キラキラとした星が沢山散りばめられた夜空の下、ロイと私は足並みを揃えて商店街を歩く。
ロイの仕事にリザと私が同行して、リザの指示で完璧に仕事をこなしている間にすっかり暗くなっていて。
帰る頃には、普段なら子供が走り回っているこの道もすっかり大人の雰囲気を纏っていて子供一人いない。

ロイと何でもないお話をしながら歩いていると、ぴゅう、と冷たい風が体を撫でていって思わず身震いをした。

『うう、さむっ』
「もう秋だからなあ、流石に肌寒くなってきたか」

ふぅ、と息を吐いたロイ。
流石に息は白くならなかったものの、それでもロイの鼻はうっすらと赤くなっていてちょっと可愛い。
そんな私も段々と手が冷えてきてしまって、温める為に手を擦り合わせる。
時々手の中に息を吐いて歩いていると、ロイの視線が私に向いた事に気が付いて。
目が合ったロイは、にこやかに私を見ていて…それが何だか恥ずかしくて擦り合わせていた手を止めた。

「やめなくていいのに」
『なんか恥ずかしいから嫌だ…』

ぷく、と口を膨らましてそっぽを向くと、膨らんだ頬をロイの指が突っついて口からぷすーっと空気が抜けていく。

「…っふ、」
『もー!何するの!』
「いや、つい」
『つい、じゃない!もー!』

楽しそうに笑うロイの腕を軽く叩いた。

「いてて…それにしてもあれだなぁ、そろそろ見ていて楽しくなる季節になる」
『なに、急に…楽しくなるって何が?』
「寒くなるにつれてななしがモコモコになっていくだろ?耳と鼻を真っ赤に染めてモコモコしている姿は、中々に可愛らしくて癒される」
『え、は…な、何言って…!』

発せられた甘い言葉に、顔が熱くなる。
そんな顔を見られたくなくて咄嗟に顔を背けると、ロイの笑い声が聞こえて。

「可愛い反応だなあ」
『みっ、見なくてよろしーい!!』
「うぐぅっ…!」

優しく笑うロイが顔を覗き込んできてそんな事を言うものだから、熱くなった頬が更に熱くなるのを感じて、照れ隠しのつもりでロイの横腹を殴る。
それほど強く殴っていないものの、咄嗟の事によろけたロイ。

「…照れ隠しで手が出るのは辞めた方がいい…私の身がもたん…」
『ロイが変な事言わなければいいの!』
「それじゃあななしに好きも可愛いも言えないぞ」

いいのか、と顔を覗き込まれて言葉に詰まる。

『そ、それは…嫌、だけど…』

好きって言われるの、嬉しいし…と言葉を続けると、突然ロイが私を抱きしめきて。
何事かと慌てれば、耳元で深く息を吐く音が聞こえた。

いつの間にか商店街を抜けていたらしい。
ロイの向こうに見えるキラキラとした景色が何だか遠いものに感じて、私達以外誰も居ないこの空間が何だか不思議に思えた。

上を見上げれば沢山の星が輝いていて、思わず見とれていると首もとにロイの唇が当たる感覚。
吃驚して離れようとしたけれど、強く抱きしめられていて離れることができない。

『っ…ロイ!ここ、道のど真ん中!』
「誰も居ないしキスくらい大丈夫だと思うが」
『だ、大丈夫じゃない!こういうのは家に帰ってからっ…!』

誰も居ないとは言えすぐそこは賑わっていて、いつ誰が来るか分からない状態で。
恥ずかしいから!と力を入れれば、簡単に押し返せるロイの体に驚く。

『あ、あれ…?』

さっきまでどんなに力を入れても押し返せなかったのに、一体どういう風の吹き回し?と拍子抜けしてロイの顔を見上げる。
…あ、何か意地悪な顔してるかも。

「今の話からすると、家に帰れば好きにしていいって事に…」
『え…え!?ち、違う!そう言う意味じゃ…いや、そう言う意味なんだけど……うぅ…!』

言ってしまった事は取り返す事が出来なくて、やってしまったと小さく唸る。
どうにかしてこのピンチを乗り切らなければ…!と少し後退りをして、ロイが気づく前に走り出そうとしたけど一足遅かったようで。
いつの間にか腰に回ってきていたロイの手によって引き寄せられた私は、あっという間にロイの腕の中にいた。

『う…』
「ななしが言ったことだからな、逃がさないぞ」

そう言っていつもは見せないような顔を見せるから、不覚にもドキっとしてしまって。
あのまま逃げる事が出来たなら違う結末が待っていたかもしれない、と少しの後悔が生まれたけど、捕まってしまった以上私に抵抗する術はなくて潔く諦めることにした。

『…チョコ、食べたい』
「それじゃ、帰ったらまず温かいコーヒーと甘いチョコレートで休憩しようか」

そう言っていつもの笑顔を見せてくれたロイだけど、その後に何が待ってるかを想像したら何だか身体中が暑くなってきて。
いつもこうしてロイのペースに持っていかれるんだよね、と心の中で小さくため息を吐きつつ目の前に差し出された少し冷たい愛しい手に触れた。



2019/10/16