「きれいだね〜〜!!
やっぱり春は桜だよね!!」

「サクラ……
この木……、の花か?」

「そうそう!!
日本の春の風物詩なんだよ!
春になると、こうやって綺麗に咲くの……!

お花見っていって、花を見ながら楽しく過ごす人達も多いんだよ……!」


桜並木の下。

闇のオーラを発するマリクと、咲き誇る桜のコントラストはこの上なく違和感を醸し出していて、私は思わず微笑んだ。


「ふぅん……花なんか見て何が楽しいんだかねぇ……
おめでたい連中だなぁ……

って貴様……、何を笑ってやがる……!!」

「えっ、あ、何でもないよ!!
桜の下に立つマリクには目茶苦茶違和感があるとかそんなことは微塵も……!!」

「きしゃま………」

「わわ、ゴメンなさい!!
や、ごめんてば〜!!」


ただでさえ眠そうな眼を更に細めて、ゆったりとした足取りでこちらに近づいてくるマリク――

マリクを怒らせてしまったと思い、私は肩を竦めて身体を強張らせた。

マリクの腕が伸び、こちらを――――


ふわっ。


「……!?」

「…………

この桜とやらの花びらか……?
頭についてたぜぇ……」

「っ!!」

そう言いながら、私の頭に手を伸ばしたマリクの眼は真っ直ぐにこちらを射抜き――

不覚にも、その眼差しに心臓が跳ねて呼吸が止まる。


「どうしたぁ……?」

「っ、あ、なんでもない――
……あ、マリクの頭にも花びらついてるよ」


そっとマリクの頭に手を伸ばし花びらを取ると、ふわりとした髪の感触が手の平を撫で、じわりと心に熱が生まれた。


「………」

何となく、伸ばした手を離したくなくて――

そのまま、マリクの逆立つ髪を、流れに逆らわないように撫で……、指先でそっと、ピアスの揺れる耳をなぞる――


「随分と積極的じゃねえか瑞香……」

「っ!! あ、つい――」

我に返り、咄嗟に引っ込めようとした手をマリクに掴まれる。

「ご、ごめん……、なんか、その……」

「触りたきゃ好きなだけ触りなぁ……
そのかわりこっちも、好きなようにさせてもらう……!!」

「え……」

ぐい、と手を引かれ、バランスを崩した自分の身体がマリクの腕の中に倒れこみ。

顔を上げ、ちょっと、と抗議の声をあげたところで――


重なった影が、続きの言葉を塞いだのだった――







(イメージ違うよね……やっぱり……)

(おーん……? まだ言うか……?
貴様もこの花みたいに散らしてやろうか……?)

(わーわーごめんなさい!!!
でも、マリクと一緒に桜を見られて嬉しかったよ……!)

(そうかい……
まあ、アンタとなら悪い気分じゃねえぜ……)




END


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