しんしんと冷える夜。
「さむい……さむい……!!」
あいにく電気毛布も湯たんぽもなく。
床から噴き上がる冷気に当てられたベッドは室温とほぼ同化し、身体を潜りこませても当然すぐには温まらないのだった。
無情にも冷えきったベッドの中で、私は身体をただ震わせ続ける。
布団を被り小さく丸まって、手と足を擦り合わせて。
我慢していれば、そのうち暖まるはず――
そう信じながら私は、意識を眠りの中に沈ませようと目を閉じたのだった――
まどろみの中。
無意識にふと寝返りをうってみれば、肩口から忍び込む冷気。
(さむ……っ!!!)
思わず身震いし、布団を引っ張って頭を覆う。
しかし、いくら身体全体を潜り込ませてみても、全身を支配する寒さの気配は残ったままなのであった。
おそらく、あと毛布一枚でも足せば、この状況は変わるのだろう。
しかし中途半端に意識は朦朧とし、今からベッドから抜け出て毛布を調達しに行くなど、考えただけで背筋が凍りそうになる。
仕方ない……
そう自分に言い聞かせ、また目を閉じる――
(さむい……さむいなぁ……
うぅん……さむい……うん、あ……あったかくなってきたかも……)
頭の中をぐるぐる巡るぼやきは、おそらく夢のようなものだったのだろう。
事実、私は気付かなかった――
ベッドの中に、いつのまにかもう一つの体温が潜りこみ、そして、蠢いていたことなどは――――
もぞり。
(え……)
明らかに自分とは違う何かの存在をベッドの中に感じ、一瞬にして眠気が吹っ飛んだ。
身を捩って確かめれば、腰あたりにしがみつく暖かいモノ。
もぞもぞと動きながら、「ん……」と漏れた僅かな声……
そして、慌てて腕で作った布団の隙間からフワリと香る、慣れた匂い。
もはや疑う余地のない存在をそこに認めた瞬間、心の温度が一気に上昇していくのを自覚したのだった。
「マリク……!?」
僅かな声で呟いてみれば。
「寒い……隙間作るんじゃねぇ……」
ベッドの中でもごもごとくぐもって発せられた声が、やがて観念したようにもぞりと枕の方へ上がって来る。
「寝ちゃってた……全然気付かなかったよ……
って、そうじゃなくて……!
なんでマリクがベッドに居るの……!?」
「ククッ……いいじゃねぇか……
どうせ寒くてたまらなかったんだろ……?
チ……、冷たい身体にしがみついてたらこっちが凍っちまいそうだよ……」
鼻を鳴らしながら暗闇の中でぼそぼそと喋るマリクの声が、眠りの世界から帰ってきたばかりの自分の耳を心地良く撫でる。
「……冷たい身体でごめん……」
釈然としないままそっと身体を離そうとすれば、そうじゃないとばかりに腰に手を回されて引き寄せられる。
「瑞香」
条件反射のように心臓がドクリと高鳴り、思わず逃げるように布団から顔を出して枕を整え横向きになってみれば、同じく布団から顔を覗かせたマリクが暗闇の中でじっとこちらに向かいあったのだった。
「……狭くない……?」
寒い空気に顔を晒しているのに、頬はどういうわけか熱を持ちはじめ、私は恥ずかしくなって視線だけをマリクからそっと外した。
だが、こちらの問いに答えるかわりにマリクはさらに身体を密着させ、腰に回した腕でするりと私の背中を撫でる。
「ちょ……」
抱きしめるように身体を包む腕に焦っていると、その手がもぞもぞと寝巻の裾から侵入し、素肌の上を滑っていったのだった。
「ッ……!」
予想外だったマリクの手の暖かさに思わず身震いする。
ゾクゾクと背筋を駆け上がった感覚は、伝わる暖かさに驚いたのか、それとも別の……
「……ククッ」
「マリクあったかすぎ……!」
僅かに肩を震わせて嗤うマリクに思わずそう言って目を瞑ってみれば、もぞりと動いた体温にそっと唇を塞がれたのだった。
「んっ……」
遠慮なく侵入してくるマリクの唇はやっぱり暖かくて、身体の芯に火が灯る。
「冷てぇ……」
全身を撫で回すマリクの手と触れ合う肌が、マリクの体温を私に伝え、じわじわと身体が暖まっていくのを実感する。
心地良くて、嬉しくて、身体に馴染んだマリクの体温。
暖かいマリクの身体と、少しだけ冷たい私の身体。
二つの異なっていた体温がゆっくりと、同化して、混ざりあっていく――
おなじ体温で一つになった温もりはやがて、どちらのものかわからずにただ、溶けあっていくのだった――――
(暖めてくれてありがとうマリク……!!
……でも、次から普通に寝たい)
(普通ゥ……? どういう意味だ……?)
(いや、だから、その……、あの)
(至って普通じゃねぇか……
何が嫌なのかねぇ……)
(あ、だから……もう!!
変なコトせずに普通に一緒に寝たいって言ってるの!!
あッ……、っ……!)
(ハハッ……! 素直なのは嫌いじゃないぜぇ……)
END
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bkm