『リザ!』 「もう、ななしったら」 耳に入ってきたその声に顔を上げれば、ななしが中尉に抱きついていた。 彼女には抱きつき癖がある。 仲の良い人物には所構わず抱きついてしまうこともしばしばで、尚且つ男女関係無く。 『フュリー、この前はありがとう!助かっちゃった!』 「いえ!自分の知識が活かせて良かったです!また何かあったら全力でサポートしますね!」 『ありがとう〜!』 「わっ!」 考えていたそばから曹長に抱きつくななし。 その光景を目の当たりにして少しだけ眉間にシワを寄せる。 仕事を手伝って貰ったとは聞いていたし、それに対して礼を伝えるのは当然の事だとは思うが…果たして抱きつくというのはどうなのだろうか。 というか、いくら仲間とはいえ他の男に抱きついている姿を見るのは中々に嫌なもので。 …だが、情報収集とはいえ私も女性の肩を抱くことがあるので何も言えず。 いや、まだそれだけなら良いが… 最近はこれよりも大きな問題が一つあるのだ。 「ななし」 『うん?』 「おいで」 首を傾げたななしへ向けて両手を軽く広げてみる。 普段であれば恥ずかしがりながらも近づいて来てくれたり、来なくとも私から行けば拒む事無く受け入れてくれるのだが。 『や、やめとく』 ばつが悪そうに顔を背けるななし。 試しに近づいてみると、びくりと身体を震わせたななしは逃げるように中尉へと抱きついた。 これには中尉達も驚いている様子で、全員ぽかんとななしを見つめる。 「どうかしたの?」 中尉が彼女の頭を撫でながらそう聞いてみても、ななしは唸りながらも中尉から離れようともせず。 心なしか彼女の耳が赤い気がする。 だが、この行動が抱きつくのが恥ずかしいという照れ隠しなどだとしても、流石の私も戸惑ってしまい立ち尽くしてしまうわけで。 ななしはそんな私を一目してぽそりと呟いた。 『…ロイには抱きつかない』 ひゅっ、と誰かが息を吸う声が聞こえる。 「どうして、」 『どっ……と、兎に角!駄目だから!』 そう叫んだななし。 恋人にそんな宣言をされて平気でいられる者など居るのだろうか。 いや、居ないだろう。 「えーっと…」 困ったようにななしと私を交互に見る曹長。 困っているのはこっちだ、と言いたいくらいだが、それをぐっと堪える。 平常心、平常心…と少し荒ぶっている心を落ち着かせる為にふう、とため息を一つ。 「……さて、仕事でもしようか」 「え…!?」 「あの大佐が!?」 「これは…」 「午後も仕事を頑張ろう!ははは」 「壊れている…」 そこから先は曖昧にしか覚えていないが、何故だかいつもの倍のスピードで仕事が進んだことだけは覚えている。 『ふはー疲れたあ』 自宅のソファに座って脱力する彼女の隣に座る。 抱きつかなければ何をしても大丈夫みたいで、現に頭を撫でているがななしは嬉しそうに目をつむってそれを受け入れていた。 「お疲れさま」 『ふふ、ロイもお疲れさまです!今日は沢山働いたから、リザがすっごく嬉しそうにしてたね!』 そう言って笑うななし。 言われてみれば、帰り際の中尉は普段より柔らかい表情をしていた気がする。 普段からどれだけ苦労を掛けていたか、と申し訳ない気持ちにもなるが如何せんこちらの気分はドン底だったわけで。 仕事中に喋る気力も席を立つ気力も無かったので、必然的に仕事に手を付けることになっただけなのだ。 『本当にお疲れさ…………こほん』 ふう、と息を漏らせば労ろうとしてくれたのかななしが抱きついてこようとしたので、受け止める為にも手を広げた。 その動きにななしはハッとした顔をして下手な咳払いを一つして座り直す。 「なんだ、来ないのか」 『いや、あの……えっと』 「理由は教えてもらえないのかな」 俯いた彼女から垂れる髪にさらりと触れれば、少し頬を染めたななしと目が合った。 昼の時も思ったが、この反応を見るに嫌われては居ないようでホッとする。 目が合ったななしの、直ぐに目を逸らして下に伏せるその仕草に何だかどきりとしてしまう。 『…だってね』 小さく口を開くななし。 『…だって、ロイに抱きつくと……その、え…………えっちな事、するから…』 恥ずかしそうに小さくゆっくりと話すななしに、思わず体が固まる。 …確かに抱きつかれるとそういう事をしたくなってしまって、結果仕事中に人目を盗んで致してしまう事もそう少なくは無いのだが。 「嫌だったかな」 『い、嫌なわけ無い!あっ……!』 勢い良く顔を上げて食いぎみでそう言ったななしは、しまったと言わんばかりに手で口を塞いだ。 みるみるうちに顔を赤くしていく彼女がとても可愛らしくて、くすりと笑う。 『わ、笑わないでよ!』 「わるい、可愛くてつい」 『っ…もう!』 恥ずかしさのあまりか両手で顔を覆ったななし。 その姿が本当に愛しくて堪らなくて、優しく両手をそっと退けた。 困り顔で目を潤ませるななしにどきりと胸が鳴る。 「そんな顔をされたら、ぱくっと食べてしまいたくなる」 そう言って額にキスを落とせば、ななしは赤い顔を更に赤くして体を震わせた。 『あ、あのね…ロイと、そういう…事すると、心臓が持たなくて…その、恥ずかしいから…あの、』 「うん」 『それに、仕事中にそういうのは…違う方向でドキドキする事もあるし、その後顔が見れなくて仕事にならないっていうか、』 「うーん」 『…ロイ?へ?あ、わ、』 頭を打たないように、後頭部に手を添えてソファに押し倒す。 押し倒されたななしは、咄嗟の事に状況が理解出来ていないようで何度も瞬きをしていて。 だが、直ぐに理解した様子で目を丸くした。 『え!?あ、あの、さっきの話聞いてた!?』 「聞いてた」 『じゃあなんで…!』 「あれほど可愛らしい事を言われて手を出さない男は居ないだろ」 そう笑ってキスを一つ落とす。 私の腕を掴む手に少し力が入っていたけれど、その手をとって恋人繋ぎをしてソファへ押し付けた。 『……す、するの?』 「したいな」 『う……そんな顔するなんて、ズルい…』 「駄目?」 『…あんまり、ドキドキさせないでね』 「それはななし次第だなあ」 恐らく無理難題であるそんな言葉に思わず笑って、もう一度唇を重ねた。 啄むようなキスを何度もしていると、ふとななしから声が漏れることがあって。 私はその隙を狙って、彼女の口内に舌を侵入させる。 『んぅ、ん、ん…』 唇を吸ったり、舌を絡めとったりしているとそれに合わせて震えるななし。 ちらりと顔を見てみると、ぎゅっと目を閉じて真っ赤な顔で必死に受け入れていて。 キスを続けたまま、彼女の軍服のボタンを外していく。 はらりと左右にはだけさせて、黒いキャミソールを上へとずらせばあっという間に下着一枚になった。 部屋が明るいために良く見えるそれは、ななしにとても似合っている色のもので。 そっとその膨らみに触れればななしは潤んだ瞳で私を見て、それが何とも 「…可愛いなあ」 『っ…』 どうやら声に出してしまったらしいその言葉を聞いたななしは、恥ずかしいのか目をきつく閉じた。 その目尻から零れ落ちた涙にキスを落とす。 『お、お願いだから、あんまり…ドキドキさせないで…!』 これ程までに可愛らしいお願いがあるだろうか。 可愛い恋人からの可愛いお願いはなるべく叶えてやりたい気持ちもあるのだが、如何せん私の抑えが効かないようで。 もう一度唇へとキスを落としつつ、柔らかなそれを下着越しに楽しむ。 優しく、優しく。 『ふ、』 小さく身を揺らしたななしは、くすぐったいのかそれとも別の感情か段々と上半身を反らすように浮かせてきた。 その隙を見逃さずに下着のホックを取り払って上へとずらして、頂きの部分を口に含めば可愛らしい声が聞こえて。 『んん、』 ちゅ、と音を立てて離れると口元に手を当てているななしと目が合う。 目元だけで分かる物欲しそうな表情を見て、彼女の下半身の服も脱がせてみる。 下着も早々に取っ払ってななしの手を私の首へと回させると彼女はその意味を理解したようでより一層顔を赤くした。 「いい?」 『…も、もし嫌って言ったら?』 「ここは望んでるようだけど、と言うかな」 『っ、へ、変態…!』 既に固くなっている自身を取り出して彼女の大切な所へと宛がう。 自身の先端で焦らすように撫でる度に鳴るぴちゃぴゃとした音を、わざとななしへと聞かせるようにしてみせる。 ななしには変態だと言われてしまったけれど、ゆらゆらと腰が揺れ始めている事に本人は気付いているのだろうか。 「ななし、」 『んっ…ふ、あ…っ!』 名前を呼んで、お望みであろうモノをゆっくりと入れる。 すんなりと入ったのを良いことに、ゆっくりと動き始めるとそれに合わせて可愛らしい声が聞こえ始めて。 「気持ちいい?」 『やっ…そ、んなのっ…わかんな……あっ』 「…ここかな」 『ひゃっ、ま、まってそこ……!』 一段と声が高くなった所を執拗に責める。 私の首の後ろで繋いでいる手に力が入ったのを感じ、きゅうきゅうと私を締め付けるそこを何度も擦れば彼女の腰が浮き始めて。 今、彼女を乱れさせているのは私なんだ、と考えるだけでぐっと質量が増した。 『ま、た…おっきくなった…っ』 「っ…ななしが可愛すぎるせい、だな」 『な、なにそ…ひゃっ…』 何度も同じ所を繰り返し責めつつななしへと唇を寄せる。 深く深く絡めるキスをしながら良いところを責めれば、より一層中がキツくなるのを感じて彼女ももう限界なのだという事を感じ取った。 『も…む、りっ…ロイ、いっしょにっ』 「っ、何処で覚えてくるんだ…そんなの、」 彼女から引き寄せられてもう一度深いキスをする。 その間も休めること無く責めたことにより遂に彼女が達し、それを追いかけるように私も彼女の中へと欲を吐き出した。 ちゃぷん、と水滴が垂れる。 私に抱きしめられる形で一緒の浴槽に入っているななしは、体を丸めてじっとしていて。 『…抱きつき禁止令は解くけど、仕事中にするのは駄目だからね』 「どうして?」 『だ、だって!行く場所行く場所で、ロイとの…その……』 「…なるほど?」 どうやら、致した場所へ仕事で向かう度にその事を思い出してしまっているようで。 今も私の腕の中でもじもじと恥ずかしがる彼女の首筋へと唇を寄せた。 「そういう反応見ると余計にしたくなるんだよなあ」 『……やっぱり抱きつき禁止で』 「え」 『暫く駄目だから!』 そう言ってぷりぷりと怒るななし。 今、大人しく抱きしめられている事については良いのか、と疑問には思うがそれを聞いたら暴れて離れていくのだろうと感じた私は口を閉じた。 そしてななしのそれは有言実行となり約3日間は眠る時以外抱きつき禁止となったのである。 2019/05/13 |