ーロイは優しいね。
ななしは私が何かをすると必ずそう言って笑う。

そんなことないよ、
そう言ってみても彼女はううん、と首を振ってみせるのだ。

…そんな事ないのに。

例えばななしが、私以外の男と二人で話していたら所謂嫉妬というものをするし、あの可愛らしい笑顔を向けていたらと不安になって、自分の腕の中に閉じ込めてしまいたいと思う。

優しいよ。
過去に言われたその言葉が胸に刺さったままだ。
優しくなんてないよ




『んっ、……ふっ、ぅ……』

白くてきめ細やかな肌に散らばっている幾つもの赤い所有印。
普段は無邪気に可愛らしく笑うななしが、今は私に組み敷かれて艶やかな顔で悩ましく眉を下げている。
誰も知ることの無いその表情と仕草に優越感に似た何かが胸を押し上げた。

「声、もっと出して良いのに」
『っ……そ、んなの……ん、ぁっ……』

ななしの一番弱い部分を自分のもので何度も擦ると、されるがままのななしはびくびくと体を揺らしながら片手で口元を押さえて声を我慢する。

『だれ、か…聞こえたら……ひゃっ』
「聞かせれば良いさ」

ななしの側に脱ぎ捨てられている彼女の軍服が視界の端に映る。
資料室の奥、窓も無ければそれほど重要な資料も置いていない隅で行っているこの行為に昂る自分が居た。

誰か来るかもしれない。
ななしはそう思っているのだろう。
…実際の所誰も来ないようには手配してあるのだが。

『て、いうか……んっ…急に、こ、んな……あっ、』

急じゃないんだ。
急なんかじゃないんだよ。

「さっき話していた男と、随分砕けた様子で話していただろう?」
『へ、さっき…?ああ、それは……ひゃ、ぅ…!?』

きょと、とした顔で答えようとしてくれたななしの体に、ぐぐっと自分の腰を擦り付ける。
突然の事で気を抜いていたのか、ななしの甘い声が静かな資料室に大きく響いた。
困ったように私を見つめてくるななし。
口を押さえようと動いた手と、もう既に口元にある手を一纏めにして床に縫い付ける。

『や、まって、声、が…ん、』
「何を話してたのかな」

ななしのいい所をゆるゆると擦って耳元でそう囁くと、ぴくりと彼女の腰が揺れた。
少しでも快楽を逃がそうと腰を反らしたななしだが、それが逆に快楽を得ようとしている行為だと知ったら一体どんな反応をするのだろうか。

『な、なにって、あ、んっ……ひゃ、』
「ほら、教えて」

そんな余裕が無いことは勿論知っている。
知っていてこんな事言っているんだ、やっぱり優しくなんてないだろう?

『ろ、いのっはなし……んあ、してた、の…』
「どんな?」
『ひゃ、うっ……ロイが、格好、いいって、はなし、っあ、』

ぐ、と自分のあれが更に固くなる。
ななしもそれに気が付いた様で、ぴくりと腰を揺らした。

……本当はななしが誰と何を話していたか、知っていた。
だけど知っていても、嫉妬…独占欲という感情からは逃れなれない。
人払いまでしてななしをこんな奥に連れて来て、知らない振りをして。
でもそれをななしが知ったらどうおもうのだろう、ふとそんな考えが脳裏を過った。

「……ななし、好きだ」
『っ!いま、それ…っあっ、あ……やっ、ーーーー!!』
「っ、」

無意識に呟いたその言葉にナカをキツく締め上げたななしは、一際大きく腰を仰け反らせてビクビクと体を揺らした。
ぎゅっと閉じられた目尻からは快楽から来るものだろうか、涙が溜まっている。
締め上げられた自身ももう耐えられそうになくて、私は荒い呼吸を繰り返しているななしに触れるだけのキスをしてから、止めることなく腰を動かし続けた。

『ん……はぁ、はっ……ひゃ、あっ』
「ななし、好きだ…愛してる、」
『そ、んなの、言われっ……っあ、あっ、また、きちゃ、っあ、!!』
「…っ」

頬を真っ赤に染め上げたななしは、先程より幾分も敏感になっている体をびくり、と揺らした。
もう一度キツく締め上げられたのを感じてから、奥の方で私も欲を吐き出した。




『う、動けない…』

後処理などを済ませてから、軍服を身に纏っているななしの横に座る。
女性特有の座り方をしているななしは、腰を擦りながらそうつぶやいた。

「悪い、無理させてしまって」
『ん、何だか凄い意地悪沢山去れた気がするけど…まあいいです』

先程の事を思い出したのか、ななしは落ち着いてきた頬を赤く染めて私を見つめた。
じっ……と見つめ返すと、ぷくっと頬を膨らませたななし。

『気にしなくても、私はロイ以外見てないんだからね』
「…ん、分かってる」
『もう!……でも、嫉妬してくれてたの嬉しいし…そんな時でも優しいロイって、やっぱりロイなんだなぁって思った』
「どういう意味だ、それ……あと優しくない」

色々してしまったし、と言うとななしはきょとんとした顔を見せた後そっぽを向いて呟いた。

『優しいよ、だって……嫉妬してたからいつもとは何処か違ったけど…でも、私が痛がることとかしないし、その……』
「?」
『……気持ちいい所、ずっとしてたから、その…うう、こ、これ以上は言えない!!』
「いてっ」

恥ずかしさが限界まで行ったらしいななしに肩を強めに叩かれる。
未だそっぽを向いたままのななしの耳は、行為の時以上に赤い気がして小さく笑った。

私は優しくなんてない。
嫉妬や独占欲でまみれた男だ。
だが、ななしが私を優しいと感じていてくれているならそれでいいじゃないか、そう思うことが自然と出来た。

「…確かに私は優しいのかもしれない」
『そ、それ……自分で言う…!?優しいんだけどさ…!』
「でもそれは、ななしにだけだよ」
『……!』

ななしだから、意識的にでも無意識にでも優しくするんだ。
ななしだから、嫉妬や独占欲を出してしまうんだ。

振り返ったななしは目を丸くしてから、ぶはっと笑う。

『あはは!うん、私にだけ!』

彼女の特権!優越感だー!
なんて喜ぶななし。

これからも嫉妬はするし、独占欲で他の男に牽制したりするとは思うが、それ以上に大切に大切にしていこう。

心の中でそう誓いを立てて、私はななしに触れるだけのキスをした。



2020/01/13