誰よりも何よりも!3
2014/06/24 16:47

ここでこんなふうに頭を抱えていてもどうしようもない

たっぷり10分以上はトイレに引き篭り、漸く溝山は平静を取り戻した。つもりだ。
ばくんばくんと心臓を、いや全身を脈打たせたまま、ドアノブに手をかけ脱出する。

俺が修吾に振り回されてどうする。いや振り回されてもいい、それも楽しみだ。ただもっと余裕のある振る舞いをしなければいけない。
一回り以上も年下の恋人に何もかもリードされて、情けなくないのか。
修吾だって色々考えて言葉にしてくれているのに違いない。
自身を奮い立たせリビングを目指す。
多分修吾はいるだろう、部屋に行った気配は感じなかった。
扉を開けると同時、なるべくいつも通りを装い、言い放つ。
見慣れた坊主頭の少年───溝山がいつも刈ってやっている──はソファーにぽつんと座っていた。

「……なあ修吾、正直に言うから聞いてくれ」

何処か寂しそうな雰囲気の修吾に、溝山の口調は自然真摯なものになる。言葉は自然に口から出ていた。
修吾が溝山を見上げる。

「俺も男だ、当然そういう欲求はある。だがな、それよりもお前を大事にしてえっつーのが本音だ。俺はお前を一生手放すつもりはねえぞ?だからな、まだ早ええ。……お前がもっと大人になるまで、辛抱するくれぇの寛大さぐらい俺に持たせてやってくんねぇかな」

本気の頼みである分、修吾にも意味が伝わったようだ。
溝山を凝視していた大きな双眸が、はっとしたように見開かれる。

「そうか……!溝山さんごめんなさい、俺、なんか自分のことしか考えてなかった……」

「いや、それこそ俺のこと考えて言ってくれたんだろ。……勇気、いっただろ。ありがとうな」

修吾に歩み寄り、そのまま小さな身体を抱きしめた。
修吾も応えるように溝山の腰に手を回してくる。

温かな体温。まだ柔らかさを残す身体。
今は本当にこれだけでいい、もう奇跡のレベルを飛び越えて、本当に幸せなのだ。

溝山は大切だという気持ちを伝えるために、更に修吾を抱きしめる手に力を篭めた。






「雷、ダメだった。失敗だ、まだまだ子供だからそういうこと出来ないって」

修吾が沈痛な面持ちで告げると、レトリーバーを思わせる柔らかな面持ちの親友は朗らかに笑った。

「そっかあ、その子の彼氏さん、しっかりした人なんだねぇ。」

「……そういうことになる、よな」

友人───春川雷は、修吾の話を聞いてホっと胸を撫で下ろしていた。
もう一ヶ月ほど前になるだろうか。修吾から謎の相談をされたのは。

『親戚……いや、知り合いの同い年の女子がいるんだけど、凄い年上の彼氏が出来たんだって。で、全然恋人らしい事っていうか……つまりその、エッチな事とか何もないんだけど、それってお……じゃないっその彼氏さんが本当に相手を好きじゃないからかな?』

最初は修吾にそんな知り合いいたっけ?と思いつつ話を聞いていた雷だったが、あまり深く話を聞かないうちに察してしまった。
ああ、コレ、修吾と溝山さんの事だ、と。

雷も勿論溝山のことは知っている。なんせ修吾の育ての親の溝山と雷の家は今では家族ぐるみの付き合いをしているのだから。
修吾の実の両親が存命のうちから、雷と修吾は友達だった。その頃から川田夫妻と春川夫妻は交流があったのだ。
溝山から自分が修吾を引き取り育てていくと聞いた雷の両親は、幼くして両親を亡くしてしまった修吾と、まだ若く独身の身でありながら修吾を引き取る溝山を不憫に思ったのだろう。溝山に積極的に協力を申し出、溝山が夜勤当番の日などは必ず修吾を預かり、何かしらのイベントの時などは、弁当などの差し入れをしているような関係だ。

修吾の育ての親、溝山。何がどうして付き合うという事になったのか、雷もまだ詳しくは知らないが、修吾の「友達の話」として聞く分には溝山は常識的な一線は超えないようにしているようだし、雷も深く突っ込まずに見守る構えでいたのだが。
どうも最近雲行きが怪しい。
その原因が溝山ではなく、修吾なのが問題なのだが。

「大事にしたいから手を出さない、しっかりした大人の考えだよー。俺は素晴らしいと思うなー」

「でもさっ大人の男の人ならやっぱエッチしたいだろ?俺嫌なんだ、溝山さんに我慢とかさせるの……ただでさえいっぱい迷惑かけてるのに……」

「そ、そっかあ……」

最早完全に自分の事として話していることに、修吾は気付いていない。雷が頑張って聞き流しているからだ。
雷は考え込む。雷としては溝山の考え方に大賛成だった。好きだからと言ってまだ中学生の修吾を簡単に手込めにするような男ならば、それこそ親に相談しなければいけなくなる。

「でもさ、中学生に手を出すような男なら信用できないじゃん。それじゃ逆にやばい人だよ」

何とか修吾を納得させようと口を開くが、修吾は泣きそうな顔で口を尖らせた。

「でもっそういうことしたいのも込みで俺に好きって言ってくれたんじゃねえの?なら付き合わなくたっていいじゃんか……」

「いやでもまだ俺達中学生だしさー……」

「中学生でもっ出来るだろ!?俺我慢するもんっ」

「修吾お……」

溝山が修吾を好きなのも、修吾が溝山を好きなのも、別にいいと思う。偏見はない。
しかし修吾がここまで暴走していると、不安は募る。
修吾でもエッチに興味があったんだなぁ、と、何だかとんちんかんな感想が浮かんだ。



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