星がよく見える夜。
歩きながら息を漏らせば、それは白く色付いてゆっくりと空に溶けていく。

小さい買い物袋をぶら下げた私は、空いている片方の手で横に居る恋人であるロイの服の裾を握った。
それに気付いたロイは、持っていた大きな袋を持ち替えて私の手をぎゅっと握る。

「…随分可愛いことをする」
『寒かったの!』

愛しそうに笑ってくれるロイの顔を見て、照れてしまった私はつい可愛げの無いことを言う。
それでもロイには私の本音がバレているようで、小さく笑う声が聞こえた。

「それにしても寒いな」
『もう冬だもんね。早かったなぁ、一年』
「そうだな…年を重ねると時間が経つのが早いが、今年は特に早かった」
『ふふ、ロイってばおじさんみたい…』

思わず笑えば、おじさんじゃない、とロイが少し不貞腐れる。

『でも、そうだね…今年は早かったかも』

一年で色々な事がいっぱいあった。
エドとアルにも出会えたし、ウィンリィちゃんとも出会えたし。
その他にも沢山あるけど、一番は……

『ロイの事、好きになってから凄く早かった』

ロイの事を好きになって、苦しくて悲しい事も勿論あったけど、楽しかったり愛しかった事の方が多い。
あの日、ロイを好きになってから私の時間は勿体無いくらい早く進んでいる気がする。

「私は早く感じたり遅く感じたりしたな」
『遅く?』
「ななしが誰にでも愛想良いもんだから、軍の奴らデレデレしやがって…鋼のとその弟ですら鼻の下を伸ばして……」
『ええ?そうだっけ?』
「そうだよ、その時はななしと同じ気持ちだったなんて知らなかったから、表立って牽制出来なかったし」

くっと悔しそうに顔をしかめるロイが何だか面白くて、口から声が漏れた。

「…なんだ」
『ふふ…鈍感って馬鹿にされる私ですら可笑しいな?って思うほどだったもんね』
「…あれで気付かない方が可笑しいんだ。私の普段の態度で中尉含め皆気付いてたぞ」
『えー!そうなの!?』

知らなかった!と素直に驚く。

『でも、エドとアルは鼻の下延びてなかったよ、ウインリィちゃんっていう最高に可愛いガールフレンドが居るもの』
「私にとってはななしが最高に可愛いけど」
『そ、それは恋人補正が掛かってます…』
「あ、照れてる」
『照れてない!』

赤くなった顔を見られたくなくて、マフラーに顔を少し沈ませる。
横から可愛い、なんて声が聞こえて耳まで熱くなるのが分かった。

「そういう男慣れしてない所がまた可愛い」
『も、もういいよ…』

大好きな恋人から沢山愛の言葉を貰った私は、お返しだと言わんばかりにロイにキスをした。
それは一瞬で、ロイが目を見開いて立ち止まる。

「び……っくりした」
『沢山誉めて貰えたから、お返し…なんて』
「可愛いから素直に可愛いって言ったんだが…それで愛しいななしから甘いキスを貰えるなんて……」
『…よく短時間でそんなに恥ずかしい台詞が出てくるね…』

その時、私の目の前に白い何かが舞い降りた。
上を見上げれば、良く見えていた星が隠れて雲が掛かっている。

『あれ、雪……だね』

はらはらと舞い落ちる雪を見て、胸がいっぱいになる。

『綺麗だなぁ』
「…ああ、凄く」

ふと呟いた言葉にロイが同意してくれて、顔が綻ぶ。

『っくしゅ』
「一段と冷えてきたな…早く帰って、温かいコーヒーでも飲もうか」

繋いでいた手をロイが自分のコートのポケットに突っ込む。
そんなしぐさにもドキドキさせられて、寒さなんて吹っ飛んでしまいそう。

『…私、今日はココアがいいな』
「よし、とびきり甘く作ってやろう」

帰ったら、甘いものを飲んで沢山お話しして…それから、それから。
これからの少しだけ先の未来を想像しながら、歩いていく。

帰ったら、何より先にロイにキスをしよう。きっとまた驚くよね!

なんて甘いイタズラも考えつつ。
ポケットの中で握られた手に、私は少し力を込めた。








2018/11/23