湯冷め



もうすぐ冬がやってくる。
そんな頃。


「うぅ〜っ
最近、夜は寒くなったな〜〜!
……もう冬も近いかな!」


私は冷えた身体を震わせながら、パジャマ一枚で夜更かしをしてしまったことを今更ながら後悔する。

身体が冷えてきているのはわかっているのに、パソコンに向かうとなかなか離れられなくなってしまう自分の性質が悔しい。


お風呂場からはマリクがお風呂に入っている音が聞こえてくる。
何だかんだで彼もなかなか夜更かしさんだ。

付き合いきれない、とため息をつき素早くベッドに潜りこむ。

今日は寒いから毛布を出してみたが、正解だった。

毛布のぬくぬくとした感触に、すぐに睡魔が襲ってきて――
私はいつの間にか、眠りに落ちていったのだった――


――マリクの夢を見た。


マリクとただ、じゃれ合っている夢――


こんな夢を見るなんて、私ってばどうかしてる……何やってんだろう……


しかし、触れたマリクの身体の感触は、やけにリアルで――


あれ――――??


「ッッ!!!??」

「ううぅ〜……
クソっ、寒いぜぇ〜……うううっ……!!」

「な!」


モゾモゾと蠢くリアルな感触に目を覚ましてみれば、紛うこと無き本物のマリクがベッドの中に居て。


長身を縮めてぶるぶる震わせながら、私の背中に張り付いていたのだった。


「マっ、マリク……!?」


焦って振り向き思わずベッドから身を起こそうとするも、褐色の腕に胸のあたりを抑えつけられて起き上がることは叶わなかった。

寝転んだままマリクと向かい合う形になり、あまりの近さに心臓がドキドキと自己主張をし始める。


「ちょっ……」

「寒いんだよ瑞香……!!!

風呂に入ってる時は暑かったんだがなァ、上がって時間が経ったら寒くて死にそうになっちまったんだぜぇ……!!」


マリクはどさくさに紛れ、寝たまま顔を私の胸にぐりぐりと押し付けながらぼやく。


「ばっ……ばっか……!!
湯冷めしちゃったんだよそれ……もう……!!
お風呂から上がったらすぐに身体拭いて暖かくしないと風邪ひくんだよ……!?
大丈夫……?」

「ククッ……瑞香はあったかいぜぇ……」

「んっ、やだ! そんなに顔押し付けないでってば……!」


気付けば私の身体はマリクの両腕にがっちりと捕らえられ、絡められた脚のせいで振りほどくことも出来ず、マリクの半乾きの金髪が顔を撫で――

ひんやりとした鼻が首を掠めると、次いで温かい唇が首筋に落とされるのだった。


「ま、マリクってば……やめ……」

「あったけえ……いい匂いがしやがる……」

「え……? やだ……」


身体を通して伝わる冷気は、マリクの身体が冷え切ってしまっていることを示していて。

冷えた身体に抱き着かれるのは決して良い感覚ではないはずなのに、どういうわけか――

この寒さに震える存在に、何とかして自分の熱を分けてあげたいという気持ちになってしまうのだった。


「しょうがないなぁもう……
ほら、温めてあげるからくっついてて良いよ!」

「フフン……」


胸の中で猫のように身じろぐ姿はとても愛おしくて。

私は苦笑いをしながら軽くため息をつくと、布団からゆっくり抜き取った腕で、マリクの頭をそっと撫でるのであった――――





(何だかんだでけっこう可愛いところ多いよね)

(ククッ……こうなっちまったらあとはどうなるかわかってんだろうなァ……?)

(え、)




END


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