『ロイはさ、女の子からどんな風に誘われたら嬉しい?』

突然。
そりゃあもう突然そんなことを聞かれて目を見開く。
夕飯も風呂も済ませ寝室まで来た私達は、二人仲良くベッドに入ったのだが。
横にいるななしが興味津々にそう聞くものだから思わず言葉を失ってしまった。

『ロイ?』
「…一応聞くが、誘われたらって例えば?」
『うーん、ご飯行こ!とか…近くにカフェがオープンしたよ!とか…』

至極健全な回答で無意識に胸をなでおろす。
一瞬邪な考えを抱いてしまったが、このななしがそんな考えを持つわけがなく。
キラキラと瞳を輝かせて私を見つめてくる彼女の頭を優しく撫でた。

「また何処かで恋愛話でも聞いたか」
『よく分かったね!昔からのお友達がね、彼氏さんと出掛けたいんだって!でも誘い方が分からなくてって電話で聞いて…』
「恋人なら普通に誘えば良いんじゃないか?」
『どうせなら可愛く誘ってドキドキさせたいって!』

少しだけ興奮ぎみに話すななしの姿に思わず口角が上がる。
きっとななし自身もその友達と同じ考えなのだろう。
私が今その質問に答えた誘い方を今後してくれるのかな、と淡い期待も含めて考え込む。

「…どんな誘い方をされても恋人なら嬉しいからなあ」
『一番!一番喜ぶやつ!』
「難しいな…」
『じゃあね、私が試しに何個かやってみるからそれ見て考えてね!』

そう言って起き上がるななしに合わせて私も起き上がる。
しかしどうにも彼女のテンションが高い。
こんなに興奮していたら寝れなくなってしまうんじゃないか、と一瞬心配したがこれだけはしゃいでいれば疲れて直ぐにでも寝るだろう。

『じゃあ行くよ!最初はね……デートしたいな!』
「可愛いな、勿論いいよ」
『こ、答えなくてもいいよ!つ、次は……そこのドーナツ屋さん評判が良くて、行ってみたいな…!』
「ドーナツを頬張るななしも可愛いだろうな、今度行こうか」
『本当!やった!……じゃなくて!次!……一緒にお出掛けしたいな!』
「どんな事でも可愛くはしゃぐななしとなら散歩でも楽しそうだな、いつでも喜んで」
『…もう!』

ぷくりと頬を膨らませたななしを見て小さく笑えば、それが不服だったのか更に頬を膨らませる。

「つついたら破裂しそうだな」
『ぐろい!こわい!』
「冗談だよ」
『…それで、どれが一番良かったかな…?』
「どれも好きだなあ」
『えー!何それ!頑張ったのに…!』
「何をしても可愛いななしが悪いな、これは」
『いっ意味分かんない!』
「顔を真っ赤にして照れる姿も可愛い」

そう言って頬を撫でれば、ななしはたちまち大人しくなり私の服の裾を小さく握った。
赤い顔をして見上げてくるその姿に、ぞくぞくとした感情を沸き上がらせるとも知らず見つめてくるななしにキスを落とす。

『…結局どの誘い方が良いのか分からなかった』

未だ真っ赤な顔をしたななしがそう呟いて肩を落とした。
多分、その友達の彼氏とやらも私と同じでどう誘われても嬉しいと思うのだが。
明確に答えが欲しかった様子のななしを見てピンと閃く。

「男が恋人にされて一番応えたくなる誘い方ならあるが」
『え!教えて!』
「これはななしに実践してほしいな」
『するする!…わっ』

一瞬で嬉しそうな顔をするななしの手を掴んで倒れ込む。

『えっ?え?』
「そのまま跨がって」
『う、ん?跨がる…?』

不思議な様子で素直に跨がるななしに口角が上がるのを感じた。
無防備というか、なんと言うか。
此方としては嬉しい限りではあるが、私の居ない所でもこんなに無防備なのかと不安になりそうだ。

ふにふにとした柔らかくて細い太ももが視界に映り、撫でたい衝動に駆られたがぐっと堪えてななしの手に自分の手を絡める。

「私の方へ倒れこんで」
『倒れこんで……』
「耳元で   と呟く」
『…!?そ、そんなの言えない…!』

倒れこんできたななしの耳元で小さく囁けば、思った通りの反応で。
その可愛らしい反応にキスをひとつ贈る。

「これで応えない男はいないよ」
『じゃ、じゃあ友達にそう伝えとく…!』
「今ななしに言ってほしいな」
『う、うう…言えるわけ…』
「ななし」

真っ赤な顔で困っているななしの太ももを我慢できずにするりと撫でる。
びくりと体が震えた瞬間ななしの足に力が入って私の横腹を刺激した。

恥ずかしさのあまり顔を隠そうと私の肩に顔を埋めたななしの首筋に唇を這わせる。
小さく息が漏れるのを耳元で感じ取った私は、太ももに触れる手を腰に回す。

「言ってほしいな」
『や……』
「ななしの声で聞きたい」
『む、無理…』
「どうしても?」
『う……』
「聞きたいのになあ」
『………………い、一回だけ…お話聞いてくれたお礼に、一回だけなら…』
「ん」

少しだけ悲しそうにして肩を落として見せれば、ななしはそう小さく呟いて。
私の方をじっと見つめたまま、覚悟を決めたようにぎゅっと服の裾をつかんだ。

『……しよ?』
「…」
『…は、はずかし…わ、っ』

こてんと傾げられたその可愛らしい顔にキスを落とす。
驚いた様子の彼女は顔を赤くしてそれを素直に受け入れて、その姿が本当に可愛らしくて自分の中の何かが疼くのを感じた。
その瞬間にななしが体を強ばらせるのが分かってそちらの方を見れば案の定顔を真っ赤にしていて。

「どうした?」
『お、おしりに何か当たって……』
「そりゃまあ大好きな恋人にあんな誘われ方したらな」
『あ、れはロイのお願いで、』
「ななしが私の一番喜ぶ誘い方を聞いて来たんだろ?」
『これ、違う意味の誘う…!』
「でもこれで応えない男は居ないさ」

そう言ってキスをひとつ贈ると、赤い顔を更に赤くして私の胸をぽか、と殴るななし。

ちょっと苛めすぎた感じもあるが、たまにはこういうのも良いだろう。
そもそも直ぐにこんな気分になってしまうのはななしが可愛すぎるのが原因な訳で。

「誘ったからには受け入れる準備できてるのかな?」
『え、え!?まって、あの!』

恥ずかしそうに身を捩るけれど、決して逃げようとしないななし。
私は彼女のそんな優しさに甘えて、太もものさらに先へと手を滑らせた。







『誘い方を聞いただけなのに、何でこんなことに…』
「ななしが誘ってくるから」
『ロイが言わせたんでしょ!もう絶対言わない!』
「そう言われると言わせたくなるな」
『〜っ…ばか!』

私の腕の中でじたばたと暴れるななし。
そんな彼女に視線を向ければ怒ったように頬を膨らませてこちらを見ていて。

全く怖くもないその視線に、思わず笑みがこぼれてしまった。

『笑わないでよ!もー!』
「わるい、つい」
『もー怒った!』
「さっき話題に出たドーナツ、明日二人で買いに行こうか」
『う…』
「ゆっくり歩いてさ。勿論手を繋いでな」
『……行く』

怒ったと言ったのは何処へやら。
私のお誘いに、未だ不機嫌そうではあるが何処と無く嬉しそうにも感じるななしを見て頬が緩むのを感じた私は、彼女の頭にキスをひとつ落とす。
すると、大人しくなったななしが不意に起き上がった。

『こ、これだ!』
「え?」
『こんな風に優しく誘われたら誰だって嬉しい!行きたいお店を覚えてくれていると嬉しい!』

そう言って笑顔を見せるななし。
これだ、これだ!と何度も同じ言葉を続ける彼女は大分機嫌が良くなったようで一安心だ。

『明日早速伝えよう!ありがとう、ロイ!』
「私は特に何もしてないよ」
『ロイのお陰だよー!』

ぎゅっと私に抱きついてきたななしの腰に手を回す。
答えが見つかって嬉しい様子だが、嬉しすぎて自分の格好すら忘れているようで。

「所で、可愛くて素敵な素肌が丸見えだよ」

そう言って腰を撫でれば、途端に顔を赤くしたななしにぽかりと胸を叩かれた。
恥ずかしさの余り私の胸に顔を埋めた彼女だが、素肌同士の為お腹に彼女の柔らかい部分が当たる。

『…、わ…!ちょ、ロイ…!』
「悪い、我慢出来そうにない」

彼女のお腹に何か当たったそうで、恥ずかしそうに見上げてくるがそれも私自身を高ぶらせるもので。
耳元でそう呟いた私は、ゆっくりとその赤い唇に顔を寄せた。









2019/02/05