じーーーー。

朝支度の時、仕事の時、食事の時、そして今。
今日は朝からななしの視線が痛い。

女性からの視線は気分が良いし、それが心から好きな相手だったなら尚更嬉しいが、こうも毎秒毎分見つめられると困ってしまうのも事実で。
訳を聞こうにも、タイミング悪くアームストロング少佐が訪ねて来たりハボックが彼女自慢を始めたりと中々聞けず…今に至るのだが。

皿洗いを終わらせた私は振り返って、私をずっと見ているななしへ近づいた。

「あー…ななし?」
『……え?』
「今日は熱い視線を沢山くれるけど、何かあったかな」
『えっや、あの』

そう言って目線を合わせれば、ななしは慌てたように伏し目がちに目を逸らす。
この反応からするに無意識に見ていたようで、ななしはゆっくりとその可愛らしい口を開く。

『…レベッカがね、男の人は家事を手伝ってくれない人もいるって』
「まあ居るだろうな」
『大佐はどうなのって聞かれたから、手伝ってくれるって言ったらすっっっごく驚かれて』

周りからは、そんなに手伝わない男に見えているのだろうか。
何から何まで彼女にやらせるのは好きじゃない。
だからこそ、今日みたいに食事の後片付けは私がやる時もあるし掃除も一緒にやるのだが。

『…意外だねって』
「…」
『なんか、お家ではワイングラスを片手にななしの肩を抱いてそうって』
「凄い偏見だな」
『だから、家では珈琲飲むし私好みのココアも淹れてくれるし、肩を抱くよりも頭を撫でてくれる方が多いって伝えたんだけど』
「な、なるほど」

何から何まで話されると恥ずかしいと言うかなんと言うか…

『……そしたらね、』

もじもじと手遊びを始めるななしを不思議に思って顔を覗き込むと、ほんのりと頬を染めたななしが慌てた様子で目を逸らした。

『……』
「ななし?」
『……大佐はきっと良い旦那さんになるわね…って言われて』
「…ほう?」

なるほど赤面の理由はこれか、と一人納得してなんとも言えない優越感に浸る。
旦那…ななしの夫
うん、中々良い響きだ。なんて。

『そんな事言われると気になっちゃうものじゃない?だから、ついじーっと…』
「未来の夫へ熱い視線をってわけか」
『みっみらっ…!』

かあっと一気に顔を赤くしたななしは狼狽えるろうに後退りしていったが、逃がすかと手首を掴む。
掴まれた手首と私の顔を交互に見るななし。

「私が相手じゃ不服かな?」
『そ、そんな事あるわけない!む、寧ろロイの方が、』
「私は大歓迎だけどなあ、ななし以外と一緒になる気は無いし」
『そっそ、そういうこと言う…!』

もう!と言いながらうずくまるななし。
少し攻めすぎたか、としゃがんで頭を撫でると、暫くして顔を上げたななしは少し潤ませた瞳で私を見つめて

『…わ、私もロイ以外考えられないし』

…なんて言うものだから、一瞬息が止まってしまって。

「…、不意打ちはずるいな」
『ロイだって不意打ちだった』

じとりと私を睨むななしだが、潤んだ瞳でされても全く怖くもないし照れ隠しだと言うのが丸分かりで。
どちらからともなく唇を重ねてゆっくりと離れると、ななしが私の胸へと体を寄せてきて条件反射で思わず抱きしめる。

『…ロイ』
「ん?」
『…………すき』

少しの沈黙の後、小さく呟かれたその言葉に自分の心臓が速まるのを感じる。
そこからはもう殆ど衝動的にななしを優しく押し倒して何度も何度もキスを繰り返した。
少しばかり激しいその行為をななしは私の服をきゅっと握って必死に受け入れていて、その姿に自分の中の何かが疼く感覚がして。

…だが、こんな所で事を進めるのはどうなんだと冷静になる自分も居て。
彼女の体も考えてやはりここは寝室へ…と抱き上げようとした時、ななしの手が私の首へと回されてそのまま少し強引に引き寄せられ唇が重なる。

『…いい』

その意味は、恐らく此処でも良いよという事なのだろう。
ななしはもう一度私へと唇を寄せた。

「…止められないぞ」
『ん…』

恥ずかしそうに目を逸らすななしに体がぞくりと震えつつ、彼女の首筋へと顔を寄せた。
音を立てながらそこへ痕を付ける。

『んっ…付けなくても、いい、のに…』
「付けられたくない?」
『違…だって、私はもうこの先ずっと……ロイの、もの…………だし、』

どんどんと小さくなっていくその言葉に自身のものが熱くなるのを感じて。

『ロイ…?』
「本当、今日は……止められそうにないな、」
『んぅ、』

私のものだと言ってくれる事も、必死に行為を受け入れてくれている姿も、何もかもが愛おしい。
私はそんな優しい彼女へ応えるべく、優しく優しく彼女の体を愛していった。


2019/9/21