それは、ある日突然起こった出来事。


「結婚してください!」
「……は?」

昼食を済ませた後、執務室へ戻る途中に数名の男達に道を遮られて、何だ何だと言う間に大勢の男達に囲まれた。
と思ったら、その軍団の中心に居た男が突如そう叫ぶものだから吃驚して固まってしまう。

しかし、その言葉を理解して飲み込んだ途端に身体中に鳥肌が立ち、私は盛大に身震いをした。



「…男は趣味じゃない」
「え!いや、違いますよ!はあ!?俺だって嫌です!」
「じゃあ何なんだ。こんなに大勢で大佐を囲むなど…」
「大佐ともあろうお方に無礼なのは承知です!ですが……大佐にはそろそろ身を固めていただきたい!」
「…はあ?」



急に何を言っているのだろうか。
大勢で私に身を固めろと……ああ、なるほど。


「私が独身だと困るのか」


そう問いかければ全員が大きく頷き、後ろの方に居る奴に限っては俺の彼女が、と泣き始めた。
私が数多くの女性と食事に行ったりしているからだろう、そしてその女性の中にコイツらの恋人も居たと。


「大佐にはななし少佐が居るじゃないですか!」
「それなのに、他の女性となんて…!」
「少佐とは遊びなんですか!」

「ななしの事は本気だし、そもそも私はお前達から女性を取ったつもりもない。」


実の所情報収集の為に食事をしているのが大半で、ななしもそれを知っていてあまり何も言わない。
……もう少し嫉妬してくれても嬉しいが。

そもそもななしと付き合ってからは食事にすら行かない事も多いと言うのに。


「と、兎に角!大佐には早急に身を固めてもらわないと困るのです!」
「ほう…まあ、ななしとは近い将来一緒になろうと思っていたしな…」
「「少佐は駄目です!!」」
「…は」

今何て言った?
少佐は駄目?少佐とはななしの事だろうが…駄目だと?

「お前達が決めることではないだろう」
「それでも駄目です!少佐は大佐には勿体ない!」
「勿体ないとはなんだ!失礼な!」

そう言い返せば、途端に四方八方から罵声が飛んでくる。
…今言ってきた奴全員覚えてろ、と心の中で呟いて周りを睨んだ。
そのお陰か一気に静まり返り、話にならんとこの軍団から抜け出そうとした瞬間、聞き覚えのある陽気な声。


「おー?何だ何だ、囲まれてんなあ!ロイ!」
「ヒューズ…」


手を上げてやって来たヒューズは、まるで面白いものを見つけたと言わんばかりに笑顔で。
面倒くさい事になりそうだ、と私は一人頭を抱えた。

「なになに、どうしちゃったの」
「ヒューズ中佐!実は…」


近くにいた奴に耳打ちをされ、うんうんと時折頷いてチラチラと此方を見てくる。
耳打ちが終わった頃には、ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていて、私に近づいてきて肩をバシバシと叩いて。

「痛いな!何だよ!」
「いやー、まさかあのロイがねえ!んふふふ」
「だから何だよ!気持ち悪いな!」
「まあ俺に任せてくれ!双方の気持ちも考えて、後日対決しようじゃないか!」
「対決って何の事だ!」

その問いかけにヒューズは答えず。
女性用アクセサリーを各々用意しておいてくれと男達に声を掛けて、その場は解散となった。

むさ苦しい状況から脱した私は、安堵のため息を漏らす。
横にいたヒューズは、そんな私を見て心底面白そうに笑う。

「笑うな!…で、何の対決だ。下らなかったら私は参加せんぞ」
「そりゃお前あれだよ。"ななしの心をつかむのは誰だ!?対決!"だ!」
「ななしだと?」

予想だにしてなかった名前に思わず聞き返す。
ななしの心なんてとっくに私のものなのに、何故そんな事になっているのか。

「ロイ。お前、あいつらに身を固めろと言われたんだろ?」
「…ああ」
「で、ななしと…んふふ、結婚したいんだってなあ?んふふ」
「気持ち悪い笑い方をするな!いずれは一緒になろうと思っていると言っただけだ」
「んで、あいつらもななしが好きだと」
「だろうな、ななしは人気がある」
「あわよくば嫁にしたいと」


は?
意味がわからん。
ななしが他のやつの嫁に?ありえん。

そう考えていたのがヒューズには伝わったようで。
またあの気持ち悪い笑みを浮かべながら、背中を強く叩いてきた。

「で、だ!後日ななしに参加してもらって、プレゼント対決をする!」
「まさか」
「察しが良いな。一人一人プレゼントを渡して、受け取って貰えた奴が勝ちだ!勝者には何かしら考えとかないとなあ!」
「おい、そんなの私が許すわけ」
「よく考えてみろ。ロイが勝てばさっきみたいな事も無くなるだろ?ななしを狙う奴も格段に減るだろうしな」

肩を組まれ、こそりと呟かれたその言葉に目を細める。
なるほど、相手への牽制にもなるわけか。
ななしは軍のやつらから大分人気があるし、そこで私が勝てば私のななしだと再認識させる事が出来る。

「だが、ななしにはどう説明をする」
「そろそろあの季節だしなあ…パーティーだと伝えれば付いてくるだろ!」
「…クリスマスか」

季節は冬。
軍から見える街はキラキラと輝いており、大人も子供も楽しそうに街を歩いている。
クリスマスという今年最後の大きなイベントが控えていることは、誰もが知っていることだった。


「で、どうする?棄権するか?」


そうヒューズに問われて、咄嗟にななしを思い出す。
ななしが他の男と歩く姿なんて、見てたまるか。


「私のななしだということを再認識させてやる」
「ヒュー!いいねぇ!じゃ、アクセサリー考えとけよ!まあお前の事だからアレだろうけどな!」


そう言ってヒューズは背中を向けて去っていった。
…向かう先はまだ昼食中のななしの所だろうな。

「さて、」

仕事の帰りにアクセサリーショップへと行ってみようか。
そう考えつつ、執務室へ足を向けた。















2018/12/22