23.取り引き



暗い闇に彩られた、クル・エルナの地下神殿。

死霊蠢くその場所で、バクラと英瑠は数日間の安寧を味わっていた。


「これで残りは4つだね」

英瑠が冥界の石盤に目をやって、ふと口にした。

残りの千年宝物――千年眼、千年錫杖、千年秤、千年錠。

千年眼には千年輪を通してバクラの邪念を植えつけてある。

千年眼を所持する老神官は、邪念に侵され、いずれ闇に呑まれるだろう。
そうなれば、彼が内側から王宮に混乱をもたらし、残りの千年宝物も自然と集まってくるというわけだ。

何も問題はない。

あとは――そう。
一度目の王宮襲撃の後に、バクラ捜索のため当時は軍隊が派遣されていたこの村のことだ。

バクラの素性はとっくに明るみになっている。
であれば、その手がかりを探して、ここクル・エルナに再びいつ兵がやってきてもおかしくない。

それがまた神官の一人であれば、手間が省けるのだが。
しかし王宮側もすでに3つの千年宝物を失っている。うかつな行動はしないだろう。

もし偵察程度の兵がやってきたならば、そう――
村を取り巻く死霊たちに襲わせれば良い。

バクラはそう考えていた。

そんな彼の考えを断ち切るように、英瑠がふととんでもないことを口にする。


「そういえば……ファラオって、本当に死んだのかな?」

その一言がもたらした疑問は、バクラの頭に僅かな疑念を生じさせることとなった。


「ハ…… あの高さから落ちて助かるはずねえよ。
もし万一生きていたとしても虫の息……もはやくたばる寸前だろうぜ」

「そうだね……!
私たちも高いところから落ちて助かったけど、あれはバクラもまだ精霊獣を呼べる状態だったし……
私の力も運良く出たから――」

英瑠の言葉は深い意味などない、取るに足らないものだった。

――まさか、な。

バクラはそれで終わりにするはずだった。
……はずだった、のだが。


それは軽い気持ちだった。

ファラオと神官たちから手に入れた千年アイテム。
その中の一つ、千年タウクをバクラは手に取った。

未来を見る事が出来るという千年タウク――
だがその力は、千年宝物所持者と死者には適用されない。
つまり、生き残りの神官団の動向を探ろうとしたところで役には立たないのだ。

勿論、死んでいるはずのファラオにも。

加えて、『未来を見る』という特性。
あらかじめ未来は決められているものだと突きつけられるような感覚、そして未来予知で『予習』をしておかなければ災いに対処できないという弱腰な姿勢――

それらをどことなく敬遠していたバクラは、それまでタウクを一度も使用した事がなかったのだ。


しかし、今は――

これでファラオの未来が見えなければ、それで終わりだ。
何も問題はない。

アクナディンの動きを見ておきたい気もしたが、先述の通り千年宝物所持者のビジョンは見る事が出来ない。

そう考えて。

バクラはタウクを首にかけ、憎きファラオの姿を思い浮かべながら。

そっと目を閉じ意識を集中させる――



晴れた空。

馬に跨るファラオと神官団。

彼らは千年宝物を取り戻そうと、馬を走らせていた――
その目的地は、ここクル・エルナだ……!

ファラオに襲い掛かる死霊――
それを撥ねつける王の精霊……!?

それは、いつか王墓で倒したはずの魔導士で。

始まる死闘。彼らは結束して『敵』に立ち向かう。

彼らの眼前に居る相手は、当然――――


「っっ……!!」

ぐらり、と揺れた頭を押さえてバクラは一歩足を踏み出した。

「バクラ!?」

眼を開き、集中と途切れさせれば、フッと掻き消えるビジョン。


「クク……、ククク……」

腹の底から湧き上がる、黒いモノ。
嗤うことしか出来ない。

「っ……ハ、ハハ……
ヒャハハハハハ!! ファラオの野郎、生きてやがった!!!」

「なっ……!」

英瑠が驚いた様子で、慌てて石盤の方へ駆け寄ってくる。


「ケッ、ファラオの野郎……
神官団を引き連れてここに乗り込んで来る気でいやがる……!
千年錐を失って神を呼べなくなったファラオに何が出来ると思いきや、あの精霊……
死んで精霊化した神官野郎がファラオの下僕になりやがったか……!」

地下神殿に襲来したファラオと神官団。
もちろん迎え撃つのはバクラだ。

千年タウクは、千年宝物所持者の未来を見ることは出来ない。
であれば当然バクラ自身の未来も見えないだろう。

だが千年錐を失ったファラオの未来に見えたもの、ファラオがこの隠し神殿で対峙していた敵は、間違いなくバクラのディアバウンド――
進化した精霊超獣だった。

今更、バクラがファラオとその仲間たちに苦戦するなど考えられない。

しかし、タウクの見せた未来が、不吉な色を滲ませているのも事実だった。

どうするべきか。
そうバクラが考えた時。


「バクラ、もし嫌じゃなかったら私の未来も見てくれない……?」

英瑠が唐突にそんなことを口にする。

無邪気な戯れかと思いきや、その顔は真面目な彼女のそれで、バクラは
「オマエの力は千年宝物には干渉できねえだろうよ、」
と返しつつも、何となく気になって試してみることにした。


――カッ、とほとばしる白い光。

閉じた瞼の下で、バクラは何事かと眉を顰めながらも、形を作っていくビジョンに目を凝らした。


「……!!」

空を舞う、未知の体躯。
翼を広げ、牙を生やした口を開ける、伝説上の生き物のような神々しい姿――

白き龍。

その口から放たれる、生命力の奔流のような烈しい光――


「っっっ……!!!」

バクラはカッと眼を見開くと、再び頭を押さえ、ハァハァと肩で息をした。

「バクラ……! 大丈夫!?」

慌てた英瑠がバクラの肩にそっと手を置き、心配そうな瞳で覗き込んでいた。


(何だ今の魔物は……精霊、か?)

神に匹敵する力を持つ、謎の白龍。
英瑠の未来を見たはずなのに、何故その龍のビジョンが見えたのか。
バクラには意味がわからなかった。

彼は肩に置かれた英瑠の手を優しく振り払い、石盤から錐とリングの千年宝物も外すと、自身の首に掛けた。

「何か……見えたの?」

「ああ」

彼女の問いに答え、奥歯を噛み締める。
それから、深刻な顔でバクラを見つめ続ける英瑠の頭をポンと撫でてやり、心を決めた。


「ちょいとイチャつきすぎたようだぜ、英瑠。
ファラオは生きてやがる。
ならば、今度こそヤツの息の根を止めてやるしかねえ……!
出陣だぜ、武将サマ」

バクラがそう口にすれば、英瑠は真剣な表情でコクリと頷いた。


真っ直ぐ前を見据えた瞳。
ふっくらとした唇に、なめらかな肌。

生まれて初めての生きた同胞は、闇の中でも光を放ち、バクラだけを見据えていた。

名残惜しさのような寂寥感が背中を撫で、彼は無理矢理それを頭から追い出す。

ぬるま湯に浸かっている場合ではない。
甘さは、捨てろ。
そう自分に言い聞かせる。

だが直後、彼女の影がふわりと揺れ、気付いた時には――
バクラは、英瑠に抱きつかれていた。

「オマエ、」

そんな事してる場合じゃねえだろ、と吐き捨てる直前に顔を上げた英瑠が、少しだけ顔を赤らめて言葉を紡ぐ。

「戦の前の栄養補給、です」

下らない。
彼女は心底下らない台詞を口にした。

けれども、ふざけんなと彼女を引きはがすつもりが、バクラは気付けば彼女を抱きしめ返していた。

ひとつの体温。ひとつの命。

掻き抱くように腕に力を込めれば、彼女の香りがバクラの肺を満たした。


誰かを、心から、愛しいと思うなどと。

それは確かに心地良かった。
きっと、独りで足掻いてきたどんな夜よりも。


だが、今はここで終わりだ。
この先にある甘さは、今は忘れる。

全てが終わったら。

その時は、また。


バクラはそっと目を閉じ、英瑠に唇を寄せた。

この目が開いたら。
この温もりが、離れたら。

それが、戦の始まりの合図だ。



**********



アクナディンは苦悩していた。

己の内で膨らむ邪念。

――息子を、必ず、王にする――

そのためならば、どんな闇に身を浸しても、構わない。
抗えない影が、アクナディンを蝕んでいく。


セトが見つけて来た、白き龍の力を宿す女。

女の精霊は、魂と一体化していた。
恐るべき地下施設でとある実験をした時に、判明した事実。

つまりそれは、女を殺せば白き龍の力が手に入るということだった。

無実の女を殺めるなどと。
神官である己には決して許されないことだ、とかつての彼なら言っただろう。

だが。

目的のためには犠牲は付き物だ。
それはアクナディンがとっくに通った道だった。

15年前、あの盗賊村で――
千年魔術書を紐解いて、千年宝物を生み出そうと決意した時に。

その為に、盗賊とはいえ村で暮らしていた住民を、力づくで滅殺して生贄にした時に。

あの時の闇に比べたら、たかが白い肌の女ひとり手にかけることなど、造作もない。

それで、息子が強大な力を手に入れられるなら――
それによって、亡きファラオに代わって息子が王になれるなら。

黒い考えがアクナディンの脳を支配していく。


そんな時、もたらされた報告。

行方不明になっていたファラオが生きていたという。

もはや猶予はない。

アクナディンは動いた。
青き眼を持つ女を殺すために。

だが、誰よりも大切な息子、セトは。

あろうことか、女を守るように、女を別の場所に隠してしまったのだ。

怒りで灼けそうになる頭。

(何故だ……何故だ、セト!!)


ファラオは千年錐を失い、満身創痍で帰城した。
そのまま、静養に入る。

盗賊バクラの行方はわからない。
シャダの手の者が追跡中だそうで、近いうちに判明することだろう。

しかしバクラの根城が判明しても暫くファラオには黙っておく方が良い、と側近は語っていた。

もし盗賊の居場所をファラオが知ったら、千年錐を奪われた罪悪感から、彼は傷ついた体のまま飛び出して行かねないからだ。
無理もない話だった。


一刻も早く、白き龍の力をセトに。

強迫と焦燥が、アクナディンを急かす。

妄執に取り憑かれた老神官は、既に正気を失いつつあった――



「随分と苦しんでるようじゃねえか」

「っ!!!」

日没によって流れ込んだ闇と共に、アクナディンに忍び寄った影。
窓際から音もなく部屋に降り立った人影は、二つだった。


「貴様は……バクラ!!」

アクナディンが動くより先に、「おっと」と声を上げたバクラが胸元の千年輪の力を発動させる。

固まるアクナディンの四肢。
彼は苦悶の声を漏らし、怒りと恐れを浮かべた双眸でバクラを睨みつけた。


バクラと、もう一人……、女。

先日王宮でアクナディンの前に立ちはだかった、謎の女。

この世の精霊とも魔物とも違う力を宿し、アクナディンと刃を交え、颯爽と去っていった女――

女はバクラの仲間だった。
セトが言っていた事はやはり本当だったのか。

どんどん悪い方へ転がって行く事態に、アクナディンの頬を汗が一筋流れた。
そんな彼を嘲笑うように、バクラが口を開く。

「なぁじいさんよ……
何モタモタやってんだよ……
せっかくオレ様が邪念を埋め込んでやっただろ?
とっとと神官どもをブッ殺して千年アイテムを集めて来いや……」

「っ、ふざけるな!!
貴様の邪念に屈する私ではないわ!!」

「おーおー勇ましいねえ……!
まぁいい。
とろい貴様に代わって、オレ自らが神官どもから残りの千年宝物を奪ってきてやるよ……!

……なぁ、ファラオは生きてんだろ?
さすがのオレ様も驚いたぜ……!
ついでにファラオにもトドメを刺してやるからよ、ファラオの居場所を教えな」

「何を馬鹿な!!
っ、この神官アクナディン、悪に屈する事など絶対に――
衛兵!! 何をやっている! 曲者だ!!」

「ンなもんとっくに排除してあんだよ!
コイツが全部やってくれたからなぁ……!
オレ様の相棒だぜ、イイ女だろ」

バクラは茶化すような口調で、隣に居る女の腰を抱き寄せた。
女の手には、馬鹿かと思われるような肉厚の刃を持つ、無骨な長柄武器が握られている。

照れたようにバクラの隣で小さくなる女。
無害なその風貌の下には人ならざる者の気配が滲んでいる。

一方のバクラは、首に千年輪、そして千年錐と千年タウクも掛けていた。

最悪の事態。
アクナディンはこの状況をどうするべきか、歯噛みした。
そんな彼の様子を見てか、バクラが呆れたように声を漏らす。

「強情だなてめえもよ……!
だがわかってんだぜ? もうひと押しだってな……!
足りねえってんなら追加の邪念をくれてやるよ!
これでも食らいな!」

「なっ、……ぐわあああああ!!!」

バクラの千年輪から力が迸る。

力は、闇となって、千年眼に流れ込み――
そして、アクナディンの全てを塗りつぶしていく。

神官としての矜恃も。
わずかに残っていた、ファラオへの忠誠も。

最後の拠り所だった、息子への愛情まで――
歪んで、変性していく。

本当は。

息子を誰よりも想うのであれば、その意志を尊重してあげなければならなかったはずなのに。

ファラオに仕える神官であることに誇りを持ち、権力で民を統制しようと強硬的な姿勢を見せる反面、哀れな青い眼の女に情けをかける彼の優しさを――
認めてあげるべきだったはずなのに。

だがもう、遅い。

すべて、邪念が押し流していく。

「セ、ト……」

漏らした声は、闇に溶けていった。



**********



「ほ、本当に……ファラオを殺してくれるんだな」

さらなる邪念を注入されたアクナディン。

膝をつき、苦しそうに息を切らせた彼は、やがてそんな一言を口にした。

「ああ。もはやファラオは虫の息……
捻りつぶすなんざ造作もねえよ」

「じょ、条件がある……!」

アクナディンは震える声で吐き出す。
よろよろと立ちあがったその眼には、先程よりも更に邪悪なものが宿っていた。

「条件だぁ……?
てめえ、そんなことほざいてられる立場かよ……!

と言いたいところだが……、まぁいい。言ってみな」

バクラは不敵な顔で胸を反らし、腕を組んでアクナディンを見下していた。
英瑠はきょろきょろと辺りを見回すと、他の人間が部屋に近付いて来ていないか慎重に気配を探っていった。

「その千年タウクを使い、とある女の居場所を捜して欲しい……
白い肌に青い眼を持つ、若い女……
セトが隠した、その女の居場所を……!」

アクナディンがそう、切れ切れに口にした。
突拍子もない内容に、バクラも英瑠も何事かと眉をピクリと動かす。

「ちょっと待てよジジイ……!
何モンだ、その青い眼の女ってのは……!
セトってのは千年錫杖を持つ神官だろ?
何でそいつの名前が出てくんだ……!?
どういうことか説明しな!」

「くっ……」

アクナディンはバクラの詰問に、千年眼を押さえ、また苦悶の表情を浮かべた。
しかしもはや、彼がバクラに抗う事は出来ないだろう。

アクナディンは、重い口を開き、秘密を語り始めた。

セトとの秘められた関係、白き龍の力を宿す女の存在、そして息子を王にしたいこと。
すべてを――



邪念の力によって、本来敵であるはずの盗賊に本心を打ち明けたアクナディン。

彼はもはや、絶対に後戻りは出来ないだろう。
今語った事はすべて、ファラオに対する決定的な裏切りなのだから。

「なるほどな……白き龍の力……
『あれ』はそういうワケか……チッ

で……じいさんよぉ、オレ様がその女の居場所を捜してやったら、貴様が女を始末し――
白き龍の力を取り出したあと、千年錫杖をセトから奪ってオレに寄越す……
ってことでいいんだな」

「ああ……
ファラオの居場所を教えてやる……貴様がファラオを殺すのだ……!
そして私がセトを王にする……!

千年宝物はくれてやる……ただし、千年宝物を揃えても、セトだけは殺すな……!
それが条件だ……、哀れなクル・エルナの生き残りよ……!」

「いいぜ、交渉成立だ……!
ちょっと待ちな、青い眼の女とやらの居場所を探してやるからよ……!」

そう言うなりバクラは、目を閉じ千年タウクに意識を集中させていった。
アクナディンの方は、未だ僅かに息を弾ませたまま、千年眼を覆うように顔を押さえている。


一連のやり取りを見ていた英瑠は、双方に対して違和感を感じていた。

まず何より、バクラ――
彼が、千年宝物を効率的に集めるためとはいえ、セトとやらの命を保証するなど――

セトが王になってしまったら、バクラの最終目的とも対立するはずだ。
よってこれは駆け引き上の、暫定的な口約束に過ぎないのだろう。

そして――アクナディン。
彼は邪念に侵され従順になったとはいえ、どこか信じきれない部分がある。

たとえば千年アイテム。
いくら息子を王にするためとはいえ、千年アイテムを全てバクラに渡してしまったら意味がないだろう――
本末転倒ではないのか?
……というのが英瑠の感想だった。

だがバクラはそれを追及することもなく、ギラついた双眸で不敵に嗤っているだけで。
本来バクラの頭脳なら、そんな当たり前のことに気付かないわけがないだろうに。

つまりは、バクラもアクナディンも、互いに互いを牽制しながら取り引きを成立させたに違いないのだ。
英瑠はそう確信し、アクナディンを監視するために自分が動いた方が良いかもしれない、と思った。



青い眼の女の場所を特定し終えたバクラ。

アクナディンはバクラにファラオの居場所を教え、バクラはアクナディンに女の居場所を伝えた。
狂気に満ちた瞳で邪悪な笑みを浮かべているアクナディンと、背中に殺意を纏わせ舌なめずりをするバクラ。


「しっかり頼むぜ、じいさんよ……」

バクラが茶化した口調で老神官に声をかける。
アクナディンは無言のまま、二人を残し背を向け去って行った。

「……」

やはり何かが引っかかる。
英瑠が鋭い目つきで、彼を見つめていた時。

横に居るバクラが、声を潜めて言葉を紡いだ。

「英瑠。ヤツを追え。
もしヤツが妙な動きをするようだったら、その時点で千年宝物を奪え」

英瑠は待ってましたとばかりにコクリと力強く頷いた。

「……気をつけろよ、白き龍の力に」

千年宝物を揃えてしまえばこちらのものだ。
大邪神の力を手に入れてしまえば、白き龍だろうが神だろうが、もはや敵ではない。

だが宝物が揃う前に暴れられると厄介だ。
アクナディンが約束通り、千年錫杖を奪って来れば問題は無いのだが――

バクラの目はそう語っていた。

英瑠はふふ、と笑みを漏らすと、密やかな声で返す。

「バクラ、そういう時は『武運を祈る』って言うんですよ」

「……?」

「武人同士の出征の挨拶みたいなものかな。
……バクラ、そっちこそ気をつけて。
『ご武運を』……、」

英瑠が熱を込めてバクラを見つめると、彼は薄く笑って彼女に応えた。

「……ああ。英瑠。
『武運を祈る』……!」


それから二人は離れ、別々の方向へと駆け出した。

それぞれの役目を果たして、再び相まみえる時を願って――




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