天気が続いていた今日この頃、遂に雨が降った。
それはそれはもうどしゃ降りなのだが、気温が高いということもあって少しだけ蒸していて。
蒸していた、という事は…まあつまり湿気も凄いわけで。
仕事も終わり帰宅する頃には髪の毛の先が四方八方に飛び、いつもより全体が広がってしまっていて、それが嫌でお風呂に入る事にしたのだ。

…だけど習慣というのは怖いもので、無意識に用意していた部屋着は薄手のもので。
それに気づいたのは、お風呂から上がった時だった。

『ううーん…しょうがない』

クローゼットから厚手のものを出してこようか、と考えたけれど面倒くさいという気持ちの方が勝ってしまい薄手の部屋着に腕を通す。

髪をタオルで雑に拭きながら脱衣所から出ようと扉を開ければ、丁度帰ってきたらしいロイと目が合って。

『おかえり!』
「ただいま」

何気ないその会話が何だか楽しくて笑えば、ロイもそう思ってくれていたのか口角が上がっていて、それが嬉しくて頬をかいた。

「風呂に入ってたのか」
『うん!今日湿気が凄かったから…こう、髪の毛がぼわっ!!ってなってくるるってなって』
「ふは、なるほど?」

吹き出すように笑ったロイは、まだ濡れている私の頭を撫でてから手に持っていた小さい紙袋を見せてくれて。
なんだなんだ、と見てみればそこには輝かしくて心踊る単語が書かれていた。

『ココア!』
「帰り道、ティーショップがワゴンで出店をしている所をたまたま見かけたので買ってきたんだ」
『ふおおお……』
「今日は冷えるからな、温かいココアを淹れてあげるからキチンと髪を乾かしておいで」
『はあい!』

私の頬に触れてそう笑うロイに元気よく返事をして、もう一度脱衣所へと入った。







『うぃ〜…さむい…』
「年頃の女性とは思えない声だなあ」
『だって寒いんだよ!』
「着込めば良かったのに」

美味しいココアも飲み終わり布団に潜って身震いをすれば、またロイが可笑しそうに笑って。
確かに着込めばいいんだけど…でもそれよりも何よりも布団に潜ってしまいたかったのだ。
ベッドへ潜り込んでしまえば、きっと直ぐに暖かくなるだろうと思っていたから。
…だけど現実はそこまで甘くなくて、未だに寒いままで思わずロイの腕に抱きついた。

『ロイの腕、あったかあい…』

両腕でホールドしたロイの腕は、がっしりとしていて抱きつきやすくて…いい匂いもするし温かいし。
まさに最高の腕!
そんな事を言いながらぎゅうぎゅうと絡み付けば、ロイの思い詰めたようなため息が聞こえて。

どうしたの?と声を掛けるよりも先にロイが私の上へと来て私の両手をベッドへと優しく縫い付けた。

『え、ロイ?』

突然の事で理解が追い付かない私はただ目を丸くしてロイを見て。
そんな私をじっと見つめていたロイは、ゆっくりとキスを一つ落とした。

「ここまで無邪気だと耐える此方側も辛いよなあ」
『え?え?どいういう、』
「本当、無意識なほど残酷なものはない」
『もう!意味が、ひゃっ、』

するり、とロイの手が私の服の下へと滑っていく。
その瞬間ロイが何を言っていたかを理解した私の顔は、どんどんと熱くなっていって。
それを見ていたロイはちょっとだけ嬉しそうに笑った。

「やっと理解したか」
『っ……す、するの…?』

入り込んできたロイの手をこれ以上奥へ行かせないぞと言わんばかりに両手で押さえれば、ロイの手がぴくりと動いて。

「……今凄くしたくなった」

ちゅ、と首筋に優しくキスをされて、ぴくりと震える。

「汗をかくほど暖まると思うよ」
『そ、それは遠慮…あっ』
「ななし」
『っ、ん』

…ずるい。
そんな誰も聞いたことがないような甘い声で名前を呼ばれたら、優しいキスを落とされたら。
体の力が抜けてしまうのは当然の事なのだ。
ロイの手を押さえていた力も抜けてもうどうにでもなれ精神で手を下ろせば、また笑う声が聞こえて。

「可愛い子だなあ」
『…そ、そういうの恥ずかしいから、』
「そんな事言われると、私しか知らない表情をもっと見なくなる」

そう言ったロイの顔はほんのりと赤いけど…でも何だかギラリとした瞳で。
あー…本当に汗かきそうだな、またお風呂に入らなくちゃ。
そんな事をぼんやりと考えつつ、ロイの体を受け入れた。



2019/07/15