珍しく揃って休みの私達は、特に何をするわけでも無く自宅で過ごしていた。 本を読んでいた私は、それを閉じて横に座っているななしへと目を向ける。 幸せそうにココアに口をつけるななしは私の視線に気づくこと無く一人の世界に浸っている様子。 ひとくち飲んでは嬉しそうに笑って、またひとくち飲む。 私にはその楽しさが全く分からないのだが、彼女はとても楽しそうにそれを何度も行っていて。 今の彼女に好物であるチョコレートを渡してみたらどうなるのか。 ちょっとした好奇心で、冷蔵庫から持ってきたチョコレートを一粒ななしの口元へ運べば目を輝かせてパクリと頬張った。 『ふふ、美味しい』 そう言ってもぐもぐと口を動かす彼女がとても可愛らしくて笑みが溢れる。 いや、ななしはいつだって可愛らしいのだけど。 『はい、ロイも』 そう言って一粒私の口元へ運んでくるななし。 正直甘いものはそこまで好きでは無いのだけれど、可愛い恋人が所謂あーんをしてくれているのだから受け取らないワケが無く。 躊躇う事無くそれを含めば、目を輝かせてこちらを見つめるななしと目が合って。 「美味しいな」 『うん!』 思っていたよりも甘さ控えめであるそのチョコレートは、私でも素直に美味しいと思えるほどで。 私の言葉を聞いて満足そうに頷くななしは、ココアをまた一口含んだ。 こくり、と喉の奥へ送り出す可愛らしい音が聞こえた。 ほっと一息吐いたななしは、はっとしたように私にマグカップを差し出す。 「ココアとチョコレートの組み合わせは、私には甘すぎるよ」 『その甘さが良いのに…』 「一瞬で虫歯になりそうだな」 『ちゃんと歯を磨いてるから大丈夫!産まれてから一度も虫歯になった事ないよ!』 えっへん!と胸を張るななしの頭を優しく撫でる。 これ程までに甘いものを摂取しているのに虫歯になった事が無いのにも驚きだが、これ程までに細いことに関しても驚きで。 ななしの持っているマグカップをテーブルへ置いて、彼女を抱きしめる。 私の腕にすっぽりと入るななしは、抱きしめるだけで分かるくらいには細い。 食事も男顔負けの食べっぷりであるのに、この細さは一体どうなっているのか。 触れた感じ標準体型ではあるようだが、それでもいつもの食生活を見ていると細すぎて驚くほどで。 仕事で犯人を追ったり、よく動き回るからそこで燃焼されているのだろうか。 『あ、あの…ロイ?』 「ん?」 『そ、その…』 腕の中でもじもじと身を捩るななし。 どうやら私は気付かない内に彼女の身体を撫で回していたらしく。 ほんのり頬を染めたななしは、困ったように眉を下げて私を見つめていた。 『その…手付きが…』 そう言って私の手に自分の手を重ねるななし。 恥ずかしいからやめて、という合図なのだろうが、力を入れていない所を見るにそこまで嫌ではないらしい。 「ずっと触っていたいな」 『それは私の心臓が爆発しちゃうから…!』 そう言って顔を真っ赤にする彼女は、いつまで経っても初々しい反応で思わず笑みが溢れる。 ななしの前髪をかき分けて額へキスをして、驚いたように顔を上げた彼女のその唇へとキスをした。 ぴくりと身体を震わせたななしは、無意識かそうでないか私の服をきゅっと掴んでそれを受け入れて。 その姿が愛しくて堪らなくて、何度も何度もキスをする。 するりと彼女の口内へ忍び込めば、甘い味が広がって溶けていった。 『ん、んっ……』 ふるふると震える手で必死に私へしがみつくななしの顔は、どんどん真っ赤に染まっていっているようで。 こんな姿を見てキスを止めることが出来るわけもない。 『んぅ、ロイ……ん、』 口内も、蕩けた声で私の名前を呟くのも、ふわりと漂う彼女の香りも その全てが甘くて胸焼けしてしまいそうになる。 逃げる彼女の舌を捕まえて軽く吸えば、一際震えたななしは小さくくぐもった声をあげた。 そっと服の下から背中に手を回せば、ぴくりと反応するななし。 抵抗しないのを良いことに肌の感触を楽しんでさりげなく下着のホックを外すと、流石に気づいた様子のななしと目が合う。 『……するの?まだお昼なのに?』 「恋人の体温を感じるのに時間は関係ないだろ?」 『あ、明るいから…その、』 恥ずかしそうに胸を押さえる彼女がどうしようもなく可愛らしい。 私はもう一度ななしと唇を合わせて、行為を深くしていく。 甘くて少し艶のある声を時たま出しているななしの後頭部を手で包んでソファへと優しく押し倒せば、困ったように顔を真っ赤にした彼女が目を開けて。 『ん、……ろ、ロイ』 「夕方になったら、最近見つけたショコラショップに行こうか」 モノで釣ろうなんて我ながら酷い誘い方だとは思うけれど。 それでもななしには効果があったようで、目を輝かせている。 「それまで私と甘い時間を過ごそう」 『…ん』 耳元でそう囁けば背中に手を回したななしは小さく頷いた。 もう一度、唇を寄せる。 まだまだ甘い彼女の口内を何度も何度も楽しんだ私は、ゆっくりと彼女の膨らみへと手を滑らせた。 『チョコチョコー!』 夕焼けの中スキップ混じりに歩くななしの後ろをゆっくりと歩く。 私の手にぶら下がっている袋の中には、色々な種類のチョコレートが入っていて。 「ほら、転ぶぞ」 『平気だよー!』 余程楽しみなのか鼻唄混じりに、そう答えるななし。 そこまで喜んでくれるのは此方としても嬉しいものがあって自然と口角が上がる。 『ねえ、ロイ』 「ん?」 『今日は色々と甘い一日だったね』 「そうだな」 『…夜もね、甘くても良いかなあ…って思っちゃったりするんだけど』 そう言って振り返るななしは、頬を真っ赤に染め上げていて。 これはそういう意味だよな、と自己解釈した私はななしを引き寄せて触れるだけのキスを落とした。 『ん……ふふ』 唇を離すと何だか嬉しそうに笑うななし。 どうしてこの子はこんなに可愛らしいのか。 差し出された手に触れて、私は彼女の横へと歩き出した。 2019/05/06 |