ぽかぽかと暖かな昼下がり。
仲良く昼食も終えて、それぞれの時間が過ぎていく。
ソファに体を預けているロイは、最近お気に入りだと言っていた本をゆっくりと読んでいる。
私もそれを見習ってロイの横で大人しく本を読んでいたけれど、食事後というのもあって段々と眠くなってきてしまい目を軽く擦った。

何とか起きていようと必死に目を開けるけれど、私の意思に反してどんどん瞼が落ちていく。
ああ…もうだめだ、と諦めた私の視界にロイの足が見えて、私はロイに声を掛けずに頭を足に預けた。
下からじっとロイを見る。
下から見ても分かるくらいに整っているその顔に何だか少し照れてしまって、ロイのお腹の方へ顔を向けた。

『……』

ちょっとした好奇心でロイの服を捲る。
普段は見る事の無い、鍛えられたお腹。
またまた少しの好奇心で、ツーっとお腹を指でなぞった。
…うん、硬い。

「…誘ってるのかな」

ふと聞こえたその声に思わず上を見ると、ばちりと目が合う。

『…目の前にロイのお腹があったら、それはもう触っちゃうのが当然なんです』
「それは初耳だ」

私が眠いことを気付いてくれているのだろう。
普段よりも優しく静かに、そしてゆっくりと話してくれているそれが心地よくて…余計眠りに誘われる。
優しく頭を撫でられて自然と目を閉じる。
あぁ、寝ちゃいそうだなぁなんて思っていると、ふわりと漂う優しい匂いに気が付いて目を開けた。

「ん?」
『ロイ、いい匂い』

頭を撫でていてくれた手を掴んで、すんすんと匂いを嗅ぐ。
甘くて優しくて…でも何処か爽やかな、いい匂い。
ハンドクリームかな?とも思ったけれど、ロイはそういったものを滅多に付けないので違う。

『…えいっ』
「おっと」

もう一度ロイの服を捲ってお腹に顔を寄せる。

『やっぱりこの匂いロイからだ』

手と同じ匂い。
それはどうやら、ロイの体からの匂いだったみたいだ。

『なんでこんなにいい匂いなんだろう…ずっと嗅いでいたい』
「変態のような発言だなぁ」

ロイの声を聞きながら、腰に手を回してお腹の匂いを堪能する。
そのうちに、また段々と眠くなってきてゆらゆらとまぶたを揺らした。

「ななし」
『ん…?』

名前を呼ばれると同時に体が宙に浮かんで、ロイの顔が近くなる。
あ、抱き抱えられてる…と気付いた時には寝室まで運ばれていて、優しくベッドへと寝かされた。

「側に居るから、少し眠るといい」

私の額にキスを落としたロイはそう言って笑って。
本当、優しいなぁ…なんて思って目を閉じたけれど体の違和感に気が付いて足元を見る。
同時に、するりとロイが私の足を撫でた。

『ん、え…?』
「その前に……やられっぱなしは性分じゃないんでな」

そう言ったロイは、私の太ももに唇を寄せる。
ちゅ、というかわいい音と共に来る甘い痺れに、一体何が起きているのか理解が出来なくて。
頭にハテナを浮かべていると、ふっと笑ったロイと目が合った。
そしてお腹にも唇を寄せられて、また甘く痺れる。
そこでキスマークを付けられているのに気が付いた。

『なに、して…?』
「気にしなくていいよ」

そんな事言われたって、絶え間無く続くそれに体は反応してしまうもので。

『ん…』

小さく声を漏らしてしまって、恥ずかしさで心臓の音が大きく速くなる。
ロイはそんな私を見て悪戯っぽく笑った。

「ななし、私からいい匂いがするって言ったろ?」
『え…?う、うん…』
「その言葉、誘い文句にしか聞こえなかった」
『え、え?な、何で』

誘い文句?何で?と首を傾げると、ロイはふっと笑って私の唇にキスを落とす。

「異性の体から感じる匂いは、本能と直結しているんだよ」
『え…?』
「つまり、いい匂いに感じれば感じるほどその異性の遺伝子を求めている事になる」
『遺伝子…?……えっ』

その話に驚いて目を丸くするとロイは何処か嬉しそうに私の頬を撫でて、もう一度唇を重ねた。
今度は深くてとろとろとした、体が溶けて無くなっちゃいそうになるキス。
胸の奥がきゅーっと痺れていくのを感じる。

『ん、はぁ…』

酸素を取り入れようと必死な私の唇をぺろりと舐めたロイは、私の頭をぽんぽんと叩くように撫でた。

「…起こすから、少しの間眠っていいよ」
『え、』

ぽかん、としてしまった。
だって雰囲気的にそういう流れに……

「期待、しただろ?」
『ーーーっ!』

かぁーっと顔が熱くなるのを感じる。
そうだよ、こんなのまるで続きをしたがっているみたいじゃないか。
そう考えると、何だか自分が凄く恥ずかしくて…布団を引いて勢いよく顔を隠した。

『…いじわる、』

そう小さく呟くと、ベッドの軋む音が聞こえて。

「続きは起きたらな」

耳元で聞こえたそれに体が震える。
私はロイがいい匂いだと感じただけで遺伝子とか、そんなつもりは…と思ったけれど、お腹の奥はきゅんきゅんと疼いてしまっていて。
早く受け入れたいと言わんばかりに体が敏感になってきてしまっている。

「おやすみ、良い夢を」

そう言ったロイは、布団を握る私の指先にキスを落とす。
こんなの眠れるわけないじゃん!とすっかり覚めてしまった目を強く閉じて、私は頭の中で必死に羊を数え始めた。





2019/12/16