人間誰しも"眠れない夜"というものがあると思う。 そしてそれは普段不眠で困っている私にも降りかかって来ることがたまにあって。 シンと静まった空気の中、ロイの規則正しい寝息だけが聞こえる。 外はまたまだ真っ暗で、窓から覗く月によって照らされた部屋は何処か寂しげで切ない気持ちになってしまいそう。 『…ロイ、起きてる?』 なんて。 小さくぽそりと呟いてみたけれど、寝ているのに返ってくるはずもなく。 起こすわけにもいかず、せめて寂しさを紛らす為にも手を繋ぎたいと布団の中で手を伸ばす。 けれど、その動作で起こしてしまうのでは無いかと思ったら手が止まってしまって、結局繋ぐことも出来ず。 ……このまま、ちょっと外を散歩してこようかな。 壁に掛かっている時計を確認すれば、真夜中の二時で。 こんな時間に外に出るなんてロイは怒るかな、なんて考えだけれどそれでも外の空気が吸いたくてベッドから出ようとした時。 「…ななし」 『わ、…起こしちゃった?』 後ろから手をぎゅっと握られたのに驚いて振り向けば、寝ぼけ眼のロイがこちらを見ていて。 ふと、こんな顔のロイを見られるのは私だけなんだな、なんて考えて少しだけ優越感。 『眠れなくて……へへ…笑っちゃうよね、不眠なのにさ』 そう言って困ったように笑えば、ロイはむくりと起き上がって私の頭を優しく撫でてくれた。 「……笑わないよ、誰にだってそういう時はある」 その言葉に泣きそうになってしまって、でも泣きたくなんてなくて…ぐっと堪えればロイが面白そうに吹き出して。 「変な顔だな」 『なっひ、酷い!』 「どんな表情をしていても可愛いのに変わりはないけど」 『うっ…す、すぐそういうこと言う…!』 カッと熱くなった顔を隠す様に両手で頬を覆えば、クスクスと笑うロイにゆっくりとそれをほどかれる。 「コロコロと表情が変わって、見ていて面白い」 『っ……もー!からかって!!』 ぽかり、とロイの胸を叩く。 力を込めていないとはいえ、全く気にしない様子のロイを睨んで頬を膨らませれば、それがお気に召したのかまた頭を撫でられた。 「…外に行こうとしたんだろ?」 『何で分かったの…!?』 「ななしの考えることなら何でも」 『う、嬉しいような怖いような…複雑な気持ちだ…』 「ふあ……こんな夜中に女性一人じゃ危ないだろ、一緒に行くよ」 そう言って大きな欠伸をしてベッドから立ち上がるロイをぽかんと見上げれば、くすりと笑ったロイに手を差し出されて。 考えるよりも先に手が動いて、所謂条件反射で自分の手を重ねれば勢いよくその手を引かれて立ち上がる。 『わっ!』 「そうやって素直に手を出してくる仕草も可愛いなあ」 そう言って笑ったロイにどきりと胸を高鳴らせれば、いつの間にか腰に手を回されていた様で。 くっと弱い力で腰を引き寄せられて、そのまま唇に優しくキスを一つ落とされた。 『…、寝てたのにいいの?』 「一人で行かせたら心配で眠れないからな」 そう言ってクローゼットから二人のコートを出すロイ。 何だか、ロイの世界が私で回っている気がして嬉しいやら恥ずかしいやら申し訳ないやら。 『……外寒いよ』 「そうだなあ」 『体冷えちゃうよ』 「帰ってきたらななしの好きなココアを淹れてあげるよ」 『……ロイは私の事を甘やかしすぎだよ』 「好きな人だからなぁ、甘やかしたくもなるだろ」 そう言ってキスをもう一つ落としたロイは、外に出るために着々と用意していて。 こんなに愛されて良いのかな、なんて幸せすぎる疑問を頭の中で考えつつ私も用意をする。 コートを着たところで、ロイが私にマフラーを巻いてくれて。 『…幸せすぎて溶けちゃいそう』 「はは、何だそれ」 熱くなった顔をマフラーに埋めてそう呟けば、満更でもない表情のロイに頬を撫でられて体がぴくりと跳ねた。 「たまにはこういう夜があってもいいな」 『ん…ロイと夜のお散歩、楽しみ』 そう言ってにこりと笑えば、ロイも微笑み返してくれて心が躍る。 さっきまでの一人寂しい気持ちは何処へやら。 ロイのお陰で楽しくて幸せな気持ちでいっぱいになった私は、ドアを開けようとするロイの手を引っ張る。 「っ」 私の思わぬ行動で少しよろけたロイに、少しだけ背伸びをして目を閉じた。 2019/02/23 |