段々と気温が高くなってきた今日この頃。
そろそろ春の季節、と呼ばれるようになってきたこのセントラルシティは今日も例外では無く。

『あったかあーい…』

窓際に寝転んだ私は、暖かい日差しを全身に受けて思わず欠伸を一つ。
外はまだ風が冷たいけれど、建物の中だとそれはそれは暖かくて。
休日である今日、ロイと共に昼食を済ませた私はお腹いっぱいの中お行儀など気にせずウトウトと目を細めていた。

「そんな所で寝たら風邪引くぞ」
『暖かいから大丈夫…』
「まったく…」

そんな私をソファに座って見ていたロイは、ソファの背もたれに掛けてあったブランケットを持って私の横へと座った。
二人でも余裕で使える大きさのブランケットを広げたロイはそれを私のお腹へと掛けてくれる。

『ふふ、ありがとう』
「暖かいとはいえ、雲で日差しが遮られたら冷えるからな…風邪を引いたら困る」
『仕事が増えちゃうから?』
「それは無いなあ」
『どうして?』
「ななしが風邪を引いたら、いつでも寝られるように私が側に居てあげないと」
『私はよく眠れて嬉しい、ロイはサボれて嬉しい?』
「そうだなあ」

そう言って私の髪の毛に触れたロイは、私と目が合うと優しく微笑んで頭を撫でてくれた。
それがとっても気持ちよくて、目を閉じて受け入れればくすりと笑う声が聞こえて。

「随分と気持ち良さそうだな」
『ん…暖かいし、ロイが隣に居るし…頭撫でられるの好きだし』
「随分と気を許してくれてる」
『そりゃ恋人だし?……ロイじゃなきゃこんな風にならないよ』
「それは嬉しいなあ」

するりと頬を撫でるロイ。
目を閉じているからか音や匂いに敏感になっているようで、ロイの匂いがふと鼻を擽る。
私と同じ匂いにどこか爽やかな男性の匂いが混じっていて、少しだけどきりとした。

『…ね』
「ん?」
『ロイも寝ようよ』
「ここで?」
『うん!暖かいし、少しなら大丈夫でしょ!』
「床は固くて体が痛くなりそうだな」
『大丈夫大丈夫ー!ほら!』
「おっと、」

少しだけ渋るロイの腕を軽く引っ張ると、それに合わせて横になってくれるロイに思わず広角が上がる。
部屋の端っこ、窓の側でブランケットを分けっこして寝転ぶ私達は、端から見たら子供の様なのだろう。

「いつぶりだろう、日向ぼっこなんて」
『ロイもしたことあるの?』
「そりゃ子供の頃にはな」
『へー!意外!』
「起きたときに体が痛すぎてずっと体をさすってた記憶があるよ」
『ふふ、想像するとちょっと笑っちゃう!』

小さいロイが、痛いよーって体をさすっている姿を想像すると何だか微笑ましくて。
肩を震わせて笑っていれば、それが気にくわなかった様子のロイに鼻をつままれた。

『ふが、』
「…ぷっ」
『ふ…っもう!なにするの!お返しだー!』
「おわ、ちょ」

不意に変な声が出てしまってそれがロイのお気に召したらしく。
笑われてしまった私は、ロイの鼻をつまみ返した。

『あれ、変な声出さない……これならどうだ!』
「うっ…や、やめ……ふは…」
『こちょこちょー!』
「こ、こら……はは…そっちがその気なら、良いだろう…!」
『え?……わ、ひゃひゃひゃ!く、くすぐった…ふふっ、や、やめ…!』

ロイの変な声が聞きたくて擽ってみたけれど、直ぐにやり返されてしまってくすぐったくて身を捩る。
何とか離れようとじたばたと手足を動かしているうちに、いつの間にやらロイの腹部に手がぶつかってしまったようで。

「ぐ、」
『っ今だー!』

擽るのを一瞬止めたのを見切ってロイの上へと覆い被さる。
勢いよく行ってしまった為、ロイが小さく声をあげたけれどそんなのお構いなしで。

体重を掛けたまま脇腹などを擽れば、ロイから降参の声が上がって手を止めた。

『ふ、ふふ……』
「…大の大人が何やってんだ」
『ねー!でも楽しかった!』
「私は疲れた…」
『ロイの笑い声、一年分くらい聞いた気がする!』
「じゃあもう笑わないようにしようかな」
『え!それは駄目だよ!笑って!』
「分かった分かった」

ぐにーっとロイの両頬を引っ張って無理矢理笑わせる。
その顔がとっても面白くてケラケラと笑えば、ロイにまたお返しで頬を引っ張られて。

また二人で笑って、暫くしてシンと静かになる。

「…眠くなった?」
『ん……』
「沢山遊んだからなあ」
『ふふ、楽しかった…またしよ!』
「まあたまになら良いかもな」

ロイの上に乗っかったまま顔を覗き込めば、おでこにキスを一つ落とされた。
暴れたときに何処かへ行ってしまったブランケットを私の上に掛けたロイは、私の腰に手を回して背中を優しく撫でてくれて。

『…寝かし付けられてる気分』
「たまには良いだろ?」
『うん…落ち着く』

ロイの胸に顔を寄せて目を閉じる。
いい匂いで、暖かくて。
あまりにも心地が良くて、すぐにでも眠りに落ちてしまいそう。

『ロイは寝ないの…?』
「寝たら日が落ちる前にななしを起こせる自信がないよ」
『えー、大丈夫だよ寝ようよ』
「そうは言っても風邪引いたらなあ」
『起きたときにココア飲めば大丈夫!ね!』
「それはななしが飲みたいだけだろ」
『あれ、バレた?』

顔は上げずにその場でクスクスと笑えば、同じように小さく笑ったロイの体から次第に力が抜けるのを感じ取った。

「暖かい日差しに、可愛い恋人…最高の昼寝だなあ」
『可愛いとか、恥ずかしいから…』
「事実だろ?」
『それはロイに恋人フィルターがかかってるだけだよ』
「何だそれ」

くすりと笑ったロイは、私の頭を撫でてくれて。
私はその優しい行為と温もりに次第に意識が遠くなっていく。
それを感じ取ったらしいロイはおやすみ、と小さく呟いて。
私もウトウトとしながらおやすみ、と小さく返した。






2019/03/01