お酒のチカラ〜闇マリク編〜



肌を刺すような寒さが全身を襲う。


――冬が到来したのだった。


「寒い……うう……

寒いぜぇ……!

クソっ、寒ィんだよォォォ!」


日本の冬の寒さに慣れていないマリクは、その身を震わせて寒さと戦っていた。


「クソっ……どうなってやがる……!!
日本の冬ってやつはこんなに寒ィのか……!?
くそっ……エジプトに帰りてぇ……っ!!!!

何か暖まるような食い物がありゃまだマシなんだがよ……

…………あ。」


マリクの額のウジャト眼が、何かを思い出したように怪しく光る。


「クククッ……アレしかねえな……ククッ」







「ただいま〜!!

ううう〜〜!! 外寒いッ!!!
……ん? あれ、家の中も寒くない?
ストーブは!? つけてないの??」


外から帰ってきた瑞香が、室温のあまりの低さに疑問を覚え、慌ててストーブがある居間へ――

そこには。


「グハハハハ!!!
見りゅがいい!! オレのラーのしゃいしゅう形態を……っ!!!
きしゃまもこれで終わりだ……っ!!!

ラーの攻撃……!! ダイレクトアタックだぁ……!!!
フハハハハ!!!」

「――――え」

瑞香は目の前の光景に目を疑った。

誰かとデュエルかと思いきや、ただ一人でデッキを広げながら虚空を見つめ居間で奇声をあげる人物が――

いつもよりさらに呂律の回らない舌で褐色の頬を紅潮させ、ふて腐れたような半目は完全に座っておりこれはどう見ても……

テーブルの上に転がる空き瓶が、その予想を裏付けていた。


「ッッッなああぁっ!!!!!???
マリク〜っっ!!!!??」

「ん……瑞香じゃねえかぁ……
待ってたよ……クハハハッ……!!」

「うわっお酒くさっ!!!
ていうかマリクそれ!! な、呑んだの!?」

「仕方ないだろぉ……?
しゅトーブが消えちまってよォ……
あまりに寒くて凍死ししょうだったからよォ……ヒック

しゃむしゃとデュエルして勝つ為に、酒とやらを呑んでやったんだよ……ヒック

フハハハハッ!! おかげでオレは勝った……!
しゃむさにうち勝った……!
もう寒くねえからにゃあ……!! ヒック」

「何言ってるかわかんないよ呂律回ってないし〜〜!!!!
だいたい寒さとのデュエルって何なんだ〜っ!!
意味わかんないし!!!

あああ、誰も呑まないっていうから料理に使おうと思って貰ってきた日本酒がぁぁ……っ!!!

す、ストーブは何で――……って灯油切れてるし!!
あああ補充し忘れたのか私……!

あああもう〜〜〜!!!!」


瑞香は激しく混乱し、床に膝をついて頭を抱え天を仰いだ。


「だいじょうぶかぁ……? 瑞香……
ハハハ、しゃけの効果ってしゅごいよ……

きしゃまが、目茶苦茶いい女に見えるぜぇ……クククッ」

「な」


酔っ払いマリクから発せられた何気ない一言に、瑞香は硬直して思わずマリクを見つめてしまう。


「しゅげーなぁ……
瑞香……

アンタけっこうかわいかったんだな……」

「ッッ!!!???」


床に手をついて這うようににじり寄ってきたマリクが、瑞香に迫る。

失礼な、という言葉が喉まで出かかったが、トロンと甘く座ったマリクの眼に釘付けになってしまい、うまく言葉が出てこなかった。


「な、なに言ってんの……んもう、さ、酒癖悪すぎ…っ!!」

「おーん……?
きしゃまもしゃけ飲んだのかぁ…?
顔が赤い、ぜぇ……」

「なっ……っさ、寒いからだもん!!
ていうかしゃけって何!?
シャケ飲むって、それもう熊か何かだよね!?」

「うるしぇえ……」


瑞香が軽口を叩いたところで、さらににじり寄ってきたマリクの腕が瑞香を掻き抱き、そのまま脱力した身体で瑞香を押し倒す。


「やっ……!! ま、マリクってば……!!!
ちょ、しっかりしてよぉ……!!!」

瑞香は顔を紅潮させたまま、バクバクする心臓を抱え上擦った声でマリクを諭しながら引きはがそうとする――


「しゃむいならオレがストーブになってやるよォ……」

「ッッだ、だだだめマリクぅぅ……!!!」

「えんりょしなくていいじぇ……
すき、だよォ瑞香〜〜……」

「あああもうばかマリク……!!!!」


自らもお酒を飲んだように頬を火照らせた瑞香の叫びが、冷えきった部屋にこだまするのであった――――





(うぅ……身体は暖まったけどこれはひどい……
ひどすぎる……!!)

(頭いてえ……酒……怖い怖い……)

(怖いのはマリクの行動だよ!!! ばかっ!!
何気にヒドイこと言われたしね!!
お酒がないと私なんて……うぅ……)

(お、落ち着きなぁ瑞香……
酒がなくても貴様は、アンタは――

悪く、ねえと思うぜぇ……)

(………………ばか)





END


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