『…ねむい』


サンサンと太陽が降り注ぐ今日この頃。
お昼休憩となり、誰も居なくなった執務室で、
私は持ってきていたサンドイッチを机の上に出した。

本当なら皆で食堂に行くのだが、今日はサンドイッチ持参の為皆を見送ったのだ。

ぱく、と口に運ぶ。フルーツサンドイッチだったそれは、
口の中で甘く溶けて体に染みていく…バスだった。


『ん…やっぱり無理だ…』


…眠くて、駄目なのだ。
食べるのも辛いくらい眠い。
私は、大きな欠伸をしながら一口かじったサンドイッチを
袋に戻した。


『少し寝ちゃおうかな…』


どうせ暫く誰も来ないことだし、寝てしまおう。
そう思い、私はゆっくりと目を閉じた。


「ななし、居るか?」


ノックも無しに入ってくる音と、優しいその声色で
眠気から少し解放される。
けれどそれでも眠い私は、目を閉じたままそこに居るであろう人に話しかけた。


『ロイ…?ご飯に行ったんじゃなかったっけ…?』
「そう思ったんだが、ななしを一人にするのはどうかと思ってな。
戻ってきたんだが……」


ロイがツカツカと音を立ててこちらに来る。
そっと私の頬を触って、はぁ。とため息を漏らした。


「戻ってきて正解だったようだ。ななし、とんでもなく眠いのではないか?」
『あれ…?なんで分かったの…?』
「体温が高くて眠気があり、そして……食欲もないと見た。
…そろそろ腹が痛くなってくる頃だな」
『何でそんなことが…あ、あれ……』


ロイの言った通り、腹痛に襲われる。
だけど、これは普通の痛みじゃなくて…女性なら大半の人が分かる、この痛み。


『…あ、なるほど…月の…』
「はぁ…何故男の私よりも気づくのが遅いんだ…」


寧ろ何でロイがすぐ気付けるのよ
と口に出したいところではあったが、
次第に痛くなるお腹に反論する気持ちを奪われる。

突如、ふわりと体が持ち上げられる感覚に陥り
慌てて目を開けた。


『え?え?ロイ??』
「何だ」
『な、何だって…お、お姫様だっこ……!』


ロイは顔を赤くして身を捩る私を軽々抱えたまま
自身の椅子に座り、私を膝の上にちょこん、と乗せた。

肩を抱かれ、頭をロイの胸に預けるように傾けられる。
そのまま肩から手を離し、今度は頭を包むように
優しく撫でられた。


「毎月こうしてるだろ?」
『そ、それは家で…!今は仕事中だよ…!!』
「昼休憩なんだ、問題ないだろ?
それに、私の匂いを嗅いでると安心するとこの前言っていたじゃないか」
『た、確かに言ったけど……!!』


でも執務室でこの状況は…!と抵抗を見せる私に、
優しい顔をして少し寝てろ、と声を掛けるロイ。

そんな彼の顔にめっぽう弱い私は、赤くなった顔を隠すかの様にロイの胸に顔を強く擦り付けた。


『……皆が来る前に起こしてよね』
「ふ…多分な」


多分って何よーーそんな言葉を最後に、私は眠りに落ちた。


「おやすみ、ななし」





ーーーーーーー



「あれ、大佐…何やってんですか」

ハボックがお昼から戻ってくると、ロイとロイの膝の上ですやすやと眠るななしの姿。
思わず、セクハラ?と聞くと違うわ!とななしを気遣った様に
小さな声でハボックは叱られた。


「あれ、ななしさん寝てらっしゃるんですか?」

ハボックの後ろからヒョッコリと顔を出すフュリーに続いて、他の面々も執務室に戻ってくる。

「またセクハラですか?」
「だから違うわ!」

「なにをそんなに騒いで…」

最後に来たリザもロイを見てセクハラ?と思うが、ななしの姿を見て瞬時に理解した。

寝ながらもお腹を気遣う様に手を置いている姿。
デスクに散らかったままの食べ掛けのサンドイッチ。
普段は元気一杯の彼女が昼休憩とはいえ、眠っている。

「ああ…なるほど……」

リザは自分のデスクの下に置いてある膝掛けを手に取り、
ロイの膝の上で眠るななしにふんわりと優しく掛けた。

「大佐、確かななしは症状が重いと…」
「ん?ああ…かなり重いな。いつもはタイミング良く家でなるんだが…」
「こう言うものは思い通りにいきませんからね」
「始まれば少しは治まるらしいんだが…」

うーんうーん、と小さく唸るななし。
リザはそれを見てロイに話しかける。

「大佐。こういう時はお腹は勿論、腰も暖めてあげるものですよ」
「む、すまない…しかし、腰が関係あるのか?」
「腰とお腹は近いですからね。お腹よりも腰を暖めると症状が和らぐ人も居るとか。」


なるほど…とななしの腰に手を当てて、自分の体温で暖める。
暫くすると、唸っていたななしが静かにまた寝息を立て始めた。

「おお…有り難う、中尉」
「いえ」


そんな一連の光景を扉の前で見ていた一同だが、ハボックの一言によりロイを除く男性陣がざわめき出す。

「大佐と、ななしの…!?」
「えっ?そうなんですか!?」

ざわざわとした空気の中、リザはため息をついた。

「そんなわけ無いでしょう。ですよね、大佐」
「ああ…私はそういった行為も抜かり無く配慮しているからな」
「ぬ、抜かりない…そういった行為…とは…?」

フュリーの質問に対し、何処からともなくゴクリ…と生唾を飲み込む音が聞こえる。
ロイは楽しそうに笑う。


「それは教えられないな、私は紳士なのだ。……まあ、皆が考えてるであろう行為だ、とだけ教えておこう」
「(ななしが気の毒だわ…)」
顔を赤くしたフュリーが、大人…刺激が……と呟く。

「まー大佐はななしに対してのセクハラが凄まじいしな…これくらいで驚きはしないが……」
「ええ!ブレダ小尉、凄い……!」

フュリーとブレダが話している横でうーん?とハボックが唸った声を上げる。

「でも妊娠じゃないならその光景は一体……」

ハボックの言葉に、執務室が静まる。
ロイは少し考えた後、ななしの腰に当てている手と反対の手でななしのお腹を撫でた。

「私たちの未来の為の大切な行為さ」

得意気にキメ顔をするロイに、リザがまたしてもため息を漏らす。
男性陣はと言うと、なんだそれ……と首を傾げている。

「……まあ、大佐のこのセクハラにも意味があるという事ね」
「だからセクハラじゃないって言っているだろう!中尉!」

やれやれ。と肩を上げたリザにロイが反論するが、それをみた男性陣は"なんだやっぱりセクハラかー。"と各々のデスクに座る。

「だから……違うって言っているだろうが!!」


苛ついたロイが大声を出し、ななしがゆっくりと目を開けた。
寝ぼけたまま目を擦り、辺りを見渡したななし。

「皆が来る前に起こしてって言ったのに!!」

と髪の毛を引っ張られたロイ。
その光景を見た面々により、執務室がどっと笑いに溢れるのだった。







2018/11/15

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