"ななし少佐は着痩せするタイプ"

昨日から軍の中で聞く噂に混じってそんな内容まで出回っている。
と言っても男性陣の間でしか広まっていないようだが、ななしの恋人である私からしたらとてつもなく気に食わない内容なわけで。
そして…今日も今日とてななしは噂の中心人物となっている。

恋人であり仲間でもある私達はよく一緒に行動するのだが、歩く度に感じる視線は何とも痛いもので。
……だが、当の本人ななしは気にする様子もなく、私に笑顔で話し掛けてくるのだ。


『でね、そのクッキーに……ロイ?』
「えっ?」
『考え込んでどうかした?』
「いや…………ななしは視線など気にしないのか、と考えてた」
『視線?………そう言えば、何で皆ロイを見てるんだろう?』


立ち止まって周りを見渡してからそう言って首を傾げる彼女に私は頭を抱えた。
どうやら"気にしない"のでは無く"気づかなかった"だけだったようだ。

チラリとななしの胸を見る。
見る分には控えめな彼女の胸。
恋人なうえに一緒に暮らしてるので、彼女のそのままの姿は何度も見ているが、軍服を着ている時とは胸のサイズが違うように見える。
本当に着痩せするタイプなのだ。

そう言えば、何故着痩せするという噂が広まったのだろうか。
彼女が仕事中に上着を脱ぐ事があっただろうか。

『……』

一点を見つめて考え込んでいれば、その見つめている所の少し上から強い視線を感じる。
素直に上へと視線をずらせば、ジトリとこちらを見るななしと目が合った。

『…どこ見てるの』
「胸」
『仕事中だよ』
「冷たいな…家だったら可愛い反応するだろうに」
『ひ、人前だから、ね?』
「好きな人の好きな所を見て何が悪いのかな」
『すっ、すき……!』

好きと言う言葉に顔を赤らめたななしは下を向いてもじもじとしている。
こう言ういつまでも初々しい反応をするのも可愛いもので、つい顔が緩んでしまう。


「所で最近仕事中にどこかで上着を脱いだ事は?」
『…上着?うーん…シャワー室なら』
「男も来れるような」
『え?………………あ!射撃場!』
「…射撃場?」
『うん!二日前リザに用があって射撃場に行ったんだけど、私も久しぶりにしようと思って…気合いを入れるために脱いだ!』

…脱いだ!って得意気に言われても…と、私は肩を落とす。

「気合いを入れる為だけに上着を」
『だ、だって上着少し固いから…構える時に邪魔で……』
「実際に射撃をする場面になった時も脱ぐ気か?」
『そんなことはしないけど…何でそんなに怒るの?』
「怒ってない」
『怒ってる!』

何故怒られているのか分からないといった様子のななし。
本当に怒っては無いのだ。
無いのだけれど

「上着の下は何を着ているんだったかな」
『え?えっと、キャミソール!』

そう、彼女は薄着なのだ。
初めてそれを知った時はかなり注意をしたもので。
中尉の様な厚い素材のものを着ろと言った事もあったが、私はそれだと動きにくい!と言われてしまった。

「薄着なのだからあまり脱がないようにと言った気がするが」
『うっ……』
「…今遠くから私たちを見ているあいつ達が何を話してるか分かるか?」

ヒソヒソと話しているような動作の男達。
ななしを見ている事が丸分かりのうえに、どいつもこいつも鼻の下を伸ばしている。

『ロイが格好いいなって話してる!』
「……それはななしの思っている事だろ?」
『あれ、バレちゃった!ふふふ、ロイ照れてるー!』
「うるさいな…」

面白そうに笑ってこちらを覗き込むななし。
ここが家だったらななしが泣いて喜ぶほどやり返すのに、なんて下心込みで考える。

『それで、何でロイを見てるの?』
「…皆ななしを見ている」
『え?私?』
「ななしと言うか……」

そう言いつつ彼女の胸に目線をやれば、鈍い彼女でも気付いたらしく勢いよく手でそこを覆った。

『え!?え!?な、なんで!?』
「ななしが着痩せするって噂になってるんだよ」
『き、着痩せ?』
「まあ俗に言う"脱いだら凄い"ってやつだな」
『ぬっ……!』

顔を真っ赤にして驚く彼女はぷるぷると震えている。
その姿が少しだけ面白い。

「それで……ななし?」
『は、恥ずかしくなってきたので誰も居ない所でお話をですね……』

軍服の裾を引っ張ってそう言う彼女は瞳が潤んでいて、その姿にドキリとする。
抱きしめたい衝動に駆られたが、ぐっと耐えて近くの書庫へと足を踏み入れた。

がチャリと扉を閉めると、ななしは安心したようなため息を吐く。


『…で、なんで私の…む、む、むねが……』
「誰かさんが射撃場で脱いだからじゃないか?」
『えっ』
「キャミソールだと体のラインが丸わかりだからなあ」

そう言ってななしの顔を覗き込む。
ななしは、やってしまったと言わんばかりに落ち込んだ様子で。

『ご、ごめんなさい…』

そう謝った彼女は未だに潤んだ瞳をしていて、落ち着いてきた心臓がまた騒ぎ出す。
誰も居ない為に電気も付いていなかった書庫は薄暗い。
唯一の明かりがさす窓は、かなり高い位置にあるので誰かが覗く心配もない。
目の前には今にも泣きそうな真っ赤に震えている可愛い恋人。

これは我慢する方が難しいな、と判断した私はななしの軍服に手をかけた。

『えっ!?ろ、ロイ!?』
「静かに」

驚いた様子のななしにそう言って、するりと上着を脱がせる。
いつも通りキャミソールに包まれたその身体はやはり上着を着ている時とは大分違う。

『あ、あの』
「…こんな姿を見られたなんて、嫉妬でどうにかなりそうだ」

恥ずかしさで身体が震えているななしにキスを落とす。
何度も何度も角度を変えて行うその行為に、ななしは息を吸うのに精一杯のようで。

少しだけ開いている唇から自身の舌を割り込ませれば、キャパオーバーとでも言うかのようにななしの腰が抜けた。

「おっ……と」


咄嗟に腰を支えて、ゆっくりと床へ座らせる。
椅子に座らせてあげたいが、椅子が近くに見当たらないので仕方がない。

『も、もしかして此処でする気じゃ…』
「よく分かったな」
『だ、だめ!』
「誰も居ないし誰も見てないよ」
『そ、それでも…!』
「するの、嫌?」
『嫌、というか……その、ここ家じゃないし……』


それは家なら良いと言うことだろうか。
そんな彼女の素直な言葉ににやけてしまいそうになる。

「じゃあ尚更今する」
『なんで…!?』
「私以外の男にこんな姿を見せたから…かな」

そう言って彼女にもう一度キスを落とす。
少し深いキスをすれば、あっという間にななしの力が抜け、抗議の声も無くなる。
そしてそのままななしの頭を支えつつ、ゆっくりと押し倒した。

唇から離れて首筋、鎖骨、胸元と順にキスをしていく。
ななしはそれを小さく喘ぎながら受け入れていて、どうにも下半身が疼いてしまう。

「ここでした事、上着を脱ごうとする度に思い出すといいな」


私はそう笑ってななしのキャミソールをたくし上げた。







『ばか!ばか!』

行為が終わって余韻に浸る時間もなく後片付けをして書庫を出る。
ななしは同じ言葉を繰り返しながら隣を歩いていて、顔は未だに真っ赤だ。

『ほ、本当にするなんて…』
「嫌だった?」
『……嫌じゃなかったけど、』

小さく呟かれたその言葉に満足した私は、ななしの手を取って耳元で小さく呟く。

「またしような」
『こ、ここではしない……!』
「"ここでは"、ね…素直で可愛いよ」

空いている方の手でななしの頭を撫でて執務室へと足を向ける。
手を握られたままのななしも、何一つ嫌がる様子無く着いてきてその姿がまた可愛らしい。

『…噂、どうやったら消えるかなあ』
「私に任せておいてくれ」
『?』
「明日には噂も消えているさ」
『本当!?どうやって…?』
「秘策がある」



次の日には噂も綺麗さっぱり消えてななしは大喜びだったと同時に、それ以来仕事中にななしが上着を脱ぐことも無くなったそう。

……そして新たに、ななし関係の噂をすると全員丸焦げにされると噂が立ち、それがななしの耳に届くまで…あと少し。





2019/01/06