ななしが中尉含む女性達と外食に行ってしまい、急遽一人となってしまった夜。
一人で食事と言うのも何だか味気無いと感じた私は、丁度誘われたということもあってヒューズと食事に来たのだが、それはもう大変で。

「でよお、エリシア何て言ったと思う?」
「パパくさーい」
「んな事うちの天使が言うわけ無いだろ!…"パパ、だいすき!"ってな…あは、あはは」

大笑いをしながらバシバシと肩を叩いてくるヒューズは、度数の高い酒のせいか既に顔が赤く。
妻子の話をしている時はかなりだらしない顔になっているのに、それに加えて顔が真っ赤だとさらに気持ち悪さが加速する。

まあヒューズとこうしてテーブルを囲むと言うのは中々楽しいものではあるが、話の九割が妻子の話となると聞いているこちらもげっそりしてしまうもので。
ふう、と息を吐いてから手元のアルコールを一口。

「で、どうなんだよななしとは」
「どうって」
「仲良く宜しくやっちゃってんのかって話だよ!」
「何だその言い方は…」
「だから、こう……ちゅっちゅっ…みたいなよお!」
「口を尖らせるな気持ち悪い」

恐らくキスのようなジェスチャーをしているヒューズは今日一番で気色が悪く、顔をしかめてジトリと視線を向けたが、全く気にしない様子のヒューズが何かを思い出したようで身を乗り出してきた。

「ロイ、知ってるか」
「何を」
「…女性は、酔うと開放的な気分になる人が稀にいるらしい」
「だから何だ」
「はー!分かっちゃいねえな、つまりだ…ななしは今日女子会とやらだろ?酒が飲める大人ならそこで飲むはずだ」
「だろうな」
「そして噂によるとななしは酒にそれほど強くないらしい」
「……なんで知ってるんだ」

確かにななしは酒に強いわけではなくて、どちらかと言うと真っ先に酔ってしまうタイプではある。
じとりとヒューズを睨めば、へらりと笑って肩を叩いて来てそれが絶妙に痛い。

「まあ良いんだよそれは」
「いや、良くないだろ」
「それは置いといてだな!」
「置いておくな!」
「これから酔って帰ってくるであろうななしは、それはもうアレなわけよ」
「…一応聞くが、アレと言うと」

待ってましたと言わんばかりの笑顔を見せたヒューズは、自身の体を抱いて体をくねらせながらゆっくりと静かに喋り始めた。

「開放的な気分になって普段とは想像もつかないくらいのななし…」
「…」
「酒のせいで暑いななしは上着を一枚脱いで、はだけた格好でお前に熱い視線を……」
「…………馬鹿馬鹿しい」
「あ、今想像したろ!」
「してない」
「お前さんの気持ち、よーく分かるぜ……好きな女のそういった姿はつい想像しちまうよなあ……オレだってグレイシアの」

唐突に妻自慢が始まったお陰で内心ホッとして手元を見れば、いつの間にかグラスを持つ手に力が入っていた様で。
…想像してしまったのが何だか悔しくてグラスに残っていた酒を一気に仰げば、ヒューズに聞いてるのかと怒られ。

「はあ」

何度目かのため息を吐いて、ヒューズの言葉に耳を傾けた。








「ただいま……もう帰ってるのか」

ガチャリとドアを開ければ、玄関先にななしの荷物が無造作に置いてあって彼女が帰ってきてる事を確認する。
その荷物を横目にリビングへの扉を開くと…

『あれ?ロイ、おかえりなさい!』

頬をほんのりと赤くしたななしがハッキリとした口調で私に微笑んできて、ホッと肩を撫で下ろした。
どうやらそこまで飲んでいなかったようで、ニコニコと笑っているななしは自分の横に座れと言わんばかりにぽすぽすとソファを叩いていて。

「中尉達との食事は楽しかったかな」
『それはそれはもう!でも、レベッカが…』
「…ななし?」

素直に従って彼女の横へと座ると、ぐっと口を結んだななしは暫く何かを考えた後にそっと私の手を握ってきて、無条件で握り返す。

『…レベッカがね、女は酔って甘えるものよって』
「ほう」
『酔っちゃったーって抱きついてみればロイはイチコロだって』
「…」
『チョロいって』
「…ちょろ、はは」

私は一体どう思われているのやら。
まあ確かにななしから抱きつかれたら一溜まりもないだろうが…
というか、話す内容と言うのは男女関係なくどこも大体同じだと言うのに少々驚きである。

『でね、抱きついた後はどうするのって聞いたら……その、』
「ん?」
『…その……そう言うことをするって細かく言われて、リザが止めてくれるまであんな事やそんな事……うう』

恥ずかしさのあまりか、ぷるぷると震えているななしを見て納得をする。
話の内容が刺激的すぎて、酔うに酔えなかったのだろう。
顔を真っ赤にして恥ずかしがるななしが容易に想像が出来きてしまって、からかう側はそれはそれは楽しいだろうなあと思ってしまった。

『なっ何笑ってるの!』
「いや…ななしは可愛いなあと」
『かっからかわれるのはもう十分です!』
「本気なんだけどな」
『うう………』

真っ赤な顔に手を寄せておでこにキスを一つ落とせば、恥ずかしさの限界を迎えたようで私の胸に顔を寄せるななし。
これ以上顔を見られたくないと言う合図なのだろうが、それはあまりにも逆効果で。

「ななし」
『な、なに…』
「ななしから可愛く誘われてみたいな」
『えっ…!?』
「前にどうやって誘うか話したことあっただろ?」
『う、ま、まあ…あったけど…』

勢いよく顔を上げたななしは、赤いままそれはもう困ったような顔をしていて。
思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて、ななしを抱き抱えて向かい合わせになるように私の膝へと跨がせた。

『ろ、ロイ酔ってる?』
「んー、どうかな」
『どうかなって…』
「私が酔ってても酔ってなくても関係ないだろ?」
『や、そうな……のかな…?』
「そうそう」

ななしもほろ酔い程度にはなっているらしく、普段なら言い返すところで言い返すことをせずに首を傾げていて。
その姿が可愛らしくて、ついいじめたくなってしまう。

「誘ってほしいな」
『…さ、誘うだけでいいの?』
「勿論」
『…………き、今日だけ、だからね、明日には忘れてよね』
「努力するよ」

忘れるなんて絶対に無理だろうな、と確信はしているが。
ななしは深呼吸を何度か繰り返してから小さな声で、よしと呟いて自身の軍服へと手を掛ける。

するりと肩から落ちた服は肘辺りで止まり、黒いキャミソールの紐が露になった。
所謂肩出し状態のななしは、私の首へと手を回して震える唇でキスを一つ。

『こ、此処からはロイが脱がせて……?』

真っ赤な顔でこてんと首を傾げるななし。
普段なら絶対に言わない様な言葉を言ってしまう辺り、やはり酔っているらしく。記憶が残っていた場合、明日の朝は凄いことになりそうだな……と少しだけわくわくした気持ちになる。

『…ちゃんと忘れて……ろ、ロイ?』
「なんだ?」
『なんだじゃなくて…!』

ななしの上着に手を掛けた所で腕を捕まれてそれを阻止された。
とぼけたように答えてみれば、ななしはより一層戸惑った様子で。

『さ、誘うだけで良いって……!』
「それで終わりなんて言ってないだろ?」
『え?』
「可愛い恋人から誘われたんだ、勿論それを受けるだろ?」
『え、えええ…!』
「ほら、手を退けて」
『や、え、だって』
「誘ったのはそっちだろ?」

そう言って意地悪に笑えば、困ったように涙を溜めるななし。
…その表情すらも誘っている様にしか見えないのに、知らずにぷくりと頬を膨らませる。

『い、いじわる…』
「…本当に嫌なら止めるけど」
『えっ……』

ぱっと手を退ければ、ななしは少し眉を下げてこちらをチラリと見た。
本当に分かりやすくて何を考えているかすぐに分かってしまうのが愛しく感じて。

『…しないの?』
「……それは、酔っているからこその言葉なのかな」
『え…わっ』

ななしの着ている上着に手を掛けて驚いている彼女に目もくれずに上着を脱がせ、露になった胸元に顔を寄せる。
女性らしくて甘い香りがして思わず舌を這わせれば、ふるりとななしの体が揺れて。

「このまましてもいい?」
『…ん』
「随分と素直だな」
『素直なのは嫌?』
「まさか」

するりとキャミソールの中に手を回して腰に触れると、ななしから小さく吐息が漏れるのを感じた。
その体があまりにも触り心地が良くて暫くの間その感触を楽しんでいれば、突然ななしに手を掴まれてそのまま彼女の胸へと誘われる。

『ん…もどかしい、から』

下着越しでも分かる柔らかなそれを優しく手で包み込めば、ななしが吐息混じりにそう言ってもう一度唇を寄せた。
先ほどの恥ずかしさから来る震えた唇じゃなくて、もっと求めているような…熱い唇。

目が合うと彼女は切ないような顔をして私の腹、ヘソの下辺りをするりと触って。
まるでそれを誘っているかのような行動に、流石の私もぴくりと体を震わせた。

『今日だけ、素直になるから……ほしい、』

そう言った彼女の要望に答えないわけが無く。
がっつきたい気持ちを押さえて、ソファの上に組敷いて頭を撫でる。

気持ち良さそうに目を細めたななしは、まるで抵抗する素振りも見せずに私の首へと手を回していて。

『ロイ、だいすき』

そう言ってふわりと笑ったななしにどきりと胸を打たれつつ素早く下着のホックを外す。
その間も、外しやすいようにと背中を浮かせるななしに正直戸惑いもあるが、喜びの気持ちの方が断然に大きくて。

ふと、ヒューズの言っていた"酔うと開放的になる女性が稀にいる"と言う話を思い出した。
…まさかななしがそう言ったタイプだとは。
驚きの発見だがこうして素直に求められるのは男として嬉しい事この上無いもので。

「愛してる」

私はそう言って、ななしの首筋へと顔を寄せた。












『わー!わー!!!』
「何だ、朝から……」
『わ、私…昨日…!』
「……可愛かったなあ」
『ひえっ……!』
「何度もおねだりしてくれたり」
『うううう……!』
「気持ち良さそうに……」
『もう言わなくて良いから!て言うか!何で忘れてないのー!!!』





2019/03/16