…」
『あ……』
「…すまない」






「それで、被害にあった方々はどうだった」
「それはそれは大変だったよ、オレを見るなりホウキで追いかけてくる人も居たし」
「まあ、犯人だと思わしき人物が盗まれた物を抱えて来たらそうなるだろうな」

ロイが専用で使っている部屋に二人を案内すると、大きなため息を吐きながらドカリとソファに座るエド。
アルフォンスくんは大きな体をなるべく小さくするかの様にちょこんと座って、正反対な兄弟だなあと再認識をする。

「全部返せたの?」
「はい!全部一個一個直して回りました」
「最後の一つを直し終わった時にはもう誤解も解けてたしな」
『そう言えば、ロイに任せた女の人は?』
「ああ…ちゃんと送り届けたよ」
『よかった!』

何だか全てが解決したような気分で、ホッと胸を撫で下ろすと隣に立っているリザも何だか優しく笑ってくれて。
それが何だか嬉しくて笑い返した所で、コンコンと扉がノックされる。

「入れ」
「…あら、もうこんな時間」
『え?何かあるの?』
「ええ確か…」
「マスタング大佐!時間ですぞ」
『アームストロング少佐!』
「……ああ、そういえば」

どうやらロイは、これから会議があるらしく。
アームストロング少佐を見るや否や、げっそりとした様子で立ち上がるロイに首を傾げる。

重い足取りで扉へ向かうロイが、私の後ろを通り過ぎるときに少しだけ頭を撫でてくれて。

「ちょっと行ってくるよ」
『?う、うん…』

微笑んでくれたその優しい顔に、何だか動悸がして胸を押さえた。

と言うか、何であんなにげっそりしていたのだろう。
音を立てて閉まった扉を見つめながらもう一度首を傾げると、今度はリザが私の頭を優しく撫でてくれて。

「ななしとアームストロング少佐って仲が良いでしょう?」
『?…うん、少佐同士だし……一緒に話してると楽しいし!』
「だからかしら、大佐と会う度にななしの話題を出すのよ」
『私の話題?』
「ふふ…苛めてないかとか、泣かせてないかとかね」

面白そうに笑うリザに余計首を傾げる。
ロイが私を苛めるなんて無いのに、何をそんなに心配してくれているんだろう?

「ていうかさ」

その声に顔を向ければ、エドは何やらニヤニヤとこちらを見ていて。

「大佐とはどうなの」
『どうって?』
「色々あっただろ?それで、大佐との関係に何か変化あったんかなって」
『変化??うーん………何か良く分からないなあ』
「ふーん」

うーん、と考えながらちらりとエドを見れば心底楽しそうに笑っていて。
その意図が分からなくてリザを見れば、リザも少しだけ笑っていて、私だけが分かっていないみたいで。
アルフォンスくんなら私と同じ様に分かっていないハズ…!と見てみれば、アルフォンスくんはカタカタと音を立てて震えていて、それに気付いたエドが心配そうに顔を覗いた。

「アル?どうした?」
「兄さん……ボク、さっきアームストロング少佐に会ったんだ」
「え?いつ」
「兄さんがトイレに行ってるとき、たまたま…」

アームストロング少佐に会っただけで、どうしてここまで怯えた様子なのか。
リザもエドも私も、そう疑問に思ったけれど…次の発言を聞いて目を見開く。


「これから大佐の所に行くって言ったら少佐に聞かれたんだ、"ななし殿の体調は"って…だからボク、"色々あったけど、昨日は大佐が看病してくれてたはずなので大丈夫です"って」

「…な、なんでそんな事言うんだよ!少佐は昨日の事知らないだろ!」
「だって、体調はって聞かれたから…!てっきり知ってるかと思ったんだよ!」
『そう言えば、最近事件の事で忙しくて少佐と会ってないかも』
「!それじゃん!絶対それじゃん!コイツに会えてないから、頻繁に会ってるだろうアルに聞いたんだろ!」
「えええ!」

二人がざわざわと騒ぎだして、私の横にいるリザも口元に手を充てて驚いているし何が何だか分からない。
アームストロング少佐に昨日の事を話して不味いことはないはず………


「ななしって本当に自分の周りには超が付くほど鈍感だな」
『な、そんな事無いし!』
「いいか、少佐はななしを部下同然に大事に思ってるだろ?」
『う、うん』
「んで、暫く顔を見てないから日頃絡んでそうなアルを見つけて近況を聞いた」
『うん』
「そしたらアルが"色々あったけど、昨日は大佐が看病してくれてたから"って言った」
『…うん』
「つまり、看病しなくてはいけないような状態にななしが陥ってしまって、大佐が看病したと言うことはその場面に大佐が居たと言うことになるだろ?」
『…………はっ』

エドの有り難く丁寧な説明にやっと頭が追い付く。
これはもしかしなくてもロイが危険なのでは……?

少佐は何かあるとすぐ脱ぐし抱き締めてきたりのスキンシップも多い、その上力がとんでもなく強いから…
上司が居たのになんという!…とか言いながらロイに………

『ろ、ロイが真っ二つに折れる……』
「それだけじゃない、恐らくーー」
「ななし殿ー!!!」
「…やっぱり」

ドシーン!と扉を突き破る勢いで来た少佐に、リザ以外の皆が固まる。
勿論それは私も同じで、驚きのあまりに固まってしまって、そんな私を見つけるや否や少佐は私の両肩を力強く掴んだ。

『あ、あの』
「マスタング大佐から聞きましたぞ……この小さな体で、良くぞ耐えきった!もう具合は……」
『良いです!すこぶる…!』
「それは何より!…しかし上司が居たにも関わらず、なんという…!」
『ひょえっ……!!』

結局ガバリと抱きつかれて目一杯力を込められた私は、エドとアルフォンスくんの必死な呼び掛けと助けも空しくアームストロング少佐の腕の中で意識を手放すこととなった。

その後目を覚ましてからリザに聞いたんだけど、ロイは会議室一歩手前で倒れていたとか。
結局ロイは気を失ってるし少佐は私を医務室へと連れていっていたし、二人とも会議には出席出来ずに大の大人が揃いも揃って怒られちゃって。

そんな話を聞いて大笑いしていた私だけど、目を覚ましたと聞き付けたアームストロング少佐が登場したことにより全身が凍りつくのであった。






2019/03/21





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