突然だが私の可愛い恋人、ななしは良く寝る子だ。 どうしてそんなに眠いのか、と聞きたく寝るほどには四六時中寝ている。 本人に理由を聞いてみた時もあったが、分からないと言われるだけだった。 だが気づいたのだ。 寝食を共にし、長年の想いが通じた今やっと。 『ぐー…』 隣で寝ている彼女の頭を優しく撫でる。 …起きない。 今度は、起きている時だったら絶対にななしが怒るであろう、腹を触る。 …起きない。 どうやらななしは私が側に居るときだけ眠りが深いらしい。 中尉の話では私の居ない執務室でも何度か寝てはいるらしいが、誰かがこっそりと横を通ればすぐに目を覚ますそうだ。 軍人として同じ過去を背負ってきた者だから分かる眠り方。 きっと彼女はそれがまだ抜けないのだろう。 しかし、私の側だと何をされても起きないレベルと来たもんだ。 「安心してくれてるんだな」 ベットに散らばった綺麗な髪の毛を掬い上げる。 さらさらとしたその髪の毛は、まるで軍の駒とは思えないくらい綺麗で。 「…君には綺麗な髪が似合うな」 『うーん…』 ななしが少し体を動かす。 部屋に置いてある時計を見て、なるほど、と一人で納得した。 もう一つ気づいたことがある。 ななしは、三時間置きに必ず起きるのだ。 これは、私が居ても居なくても変わらない。 ゆっくりとななしの瞼が上に行く。 とろんとした顔のななしは、私をその瞳に映すと緩みきった顔で笑った。 『ロイ、おはよう…』 「おはようななし、良く眠れたかな」 『うん…本当に、良く寝れた…あのね、夢を見たんだ』 「夢?」 ななしが、隣に居る私に抱きついて来る。 私は逃がさないと言わんばかりに、優しく抱きしめ返した。 『ロイが出てきてね、好きだよって言ってくれたの』 とっても幸せな夢でしょ? と頬を染めて笑うななしに、心臓がどきりと高鳴った。 「夢でも私はななしの側に居るんだな」 『不満?』 「いや、とっても嬉しい。光栄だよ」 ななしの前髪を掻き分けて現れた額にキスをする。 その行為が恥ずかしいのか、強く目を閉じる彼女が愛しくて私は唇にキスをした。 『!』 「…可愛い」 『く、口にするなら言ってくれないと…!』 赤くなった困り顔で怒られても説得力なんて全く無くて。 私は続いて、首筋に唇を寄せる。 『あわ、ろ、ロイ…!』 ぷるぷると震えた仕草で私の肩を押すななしの手は余りにも力が無くて、本当に拒んでる訳では無いんだと思うと、自然と口元がゆるむ。 『い、今笑ったでしょ!分かるんだからね!』 「手に力が籠ってないもんだから、つい」 『ついって…!』 首もとで笑う私を、赤い顔して睨んでいる彼女が簡単に想像できてしまう。 『もー!人を散々からかって!』 ななしが少し乱暴に私を引き剥がして、私の額にキスをした。 ちゅ、と綺麗な音を奏でたその唇は、私の首もとへと寄せられる。 『ふふん、仕返し!』 してやったり!と首もとで満足げに笑う彼女は、きっとこの先の事を一切考えていないのだろうな。 ななしの腰に手を当てて、足を絡める。 私がしようとしている事に気付いたななしは、一瞬で顔を赤くした。 『あの、ロイ…何やって…』 「可愛い恋人からのお誘いがあったんだ。受けないわけが無いだろう?」 『あれはお誘いじゃ…!』 問答無用、と言わんばかりにキスをする。 どんどん深くするその行為を、ななしは受け入れるので精一杯のようだった。 腰から太ももにかけてをゆっくりなぞるように撫でていくと、ななしが小さく声を漏らす。 「…そんな可愛い反応されたら困る」 『んっ…そ、そう言われても…』 「…止まらなくなりそうだ」 そう呟いたのが、聞こえたのだろうか。 ななしが絡めた足に力を入れた。 「我慢出来なくなっちゃったかな?」 耳元で囁くと、ななしの喉が小さく鳴る。 ななしの事だ。きっと赤い顔して殴ってくるんだろう そう想像してしたのに。 ななしは、真っ赤な顔をして頷いたのだ。 「…本当、堪らなく可愛いよ」 『ロイのせいだよ、変な触り方するし……』 「私のせいなら、責任を取らなくちゃだな」 余裕のあるような言い方をしたけれど、本当は余裕なんて一切無い私は、 それを悟られないようにななしにキスをした。 ーーー 『んん…キッシュ…』 隣で眠る彼女の寝言に、つい吹き出してしまう。 先程まで甘い行為をしていたと言うのに、その余韻が無いような夢を見ているのか。 何とも彼女らしい。 優しく頭を撫でる。肩を撫でる。腹を撫でる。太ももを撫でる。 安心しきった顔で眠る彼女は、やはり起きるそぶりも見せない。 「…次は、一回の睡眠時間が伸びると良いな…」 きっとその日は近い。 誓いのように心でそう呟いて、ななしの頭を撫でた。 まずは満足して寝られる様に、ななしの好物を沢山用意しよう。 その後温かい風呂に一緒に入って体を温めて 最近は夜冷え込むから、毛布も用意しよう。 …ななしの事だから、次の日仕事だと寝れないかも知れないな。 よし、休みの前日に決行しよう。 そう算段をつけて、私も目を閉じた。 おやすみ、ななし。 夢でまた。 2018/11/29 |