チリ、と指先に走る痛み。


「ッ……てェッ……!」


顔を歪めたマリクは指を押さえながら軽く舌打ちをした。



「ご飯出来たよ〜!!

……ってマリク、どうしたの?」

「……何でもねえよ……」


咄嗟に指を瑞香から隠しながら顔を背けるマリク。


「うん……? どうしたの??
何隠してるの……?」

「何でもねェ……」

「…………
言いたくないなら別に良いけど……」

瑞香は肩をすくめながらマリクの前に腰を下ろす。


「ッ……」

その少しだけ沈んだような瑞香の表情を見たマリクは、何かを思いついたように邪悪な笑みを浮かべ。

背後に隠していた指を前に出し、さりげなく瑞香にちらつかせる――


「ッッ!!!
マリク、その指――血が出てる!!
やだっ、ケガしちゃったの!?

わわっ、ちょっと待ってね、止血しないと――」


辺りを見回し、慌てて立ち上げろうとする瑞香の肩をマリクはもう片方の手で抑えつけた。


「ッな、なに!?」

「……ククッ」

「マリク……?

……んむぅッ!!!!」


マリクは、血が伝う褐色の指を無理矢理瑞香の口の中に突っ込んだのだった。


**********


「ハハッ……!!
舐めてくれりゃ血も止まるだろぉ……?
カードでちょっと切れちまってなぁ……」

「んんんん……!!!

……ぷはっ!!
やっ、いきなり何すんの!!」

口からマリクの長い指を吐き出した瑞香は抗議の声をあげた。


「……瑞香が舐めてくれりゃあ血は止まるんだぜぇ……」

「な……や、やだよ……!
血の味嫌いだもん……!」

瑞香は内心(そういう問題じゃないし!)と自分の発言に自分でツッコミながら、何故かカアッと火照っていく顔と高鳴る心臓を抑えながら俯いた。

その反応に、マリクはただ黙っていたが――
次に、瑞香の首筋に空いた方の手を回して引き寄せた。

そして今度は血が滲んだ指で、瑞香の唇をそっと撫でるのであった。


「ッッ……!!」

「なめろ……瑞香……」

低い声でそっと囁きかけるマリク。


「……」

瑞香の眼がチラリとマリクの目を覗きこんだが、やがて観念したように、彼女は唇をなぞる指にそっと舌を伸ばす。

……舌先に触れるマリクの指の感触。


「ん……ふ、……んん……」

口の中に広がっていく血の味に少しだけ顔を歪めながら、素直に褐色の指に舌を這わせていく。


ケガをしたマリクの指をちょっと嘗めるだけ、ただそれだけ――

心の中で自分に言い聞かせる。
しかし――


(や……だ……私……、な、んか……
こんなのって……)

「ん……」

羞恥心を隠しながら瞳を伏せたまま、舌先はなまめかしく傷口をなぞっていく。

「ククク……」

傷口が痛まないわけはないだろうに、構わずマリクは口の端から邪悪な笑みを零している。
そしてまた、そっと指で瑞香の唇を割り、指先を口内に沈ませていく。

「んっ……」

瑞香は眉をピクリと動かしながらも、今度はマリクの指を拒まなかった。


彼女は口の中に入ってきた長い異物にそっと舌を絡めてみた。
指を吸って、傷口から溢れだす血を啜って唾液ごと飲みこむと、喉まで血の味が広がって頭がクラクラした。

そして、苦しそうな瑞香の表情を見てか、マリクはさらに満足気そうな笑みを浮かべるのだった。


「ん……ふむぅ……、ん」

頬を染めながらマリクの指を貪る。

首筋をもう片方の手で押さえつけられ、半ば無理矢理させられているはずなのに――
瑞香は頬と身体が熱く火照り、頭の芯が痺れていくのを感じていた。


「ククッ……いい顔だぜぇ……

貴様……いま自分がどんな顔してるかわかってねえだろ……ハハッ!」

「んんん!!!」

瑞香が抗議の声を上げようとしたところで、マリクは指をさらに奥へ差し入れて動かす。

指が口の中を弄ぶと、苦しさの中にも甘さが混じる、切なげな声が漏れ出すのだった。


「んあっ……!! や……んんっ……!」

彼の動かした指がくちゅくちゅと水音をたて、溢れた唾液が瑞香の口から零れだす――

すでに血はほとんど止まり、口内から血の味が消えてもマリクの指は彼女の口の中を蹂躙するのをやめなかった。


「あ……ま、マリクぅ……
も、ん……もう、やめ……」

瑞香の目尻には涙が浮かび、時折口から零れる呼吸はただ荒くなっていく。


「おいおい……
とんだ変態なぁ瑞香サマよぉ……
血の滲む指を口に突っ込まれてんのに、自分から舐め回して興奮してるんだからよ……」

「んんん!!!」

「おっと、暴れてオレの指を噛みちぎるなよ……?

ハハハ、褒めてるんだぜぇ瑞香……
そういう貴様の姿を見てるだけで身体に震えが走るぜぇ……」

「ん……、ふっ」

すっかり上気した顔でマリクを見つめる瑞香。

唇の隙間から時折漏れる吐息はただ甘い。


「瑞香……かわいいよ……」

「ん……! ば、か………」

辛うじて声をあげたところで、マリクは指をそっと瑞香の唇から引き抜いた。

ツウ、と唾液が銀の糸を引き、指を失って半開きになった唇は乱れた呼吸を零しながら、ぬめりを帯びて光っていた。


「はぁ……、もう血、止まった……?」

その乱れた呼吸と紅潮した顔が意味するものと、瑞香から吐き出された安穏とした言葉のギャップに、さすがのマリクも言葉を失っているようで。


「マリク……?」

「………………、」


揺らぐ影。

「大丈夫? ってちょっ……!?
んんんんッ!!!!」

指のかわりに唇が瑞香の呼吸を奪う。

「んんッ!! まりっ……」

身を捩る瑞香の顔を両手で押さえ、噛み付くように唇を塞ぐマリク。

舌を捩じ込み絡められると、後に漏れたのは甘い吐息だけなのだった――――







(あああ……ご飯冷めちゃったじゃん……!!
マリクのばかぁ……)

(ククッ……食事より面白いモノが見られたから良しとするぜぇ……)

(ばか…………)



END


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