すっかりと寒くなってきた今日この頃。 二人の体温で暖かくなっているベッドが余程気持ちいいのか、布団に顔をうずめて眠るななし。 その真っ赤な頬を見ていると、自然と顔が綻ぶ自分がいる。 いや、にやけてしまう理由はそれだけではない。 実は、最近ななしにある変化が起こっているのだ。 まだまだ寝顔を眺めていたい気持ちを何とか抑えて、ゆっくりと起き上がる。 目を覚ます為の伸びをして、未だ夢の中なななしにそっと声を掛けた。 「ななし、朝だぞ」 出来るだけ優しくそう言って頭を撫でる。 …反応は無い。 「ほら、早く起きないと仕事に遅れるぞ」 まぁ二人きりの時間が増えるなら、それはそれで良いけどな。と呟く。 顔の横に投げ出されていた可愛らしい手がぴくりと動いた。 どうやら起きたようだ。 …そして、ここからがある変化、というもので。 『…ん、うぅ…』 窓から覗く朝日が瞼越しでも眩しいようで、目を閉じたまま顔をしかめるななしは、もそもそと動いて私の腰に両手を回した。 『さむい…まだ起きたくない…』 …そう、これだ。 これこそが、ななしに起こっている変化だ。 まだまだ眠たげなななしの手がふんわりと優しく私を抱きしめる。 すりすりと私の体に顔を寄せ、ふにゃりと口角を上げるななし。 その行動、仕草に毎朝心踊ってしまうこちらの身にもなってほしい。 この行動の意味は実に簡単で、単に寒さからくるものなのだと私は思う。 何度考えてみても夏にこんな事は起きていなかったからだ。 さながら、冬限定のイベントの様なものなのだろうか。 冬限定だったとしても、あの不眠で苦しんでいたななしの口から"まだ起きたくない"なんて言葉が出てくるのには最初は驚きを通り越して感動したもので。 そういった事もあり、私は毎朝この時間が楽しみで堪らなくなってきているのだ。 …こうして抱きしめてもらう為に、この会話をする為だけに少しだけ早く起きる日もあったり。 「ほら、ななし」 『んんー…』 小さく肩を揺さぶると、腰に回されている手に力がこもった。 先程まで眠っていた事もあって、普段よりも高い彼女の体温がじんわりと私に伝わってくる。 ああ、いつまでもこうしていたい…そう思ってしまうのは恋人として当然の事だろうが、勿論時間はそれを待ってくれない。 そろそろ起きないと、ななしと朝食をゆっくり楽しむ時間が無くなってしまう。 朝の幸せな時間を自分自身が奪うのは本望では無いが、こればかりは避けて通れないのだ。 「そろそろ起きないと朝食が忙しくなるぞ」 『うぅ〜…』 「そんな可愛く唸っても時計の針は止まらないからな」 『………寒くて動きたくない』 しっかりと目が覚めた様子のななしはそう小さく呟くと、ぶるりと体を震わせてまた縮こまる。 その姿はまるで小動物のようで、見ていて飽きない。 「ほら、起きろ」 『うう…やだよ〜さむいよぅ…』 そんな甘えたような声ですり寄られると、じゃあもう少しだけ…と言ってしまいたくなるのが恋人というものだが、時間が迫ってきているのも事実で。 「ほら、一緒に朝食を用意しよう」 『うう…』 「今日はななしの好きなフレンチトーストにしようか。コーンスープとオニオンスープ、どちらがお好みかな?」 『…………コーンスープがいい』 「よし、決まりだな。ほら、おいで」 頭を優しく撫でると、ゆっくりと起き上がったななしはそのまま私にもたれ掛かるように抱きついてきた。 「どうした?」 『ん……おはよう、ロイ』 「ああ、おはようななし」 ぎゅっと抱きしめ返すと、とても嬉しそうに笑うななしの柔らかい声が耳に届く。 本当は直ぐに用意をしなくてはならないけど、 もう少しだけ、こうしていたい。 そう思ってしまうのは、きっとこの腕の中に居る可愛い恋人との時間が何よりも暖かくて、何よりも優しくて、何よりも大切だからなのだろう。 「はぁ…幸せだ」 だからこそ、こうして自分でもむず痒くなるような事を言ってしまうのだろう。 『ふふ、そうだねぇ』 ふわふわとした甘いこの空気がとても心地よくて、私はきっと明日もこうして幸せを噛みしめるのだ。 2019/11/13 |